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村 (第3章 1)

2017年06月10日 | 小説

   東京から数百キロ離れ、日頃は平穏な山奥のY村で、来栖の黄道の会の入会の儀式を皮切りに、いくつかの出来事が連続して発生し、混迷を極めた日――ついには、欧開明が警察から提起されたいくつかの案件に対する事情聴取のため、任意同行を求められ、警察に出頭した日から一夜明けた翌日の月曜日、来栖は分校で教壇に立ち、自分が受け持つ高学年の複式学級で、学年の違う児童たちを教えていた。
   やはり、友紀は体調が悪く、その日は欠勤するとのことで、低学年の複式学級を補助教員の李玲玲が一人で受け持っていた。
   来栖は昨日遭遇したことがあまりにも強烈で、印象深かったので、昨夜は興奮気味で、なかなか寝付くことができず、朝方に短い睡眠が取れただけで、教室で教壇に立って、児童に算数の問題の説明をしているときも、ぼおっとしてしまい、ふとわれに返ることもあった。そうしたとき、説明を受けていた学年の児童たちは来栖が眠りから覚めるよう、しきりに囃し立てた。複式学級なので、同じ教室で、問題を解く、自習時間に入っている別の学年の児童からは「うるさい」とクレームの声が上がっていた。
   たいへん意外なことに、東京へ行っていたはずの八雲が、大木と共に、黄道の会の幹部や弁護士と思われる人も含め、総勢十数名を引き連れて、分校の廊下に現れた。
   来栖は驚いて、授業を投げ出し、廊下に出て行った。
「来栖くん、あとから桐野正導師も来られるが、二階の視聴覚室を貸してもらうよ。村役場や本部には、裏切り者のスパイもおるかもしれんのでな……あそこは閉め切れば、防音にもなっとるし……」大木はそう言って、来栖に教室に戻るよう促した。
「……はい。あれっ、八雲さん、東京へ行ったはずでは……」来栖が八雲を見て驚いて、言った。
「……八雲くんは今日、朝いちばんの新幹線で戻って来たんだよ。弁護士の先生を連れてな。最近、S(H県の県庁所在地)だけではなく、N(Y村の隣り町)にも新幹線が停まるようになったのでな……」来栖がふと見ると、最初は気づかなかったが、その場に来ていた、村の長老の猪田が八雲に代って答えた。
   八雲はまるで疲れた様子も無く、来栖を見て、真面目過ぎて滑稽さを感じさせるような人物を見たかのように、ちょっと憐れむような笑いを顔に浮かべた。手にはペットボトルのお茶が何本も入った段ボール箱の上に会議で使う資料らしき書類をのせたものを抱え、黄道の会の“雑用係”を自称する大木と同じで、八雲も相変らず“雑用係”だった。
   いつの間にか補助教員で、黄道の会の第一層の指導三級でもある李玲玲が、来栖の傍らに現れた。
「……来栖先生、今、低学年はお絵描きをしています。わたしも会議に出なくてはいけません……三輪先生は午後から来るそうです……あとはよろしくお願いします……」
   玲玲はそう言うと、八雲や大木たちのあとについて、二階の視聴覚室へ向かって行った。
   来栖は午後から友紀が来ることを聞いて、少しは安心したものの、高学年の男子児童の中で喧嘩をするものがあったかと思ったら、今度は低学年の児童の中ではいじめられたと来栖に訴えてくる女子児童もあり、低学年の教室と高学年の教室の間を一人で右往左往して、たいへんなことになった……
   お昼になると、手配をしてあったらしく、村に一軒しかない食堂兼仕出屋が弁当を運んできたので、来栖は二階の視聴覚室へ案内し、弁当を運ぶのを手伝った。仕出し屋といっしょに二階に上がった来栖は、視聴覚室の扉をノックし、中から応答があってから、扉を開けた。その刹那は、八雲が一人でしゃべり続けていたようで、皆がそれを傾聴していたが、来栖が入ると、八雲はぴたっと口をつぐんで、皆に昼食を取るよう、呼びかけた。
   一階に戻ると、最近では自炊するようになった来栖は、いつものように自分の持参した弁当を取り出して、より手のかかる低学年の教室へ行き、児童たちと会話しながら、いっしょに食べた。
   昼休みの時間も終わりに近づいたころ、校庭で児童たちといっしょに遊ぶ来栖の前に自転車に乗った友紀がやっと現われた……

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