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キング・クリムゾン

2017-11-17 13:44:33 | 日記
キング・クリムゾンは1968年に結成したイギリスのロック・バンドである。ピンク・フロイド、EL&P、イエスと共にプログレッシヴ・ロックの四天王と称されたほど、日本では昔から人気が高い。私はこの4つのバンドの来日公演はどれも体験済みなのだが、ピンク・フロイドとイエスが 1 回、EL&P は3 回、そしてこのキング・クリムゾンには2015 年でのライブ鑑賞も含めて計5 回と一番多く足を運んでいる。多分、他のジャンルのミュージシャンのコンサート歴も含めて、キング・クリムゾンが最多だろう。

理由は、やはり音楽そのものが抜群に素晴らしいことなのだが、メンバー構成が変わることによる音そのものの清新さやダイナミックな変化も大きな魅力である。つまり常に現在進行形の編成がベストと思われる音楽活動を続けてきたわけである。そして演奏技術が相当に鍛錬された高度なものだということも述べておきたい。また現編成のフォーメーションも独特でステージ前列にドラマー3人が陣取っている。通常はあり得ないセッティングなのだが、実際にライブ体験するとその迫力に圧倒される。
2015 年には約12 年ぶりの来日公演も果たしており、東京、大阪、高松、名古屋を回り、大盛況のうちにツアーを終了。四国の高松にも訪れたのは意外だと見る向きもあるだろうが、実はキング・クリムゾンは 1981 年の初来日以降、地方公演もコンスタントに組んでいた。北陸の新潟、九州の福岡、東北の仙台、さらには北海道や広島、長野も回ったことがある。この辺りは日本のファンに対する優しい配慮だと解釈したい。

今年はアメリカ合衆国で大規模なライブツアーを敢行中で夏には西海岸を周り、現在は東海岸を移動中である。そして嬉しいことに、どうやら来年にはまた日本を訪れてくれるらしい。平均年齢が高いこのバンドのメンバーはロバート・フリップとトニー・レヴィンが既に古希の高齢だが、今後も健康には十分留意していただきたい。

以下はスタジオ録音された代表的なアルバムである。

「クリムゾン・キングの宮殿」(1969)
「ポセイドンのめざめ」(1970)
「リザード」(1970)
「アイランズ」(1971)
「太陽と戦慄」(1973)
「暗黒の世界」(1974)
「レッド」(1974)
「ディシプリン」(1981)
「ビート」(1982)
「スリー・オブ・ア・パーフェクトペア」(1984)
「スラック」(1995)
「ザ・コンストラクション・オブ・ライト」(2000)
「ザ・パワー・トゥー・ビリーヴ」(2003)

私が一番好きなアルバムは「太陽と戦慄」である。理由はこのアルバムにしか参加していないジェイミー・ミューアという非常に個性の強い打楽器奏者の存在だ。全てのスタジオアルバムに参加しているのは、リーダーでギタリストのロバート・フリップだが、音楽を創造する上での、音楽そのものに生命があり音楽家は神の共鳴版のような存在に過ぎないという信念をバンドに吹き込んだのはジェイミー・ミューアその人である。ただキング・クリムゾンは元々、ロック史に名を刻んだデビューアルバムで伝説的な名盤「クリムゾン・キングの宮殿」からフリージャズのような即興演奏を取り入れてはいた。この為、既に初期から音楽の自律性を信じながら演奏する姿勢は顕著であった。それゆえロバート・フリップにしてみれば、ジェイミー・ミューアは自分達が信じて歩んできた道を、力強く肯定し勇気づけてくれる新しいメンバーの一員であったに違いない。そしてこの「太陽と戦慄」で繰り広げられる独特な音世界は、その響きが西洋というよりは東洋に近い印象を受ける。中近東からインド、中国、朝鮮半島を経て、何と日本の古代を連想させる雰囲気の音の調べさえ感じるくらいだ。特に「太陽と戦慄part1」は静と動が極端に入り乱れる曲だが、後半部の静的な演奏では日本の四季を彩る春の桜や秋の紅葉、冬の優しく降り積もった雪といった穏やかな風景が脳裏に浮かんでくる。このアルバム1 枚を残してジェイミー・ミューアはバンドから去ってしまうわけだが、脱退の理由は宗教への傾倒とも云われている。また彼がキング・クリムゾン以降、音楽の世界からは身を引き画家になったという話も聞く。どうやら芸術的な感性の域では、歴代のミュージシャン達の中でも抜きん出ていたのは事実のようだ。

私がキング・クリムゾンを初めて聴いたのはセカンドアルバム「ポセイドンのめざめ」だ。この作品には「平和」という短い曲が、最初と中間と最後に収められている。短い曲だが、発表当時はベトナム戦争に対する反戦運動が若者を中心に世界的に渦巻いていた時期であり、多少なりとも時代的潮流の影響を受けた反戦的な意味合いの強い詩のイメージを曲から感じる。しかしアメリカ合衆国政府に猛抗議するような強烈なメッセージではない。どちらかというとボブ・ディランの「風に吹かれて」に近い、詩の中に戦禍への嘆きが淡々とまた切々と表現されている内容である。そして優しく儚げな歌声には普遍的に平和を希求する願いが込められている。「平和」の作詞はオリジナルメンバーのピート・シンフィールドで、彼はバンド結成当初から作詞と舞台照明や美術を担当し、「クリムゾン・キングの宮殿」から「アイランズ」まで在籍。メンバーの中では唯一の楽器を演奏しない人物であった。キング・クリムゾンの脱退後は、世界的な作詞家として成功し、歌姫セリーヌ・ディオンに歌詞を提供したことでも有名である。
2015 年に私が観たコンサートでは、この「平和」が演奏された。しかも歌の冒頭では日本語で披露されている。以下は歌われた歌詞の日本語の部分である。

「平和は海と風。平和は鳥が歌う」

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