小説です

すごい小説を書くことを目標に日夜精進しています。



村 (第2章 11)

2016年11月05日 | 小説

   大講堂の調理室には、窯があるらしく、子豚の丸焼きはうまく料理されていて、パリパリの皮の食感もよかったが、味付けされた、肉の味もたいへんよかった。
「……うーん、実にうまい」舌鼓をうちながら、体格のよい、大柄な北里は来栖のコップにビールを注いで、来栖の顏の表情をうかがいながら言った。
「来栖くん、きみがこのY村に来てから、わが黄道の会の会合や学習会にも参加し、修行のトレーニングにも参加するようになったことなど、今日、儀式の前に、入会にいたるまでのいきさつや動機も聞かせてもらったが、今後の抱負も聞かせてもらえないだろうか?」
「……そうですね。ぼくはさきほども言いましたように、最初は抵抗があったのですが、三輪先生からも勧められて、欧開明先生の講話のテープを繰り返し聞き、学習会に参加したり、修行に参加するうち、自分の日頃の悩みや迷いが消えていき、人生に対して段々と前向きになっていくことを感じ始めました……」来栖は感慨深げに語り、なおも言葉を続けた。
「今日正式に入会したからには、日頃の学習や修業によって、更に自己の研鑽を進めて行き、自分だけでなく、他のまだ、黄道の会を知らない人たちにも広めていきたい、と思っています……」と来栖は締めくくった。
   皆が一斉に拍手をし、それがいっとき鳴りやまなかった。
   村の長老の猪田が言った。
「ちょうど二十一年前、わたしが入会したときもまさしく、来栖くんと同じだった。欧開明先生のお話を聞いて、一切の悩みが断ち切れ、突然、人生が明るく開けてきたように感じるようになったんだよ。それから、村の者、一人一人にわたしは黄道の会の教えを広めてまわったものじゃ……」
「……やはり言った通りだったでしょう。最初に会ったときから、来栖先生は会に入ると言ったのを覚えてますか?」原良はにやにやしながら、言った。
   来栖が立ち上がって、日本式に一人一人にビールを注いでまわるのに、先ず桐野の所へ来たが、ドアから一番遠い、上座の席に座る、ディベートの名人で理論家の桐野富士夫ではあったが、日常生活ではたいへんな無口で、必要なことを片言しか話さない男だった。
   桐野は黙って、コップを差し出し、来栖にビールを注がせると、微笑み、一言「おめでとう」とだけ言った。
   来栖は、猪田、北里、大木、原良の順でビールを注いでまわると、最後に友紀の前に来て、なぜか少し緊張しながら、ビールを友紀のコップに注ごうとしたが、友紀は手を振って、オレンジジュースが入った、別のグラスを手にしたので、席に戻った。
   村長の大木が口を開いた。
   「……では、今度は、本日の欧開明先生のお誕生日を祝って、乾杯といきましょう……」その言葉に応じて、皆はコップを挙げ、大木の音頭で乾杯をした。
   来栖は大木に尋ねた。
「欧開明先生は今日でおいくつになられたのでしょうか?」
「欧開明先生は今日で四十五歳になられたはずだが、お若く見えるので、信じられん、と言う人もおるようです」大木は答えた。
「では、欧開明先生がこの村に初めて来たときはまだたいへん若かったのですね?」来栖は聞かずにはいられなかった。
「今もたいへんな美男子だが、そのころは背の高い美少年と言ってよかった……この村の奥にある、白頸池のある鍾乳洞の中で起居をし、毎日、大自然界の「気」を体内に取り入れるための修行をしておりました。わたしらも欧開明先生のご指導で修業と学習をしておったが、その内、修行の方はおろそかになり、わたしは今の八雲くんと同じように雑用係になってしまいました……」大木はそう語ると頭を掻き、なおも続けた。
「もっとも、今、東京のFにおって、最近は滅多にY村に来んようになった、昔の発起人の鵬(ほう)さんが、黄道の会の組織を立ち上げてくれんかったら、今のようにはなってはおりません」
「……ほうさん?日本の方ですか?」来栖は初めて聞く名前にとまどいながら、思わず聞き返した。
「ほうさんの『ほう』は、元は黄道の会のマークにもなっておる、鳳凰の『鳳』だったそうですが、ご先祖が改められたそうで、月二つと鳥の鵬です。わたしと同じ関西人です……」大木は答えた。
   突然、ドアをノックする音があり、一呼吸置いて、相変らず多忙な様子でせわしなく、八雲が部屋に入ってきた。八雲は皆に一礼をすると、「村長、ちょっと」と大木に声をかけた。
   大木は八雲といっしょにあたふたと扉を閉めて出て行き、二人は廊下で何事か話しているようだったが、一、二分後、皆の前に戻ってくると、動揺を隠せぬ様子で皆に告げた。
   「皆さんに報告をします。たいへんなことが起きてしまいました……」

『小説』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 貴石 21 | トップ | 貴石 22 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。