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貴石 24

2016年12月31日 | 小説

   それは村木にとってはまったく寝耳に水の話だった。
   合弁会社の幹部は村木に言った。
「……これからこの合弁会社は変わります。私たちは筆頭株主を下り、外資の別の筆頭株主がこの合弁会社を運営します……村木商事の出資者としての最低出資金額を大きく下回る出資金は、日本市場の開拓のため、私たちの自社株の一部に含めて、金額を調整していましたが、それも今後は、合弁会社の新しい経営者へ自動的に譲渡されることになります。この件については、セルゲイを通じて、村木商事へ通知の手紙をすでに送りました」
「……では、このぼくはどうなるのでしょうか?このまま、貴石を作る仕事を続けることができるのでしょうか?」村木は心配になり、思わず問いかけた。
「……この件はすでに私たちは、新しい経営者に打診していますが、まだ回答をもらっておりません。しかし、新しい経営者は日本の別の専門の業者と取引があるとも言っていました……」幹部は続けた。
「……そうですか?お聞きしますが、新しい経営者とはいったいどこの国の何という人ですか?」村木は尋ねざるを得なかった。
「……あなたもご存知のサラの父親です。世界的に名の知られた宝石商で、国籍はイスラエルです……」幹部は答えた。
   合弁会社の幹部の話によると、まだ筆頭株主変更による経営体制の移行については、三週間後に正式な株主の会議を開いて、具体的な新体制、移行日程など、いろいろなことが決まる見込みとのことだった。
   村木の心は動揺していた。村木がこの地に戻ってきたのは、イリーナの誤解を解いて、イリーナとの仲を修復すること、それと今までうまくいっていなかった、貴石の製造をなんとか成功させて、それを軌道に乗せて、利益を得ることだった。
   ところが、合弁会社の筆頭株主の変更は村木商事及び村木自身にどのような影響をあたえうるのか、また、村木がこの地で継続して仕事ができるかどうかについては、まったく予測できない、未知の領域だった。
   村木は合弁会社の工場の現場に行き、サラを探した。
   サラはその時、村木の取り組んでいる価値の低い材料から貴石を製造する機械の作業ではなく、すでに確立された処理方法であり、大きな付加価値を与える、この合弁会社で独自に発展させた、元から色付きの天然物との判別が困難な、宝石の色付け作業を行っていた。
   久しぶりに村木に会ったサラは歓声を上げ、村木にケガの具合を尋ねた。
   村木はサラに頭のケガを含め、もう心配無いこと、また貴石の製造に挑戦するために戻ってきたことを彼女に伝えた。
   サラは自分の手にのせた1カラットもある、彼女が機械で色付けした、高価で取引されるはずのピンクのダイヤモンドを村木に見せた。
   確かにそれは美しい輝きを放っていたが、村木はそれを見て、大げさに驚いてみせ、サラの技術をほめたたえた。彼女は設備で色付けする前の別の原石も手に取り、色付け後の石と比較できるように村木に見せた。その差は歴然だった。
   村木は更に驚いたようすで、一日に何個くらい色付けするのかなどを彼女に聞いたが、現時点では、四~五個が可能とのことで、村木が最近知った、これらの宝石の価格の状況から言っても、末端の売値が日本円で数十万円の物が、色付き加工後、最高で数百万円にもはね上がるはずなので、じゅうぶん採算がとれることは明らかだった。
   村木はサラにサラの父親がこの合弁会社の現地法人の株を有償で譲り受け、近い将来、この会社の経営者となることを合弁会社の幹部に聞いたことを話した。
   サラはその話については、あまり詳しくはないと前置きをしながら、彼女は彼に何が知りたいのかを尋ねた。村木は単刀直入に、サラの父親がこの合弁会社の社長となったら、村木商事の出資はどのように扱われるのか、また自分は継続してこの仕事ができるのかどうかを知りたいとサラに言った。
   サラはとても聡明な女性らしかった。日頃、ヨーロッパやアメリカを行き来している、サラの父親が三日後に当地にやってくるので、村木に彼女の父親と会うことをすぐに提案した。

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