山茶花を拾ふ日溜り拾ふごと
甲高き声転てしや老の春
舞ひ降りて土に溶け込む寒雀
節分や生れし日の斑の濃き淡き
ものの芽の膨らむ音を尋ねけり
薄ら氷の底這ふ水の炎かな
春泥を蹴立てし軍鶏の胸高し
長閑さや羽虫来りて飛び去りぬ
蛇穴を出でて確かむ己が脚
田起しの手は休まずに道案内
始球式山なりの先かぎろひぬ
草青む齝む牛の頤太し
目高あぎとふ黙しつ妻は茶を淹れる
新緑の葉擦 . . . 本文を読む
痩身の妻引きつれて訪ふ医師の隠し事なき告知を聞きぬ
吾もまた妻も予期せし事なれば淡々として受け入れむとす
克明に病状告げる若き医師の真つ直ぐな目に希望託せり
階段の上にたぢろぐ老妻はリハビリ強ひる吾を睨めり
手を添へる吾を払ひて歩み行く覚束無みな妻の歩幅よ
リハビリの日課を終えて立ち停まる彼の肩幅の面影の無き
歳晩に試験外泊得し妻は吾より速く階段昇る
還り来し家のあちこち立ち入りて . . . 本文を読む
ライバルの不幸を気持ちよく宥め
湧く妬み噛み砕いてる親不知
図に乗って高みに登るうそ寒さ
世の中を際どく渡るヤジロベエ
傷跡の忘れた頃に疼く夜
口下手になぜか疲れる口上手
穿ち好き千枚通し研ぎ直し
さり気なくチラつかせてる向う疵
哀しみを笑顔で語る耳飾り
何枚も張り替えている面の皮
破れ鍋の蓋に甘んじ五十年
だんまりを決めて俄かに知恵者振り
卒業式スッカラカンの筒の音
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普段は固定電話には出ないことにしている。と云うのはここのところ「オレオレ電話」が矢鱈に掛って来るからである。まあ、あれに引っ掛かるほどの間抜けではないと自負? しているが、先日、実に典型的な「劇場型」に遭遇した。連れ合いは出掛けていて、一人だった。まず、警察(と名乗る男)から電話があり、「最近、そちらの地区で引ったくり事件が多いので注意して下さい」と親切な内容。私は兎も角、連れ合いに注意しようと「 . . . 本文を読む
姉が逝って2か月になるが、時折ふっと思い出して目の奥が疼く。5歳違いと云う歳の差はそこそこの共通した記憶があるもので、他の兄らとの親しさとは違う。その姉が息を引き取った日に書いたと思われる「封筒」が私の日記帳の間に挟まっている。『遠い所ありがとうございました 皆さん身体に気をつけて下さい 乗り物代に使って下さい 姉の名』と上書きにあり、数万円が入っていた。それは姉を見舞って、小康状態を確認して帰る . . . 本文を読む