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『やさしくキスをして』

2006年03月15日 | 映画
2004年/イギリス/ベルギー/ドイツ/イタリア/スペイン/104分。『ケス』(1969年)という少年と鳥の映画に出会ってからずっとケン・ローチ監督の作品が好きで、見てきた。甘いタイトルにはちょっとびっくり。見終わった後はやっぱりただのラブストーリーには描かなかったと納得した映画。

スコットランドのグラスゴーのお話。
パキスタン移民2世のカシム(アッタ・ヤクブ)は妹のタハラをカトリック高校に迎えにいった。下校時、タハラは男子生徒にからかわれたことに腹を立て、学校に逃げ込んだ彼らを音楽教室まで追いかけていく。そのとき音楽教室においてあった楽器を壊したことから、音楽教師のロシーン(エヴァ・バーシッスル)と知り合う。二人は急速に近づき、一緒に暮らすことを意識するようになったが、カシムにはすでに両親が決めた母親の姪に当る婚約者がいた。ロシーンに「あなたは何でも両親のなすがまま。それとも自分の意思で何かしたことある?」と激しく批判される。両親を裏切れないと悩むカシム・・・

パキスタン移民社会が一つのコミュニティを作り、助け合いだけではなく、宗教も絡んだお互いの縛りの中で生きているさまが描かれている。イギリス社会に生きていても、やはり差別が存在するからだろう。カシムの周囲はあんな白人女は飽きたら捨てるんだぞ、それよりも家族が大事だろうとひきとめようとする。このあたりは愛があればなどという一刀両断が通じないほど、切実な彼らの歴史が描かれている。

インド独立後、イスラム教徒はヒンズー教徒と袂をわかってパキスタンに移住した。1500万人の大移動だった。そのとき、8歳のカシムの父さんの双子の弟は誘拐され、それ以来あっていない。イギリスに渡って40年、今更彼らは故国には戻れない。ここで生きていくほかはない。だから異質なものを排除してコミュニティを守ろうとしてきた。

ロシーンはおそらく差別の心を植えつけられずに育てられたのだろう。だからこそ、カシムを愛情の対象として純粋に見ることが出来た。しかし、現実にはさまざまな障壁があった。カトリック高校ではスコットランド教育法まで持ち出して説教する司祭がいる。ロシーンは結婚の前歴があり、しかも他の男と暮らしていることが知れていた。正教員になるためにはこの司祭の資格証明書のサインがいるといわれる。

イスラム社会ばかりか、ロシーンの住む社会も実は保守的な高い障壁があったのだ。しかし、それでもロシーンの能力を評価して雇うといってくれた上司がいた。ところが教育委員会から横槍が入り、結局無宗教の高校に行けということになる。公立高校は100%税金でまかなわれているんだから、と怒っていきまいていたロシーンもこれにはどうしようもない。

ロシーンの自由な精神と行動力も押しつぶされるかというとき、末娘のタハラが強力な助っ人になって、カシムの背中を押す。地元のグラスゴー大学ではなく、エジンバラ大学へ行って、ジャーナリストになりたいと両親に反旗!を翻す。推薦入学の面接までこっそり受けて、資格を取り付けていた。次の世代にロシーンより1歩先を歩む女の子がいたのだ。タハラがいる限り、前途多難な二人もきっと乗り越えていくだろうと思わせる。

彼女の教室での大演説のシーンが素晴らしい。
西欧社会は50カ国10億人のイスラム教徒を一緒くたにしている。国家によるテロを排除した西欧社会のテロリズムの定義には反対。国連憲章を破った英米が優れているという考えにも反対。なにより西欧社会がイスラム教徒を単純化するのに反対。

私はグラスゴー生まれでイスラム教徒の10代の女の子。誇り高い文化のミックス。みんなで偏見に立ちむかいましょう!最後にレンジャースのサポーターといって、制服からユニフォーム姿になる。そこでどよめきと笑いと拍手がおきる。すかさず俺はセルティック・ファンだーという男子生徒の野次が飛ぶというおまけまでついた。

この映画はロンドンでのバス爆破テロの前に制作されたのだろうか。イスラム教徒はこの映画の頃より一層排除され、差別されているのでは。などとラブシーンを見ながら、現実世界を思い浮かべてしまった。ロシーンのエヴァ・バーシッスルが実に自然に演じている。その辺にこういう音楽教師がきっといるに違いないと思うほど、のびのびした演技が印象的。










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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
タハラ (kimion20002000)
2006-03-21 13:08:00
TBありがとう。

僕も、タハラがこの先を、切り開いていく存在だと、監督がメッセージしているように思いました。
高校の教室のシーン (henry)
2006-03-21 21:07:15
コメントをありがとうございます。

タハラが高校の教室で先生や生徒たちに長く訴えるシーン。

あれが監督のメッセージのすべてで、このスピーチを入れるためにラブストーリーを作ったのではと、今となっては思います。

あれだけでは余りにもストレートすぎるので、ということで。
TBさせていただきました~ (カオリ)
2006-11-20 19:12:42
こんばんは。
タハラの冒頭の言葉、すごいですね。
確かに、「イスラム」を何故一緒くたにするのかと。
彼女のジャーナリズムになりたいという信念をも強く表していました。

最後はやさしいキスシーンで終りますが・・・この二人が、老いてもなお一緒に要られるような社会になっていたら、と祈りたくなりました。
お久しぶりですね (henry)
2006-11-21 11:48:25
コメントとTBありがとうございました。
お久しぶりですね。『セントラル・ステーション』のときに、おいでくださいましたね。そのせつは、ありがとうございました。
タハラの言葉には監督の強い気持ちが込められていて、迫力がありましたね。カオリさんとおなじく、主役の二人がいつまでも仲良く暮らせるように、と祈ってしまいます。
新しいケン・ローチ作品『麦の穂をゆらす風』はいつ見られるのかと楽しみにしているところです。
コメントありがとうございました (いけこ)
2007-06-15 21:10:37
コメント&TBありがとうございました。
ケン・ローチ監督の作品は明確な答えを出さずに
見るものに答えを委ねるような余韻を残すところが好きです。
「麦の穂をゆらす風」はご覧になりましたか?
私は先日ようやくDVDで見ましたが、こちらも良い作品でした。
こちらこそありがとうございました (henry)
2007-06-16 19:16:41
私も大好きで、ケン・ローチ監督の映画は殆ど見ています。
「麦の穂を揺らす風」は映画館にも見に行き、レンタルでもDVDを借りてきているのですが。書こう書こうと思っているうちに日々が過ぎてしまいました。

映画の中で植民地ともいえる国に対する目というのは、内包する差別とでもいうのか。征服者に組する自分たちへの自己批判ともとれるものですし。

もうひとつは彼らが同胞たちで殺し合いを始めるという、人間のどうしようもない、解決できない問題にも目を向けています。

ただこちらは、解説などを読むと最後のところで希望のともし火を見出しているというような描かれ方という内容でした。

この点ではもう少し悲観的で、イラクの現実などを見ると、容易に希望を見出すというようなところへは到達していないのではないかというのが私の考えですが、いけこさんはどう思われますか。

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