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村 (第2章 13)

2016年12月24日 | 小説

   来栖の黄道の会の入会の儀式とその入会を祝う宴会が散会となり、皆、席を立ち、それぞれの帰路についた。
   来栖がY村に来てから、黄道の会と一定の距離を置くこともなく、自然な成り行きで、入会したのは、同僚である、友紀の力が大きく作用したことは否めなかった。確かに友紀は心の底から欧開明を崇拝し、黄道の会の教義を強く信じていたので、他人に対してそれを感化する強い力を持っていた。
   その反面、来栖は教義をよく理解していたかと言うと、それほど理解していたとは言えなかった。しかし、彼はこの信仰を通じて、人生に深い意義を感じるようになり、また、この教団に属することが、自分にとっては精神的な強い安定感が得られるようにも感じていた。
   ケーブルチャンネルで、欧開明の緊急講話があったその日の午後から、Y村のほぼ全世帯とも言える、黄道の会の会員の家々では、各自の家にある祭壇の前で、黄道の会の祈祷の作法にのっとった祈りが始まった。それは皆、黄道の会の同志の無実が明かになり、白日の元にそれが証明されることが必ず訪れると信じて疑わない、その確信のもとに行われることは間違いなかった。
   来栖もぶな屋敷と呼ばれるアパートの自分の部屋に戻ると、黄道の会の入会に際して、前日大勢の人々がやって来て安置していった、小さな祭壇の前に坐して、祈祷を始めた。来栖にとっては、鵬役員も小野村正導師も面識がなかったが、欧開明が呼びかけたように、彼らの嫌疑がはれ、一日も早く家族の元へ帰れることを祈り、合わせて日頃の自己の願望も祈った。
   突然、ドアをノックする音がし、返事を待たず、カギをかけていなかったので、ドアのノブがまわり、来栖の部屋に誰かがなだれこんできた。
   それは来栖が心の奥で密かに恐れていたことことでもあったが、現われたのは、どこかで転んだらしく、ズボンの膝頭を汚した、病院の患者衣のような服の上からジャンバーをはおった、古敷のよしこだった。
「……わたしのダーリン、やっぱりここだったのね……」そう言うと、よしこは土足のまま、来栖の部屋にあがりこんだ。そして、来栖が身をかわす間もなく、よしこは彼に抱きついた。
「……会いたかったのよ……わたしのダーリン……くるすせんせ……」よしこは来栖の胸に顔をうずめながら、走ってきたのか、荒い息づかいで言った。
   開いたドアから、アパートのきしむ木の板の階段を駆け上る数人の足音が聞こえて来た。
「こっちだ!こっちへ行ったぞ!」と言う声と共に、濃紺の防災服のような服を着た男たちがこれまた土足で、来栖の部屋に上りこみ、よしこを来栖から引き離した。
「……ちょっと、やめてよ、放してよ……わたしはダーリンのところにいるんだから……」よしこは叫んだ。
   よしこの抵抗を物ともしない、二人の男に両腋をかかえられながら、よしこは部屋から連れ出されて行った。最後に来栖の部屋のドアを閉めにやってきた、一人の男が来栖に丁重に頭を下げて言った。
「申しわけありませんでした。被疑者を護送中、わたしたちのちょっとしたすきをついて逃げ出してしまい、ご迷惑をおかけしてしまいました……」
「……ひ・ぎ・しゃ?……」来栖が男の言ったこの言葉をオウム返しに相手に問いかけたのもつかの間、男は来栖の部屋のドアを閉め、大きな足音を響かせながら、階段を降りて行った。抵抗するよしこの甲高い声があたりに暫く響いていたが、やがて聞こえなくなり、バスのような大きな車両の走り去る音が聞えた。
   来栖の部屋をノックする音が聞こえ、来栖は立ち上がって、自分でドアを開けた。
   原良の顏が現われた。その背後には来栖に賄いをしてくれている三方(みかた)夫婦や、ぶな屋敷のアパートの住人たちの姿があった。
「いったい、どうしたんかね?古敷のよしこが上りこんできたようだが……よしこを捕まえて行ったのはあれは警察じゃなかろうか?」原良は問いかけるようにして来栖に言った。
「いや、ぼくにも何がなんだか、さっぱりわかりません。でも、よしこさんを連れて行った、あの男の人は、よしこさんのことを『被疑者』と呼びました。『被疑者』ってなんですか?」来栖は逆に原良に尋ねた。
「えっ、『被疑者』?……わしにもわからんけど……うん、それはもしかしたら、警察で使う『容疑者』のことじゃなかろうか?よしこが『被疑者』と言うことは……警察に捕まっていると言うことかの?」原良はどうも合点のいかない様子で言った。
   来栖と原良は顔を見合わせた。
   その時だった。大講堂の方角から、ラウドスピーカーで、夜七時半から、大講堂で臨時集会を開催するという内容の放送がY村じゅうに繰返し響きわたった。

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