礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

雄山閣文庫刊行の使命(1936)

2014-05-28 03:44:06 | 日記

◎雄山閣文庫刊行の使命(1936)

 かつて、「雄山閣文庫」という、いわゆる「文庫判」の叢書があった。今でも、ときどき、古本屋で見かけることがある。雄山閣文庫は、当初、『古典研究』という雑誌の付録として発行されたものだが、そのほかに、一般の書籍として販売されたものもあった。
 詳しく調べたわけではないが、表紙の刷色がオリーブ色のものは雑誌の付録で、赤褐色のものが一般の書籍だったらしい。
 雑誌『古典研究』の第一巻第一号が出たのは、一九三六年(昭和一一)年一〇月一日のことで、これに付録として、二冊の文庫本が付いていた。『古事記』および『読史余論』で、それぞれ、雄山閣文庫の第一冊と第二冊である。定価は、本誌・付録をあわせて六〇銭。ちなみに、単体で販売された場合の定価は、『古事記』が二〇銭、『読史余論』が四〇銭であった。
 初期の雄山閣文庫の巻末には、「雄山閣文庫刊行の使命」という発刊の辞が載っていた。なかなか格調高い名文だが、やがてこの発刊の辞は消えてしまう。いつの時点から消えたのかは、まだ確認していない。
 本日は、その「雄山閣文庫刊行の使命」を紹介してみよう。雄山閣文庫『古事記』(『古典研究』第一巻第一号「第一付録」)の奥付の裏に載っていたものである。

 雄山閣文庫刊行の使命
古典文献は国民文化の成果であり、大衆のともに享受すべき宝典である。而るに従来我国の古典は、一般人の披見〈ヒケン〉及ばざる社寺名門の筐底〈キョウテイ〉に秘蔵せらるゝに非ずんば、一冊買ひの不可能なる高価な叢書中に収められ、大衆と絶縁された存在であつた。
学芸は狭小なる殿堂が占有すべきでない。大学の研究室は街頭にまで延長すべく、社寺富豪がその伝統財力に得たる学芸の美果は、保存と同時に公開の責務を有する。かくてこそ国民文化は向上し、大衆の国家理念は確立する。幸に我国は建国以来蓄積されたる史籍文学、古文書の豊富なること世界に尤〈ユウ〉たり、この古典の普及、廉価頒布こそ最も意義深き出版文化事業と信ず。雄山閣創業以来本年九月にて満二十年、その間いさゝか歴史認識の普遍化に微力を濺いで〈ソソイデ〉きた。今やその徹底に邁進〈マイシン〉すべく雄山閣文庫を創造し、日本古典の全部的刊行を期す。

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