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村 (第2章 10)

2016年10月08日 | 小説

   来栖が黄道の会に正式に入会したのは、Y村の小学校の分校の開校式、始業式、入学式が行われ、黄道の会の施設が警察の捜査を受けたあの日から数日経った、日曜のことだった。その日は大導師の欧開明の誕生日にあたり、会員たちから個人崇拝をされることを嫌う欧開明だったが、この彼の誕生日については、会員の皆が黄道の会の幾つかの祭日の中の一つとして、欧開明のあまり眼に付かぬところで、ひっそりとお祝いをするのが慣わしであった。
   黄道の会では、通常の入会の儀式は、欧開明を除いては、最も高位の人間である、桐野富士夫が主催することが多かった。桐野は、大導師は欧開明一人だったが、正導師十八名の中で、その上位の大導師の王開明に次ぐ、筆頭の正導師と言う位づけだった。その桐野が来栖の入会を主催することになった。
   来栖の黄道の会への入会の儀式は、通常「五台山」、「峨眉山」、「天台山」等、中国の霊峰の名が多い、大講堂の数ある部屋の中でも特に異彩を放つ、「李賀」の間で行われた。「李賀」とは「李白」や「杜甫」と同じ唐代の詩人だったが、特に死者のおどろおどろしい世界を唐詩で表現した「鬼才」と評される短命の詩人であった。この「李賀」の肖像画が「太陰太極図」のマークといっしょにこの「李賀」の間の壁にかけられ、その前には儀式を行う、花がたくさん供えられた祭壇があった。その絵は後世に伝わる、ややデフォルメした、中国の昔の絵ではなく、実際の本人を見て、描かれたかのような、その人の人間としての存在が実感できる、リアルな絵で、少し気味の悪さを人に感じさせる、猫背の痩せて青白い青年の肖像であった。
「源体宇宙論」では、「源体」と「天道」は厳密には異なるが、地上の「黄道」に作用するものとしては「源体」も「天道」と同意義に扱われる。「天道」により、地上の人間が動かされた結果、その動きの軌跡は「黄道」となって現われ、「冥道」はその「黄道」の軌跡が地下に反映された世界である。「李賀」はこの「冥道」への入口へと誘う、「冥道」の具現者である。そして、それは最初は「気」をまるで持たない新入会者がその後の修行により、「気」を蓄えていって、「冥道」を通ると、地上の「黄道」に出やすいと言う理由で、新入会の者は、「黄道の会」の主な祭壇である、天道を具現する、「鳳凰」の壇ではなく、「閻王」の壇、または「李賀」の壇で入会の儀式を行う。
   来栖の入会の儀式に集まったのは、先ず来栖本人、桐野富士夫、村長の大木、猪田、北里、原良で、それに友紀も参列していた。八雲はいなかった。
   まず最初に全員で左手を挙げ、宇宙の源体に敬意を表す言葉を唱えた。
   一呼吸間があったあと、儀式が始まった。最初テープ録音の鐘太鼓の壮麗な音楽で始まり、着物のような道服をまとった桐野が読経を始め、それが二十分くらい続いた後、最後に「来栖信一」と、新しく入会する人物の名前を大きな声で唱えた。
   非会員だった来栖は「黄道の会」の初級者対象の学習会にも参加し、会に対して、理論的な世界観の新興宗教のイメージを強く感じていたにもかかわらず、それとは対極の、伝統的な、民族色豊かな、呪術性の強い儀式に参加して、不思議な感覚を持たずにはいられなかった。やがて、儀式が終わった。
   そのあと、皆は「李賀」の間を出ると、別室に設けてある丸テーブルの食卓についた。そのとき、来栖は自分の入会の儀式のために、一匹の子豚が生け贄として殺され、「天道」に捧げられたと桐野に言われ、衝撃を受けた。
   そう言えば、桐野は儀式において、手元の何かを動かしているのが来栖にはわかったが、その時は、何をしているのかはわからなかった。それは後から聞くと、電気ショックで気絶していた子豚をナイフで屠ったとのことだった。また、通常、生け贄は鶏が多いが、来栖は将来を嘱望される人物として、特別に子豚が生け贄となったとのことだった。
   やがて皆のコップにビールが注がれ、ビールがゆきわたると、関西なまりの大木がコップ挙げて、乾杯の音頭を取った。
「来栖信一くん、黄道の会によう入会してくれました。入会おめでとう!来栖くんの今後ますますの精進と黄道の会への貢献を祈って、乾杯!」
   皆が口々に「乾杯!」、「乾杯!」と言い、ビールのコップを空けた。
   やがて、さきほどの生け贄が主菜として、中華料理の子豚の丸焼きとして姿を変えて、皆の前に現れたので、歓声が上がった。

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