礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

相沢事件軍法会議と二・二六事件

2017-02-24 02:12:02 | コラムと名言

◎相沢事件軍法会議と二・二六事件

 岩淵辰雄著『現代日本政治論』(東洋経済新報社、一九四一)の紹介を続ける。
 同書は、全九章からなる。二一日~二三日に紹介した「林と真崎」という文章は、第五章「齋藤・岡田時代」の最後に置かれている。
 第六章「二・二六事件」には、順に、「二・二六事件起る」、「相沢中佐の公判」、「時代の動く姿」という三つの文章が収められている。発表された順番は、「相沢中佐の公判」が最も早く、「時代の動く姿」が、そのあとだと思われる。まず、「相沢中佐の公判」から紹介してみる。
 ここで「相沢中佐」とは、一九三五年(昭和一〇)八月一二日の白昼、永田鉄山軍務局長を斬殺した相沢三郎中佐のことであり、「公判」とは、一九三六年(昭和一一)一月二八日から、第一師団司令部内で開かれた軍法会議を指している。とりあえずここでは、相沢事件の軍法会議開始から一か月後に、二・二六事件が起きているという時系列を押さえておこう。

 相 沢 中 佐 の 公 判

 相沢中佐の公判が開かれてゐる。その公判の新聞記事を通して一般の受けた印象は、被告である相沢を公人として裁くか、私人として裁くかと云ふところに力点をおくのと、どこまでも相沢が巷説〈コウセツ〉に惑はされて分別を誤つたものと認めようとするかの如き傾向との二つを観取せしめることである。公人の公憤か、巷説に感はされたか、また国家改革運動とは何であるか等々のことは、何れ今後の公判の推移と共に明らかになるであらう。我々は一日も早くそれが明らかになることを望む意味に於て、今後の裁判の進行を注視する。だから茲〈ココ〉ではこれ以上これに関して一切何も云はない。が、これを一つの機縁として、我々の想念に浮ぶところの、長い間の疑問がある。
【一行アキ】
 その一つは直接陸軍に関係する。それは世に云ふ○○事件、○○事件〔一九三一年の三月および十月事件のことか〕とは何であるかと云ふことである。この事は五・一五事件の前後から、或はその遥か以前からポチポチ一般の耳目に入つた問題である。世間は五・一五事件〔一九三二年〕の公判を機会にして、それも明らかになるであらうことを期待したのであるが、未だに解かれざる謎になつてゐる。
 相沢中佐の公判によつて一般に明らかになるであらうと想像せられることは、永田中将暗殺の動機、或は動機であるかないか、それも今後を待たなければハツキリしないことであるが、公訴の記録によると、前に十一月廿日事件〔一九三四年の陸軍士官学校事件〕があり、後に〔一九三五年〕八月の真崎教育総監の更迭を中心とする陸軍異動があり、そして永田事件に及んでゐることが解る。この三つの関係は恐らく今度の公判で明らかになるであらう。それで五・一五事件以来の陸軍と云ふものゝ或る部面は国民にハツキリする。しかし、どうしてかうしたことが頻出するか、それを究めるのには、どうしても、その以前にも遡つて凡てが明らかにならなければならぬ。殊に国家非常時の称へられる折柄、国民の信頼する軍部に、些か〈イササカ〉なりとも疑問となるべき陰影を残して置くことは、軍部の為にも、国民の為にも採らない。
【一行アキ】
 もう一つは、寧ろ政治に関するものである。齋藤〔実〕内閣は五・一五事件を契機として、国民の衝動と不安とを一掃する為に生れた内閣である。従つて内閣としては一時の安全弁的特性を以て成立したものである。然るに、その一時の安全弁なる齋藤内閣の特質は、其後二ケ年継続し、さらに岡田〔啓介〕内閣に引継がれて将に〈マサニ〉二ケ年に垂んと〈ナンナント〉してゐる。そして齋藤から岡田に伝統した、この政治の特質は唯無為にして化すと云ふことだけである。無為にして唯何年かの間、熟乎として〔じっとして〕ゐれば、自然に世相は安定すると楽観してゐるかの如くである。さうして我々はこゝ約四ケ年を待つたのである。
 併し果して所謂不安は去つたであらうか。こゝに我々は、今後幾年待つべきかの疑問と共に、寧ろ、齋藤から岡田に伝統された政治の方針を改むべき機会が来てゐるのではないかと云ふ印象を強く感ずるのである。   (一九三六・二)

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