礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

『大字典』と栄田猛猪の「跋」

2017-04-22 05:10:28 | コラムと名言

◎『大字典』と栄田猛猪の「跋」

 先日、古書店で、『国語と漢字』という小冊子を入手した。本文は謄写版で、一六ページ。表紙にはタイプ印刷らしき文字で、「武蔵中学校二年国語科教材/国語と漢字/上田萬年 岡田正之 飯島忠夫 栄田猛猪 飯田傳一 共編『大字典』跋」とあった。
 奥付がないので、発行年等がわからないが、おそらく、昭和四〇年代のものではないか。私立の武蔵中学校(東京都練馬区)の国語科が、校内版として作成したものと思われる。
 これまで、『大字典』には、何度となくお世話になってきたが、この跋文に注目したことはなかった。一読して感動した。『大字典』編纂の中心となった栄田猛猪〈サカエダ・タケイ〉という人物にも注目した。しかし、いかにも古風で難解な文章であって、中学二年生が、本当に、この文章を読みこなせたのだろうかと心配になった。また、「教材」と称する割には、誤字が散見されるのが気になった。
 とにかく本日は、栄田猛猪による『大字典』の跋文を紹介したい。
『大字典』は、一九一七年(大正六)三月の初版(啓成社)以来、今日まで、何度も改版がなされている。この小冊子が依拠した版が、どの版であったのかは、今のところ不明である。
 今回は、一九一七年四月の再版(啓成社)の「跋」、および講談社の『新大字典』(一九九三)にある「跋」を参考にして、小冊子版の用字や句読点を改めた。漢字は、原則として新漢字を使用している。
 
    
            
 国語に関する書庫にして最〈モットモ〉完備せるは、東京帝国大学文科研究室なり。余〈ヨ〉明治四十年〔一九〇七〕四月同文科大学助手に任ぜられ、此書庫の一椅子を占め、本室主任にして、且我〈ワガ〉恩師なる文学博士上田萬年〈ウエダ・カズトシ〉先生指導の下に国語の研究に従事するを得たり。偶々〈タマタマ〉漢和字書の変遷を討究するに及び、数多き字書各〈オノオノ〉特色を有すると雖〈イエドモ〉、国語辞書との連絡に至りては猶未だ十分ならざるを思ひ、殊に倭名抄〈ワミョウショウ〉・字鏡集〈ジキョウシュウ〉・倭玉篇〈ワゴクヘン〉乃至節用集の如き、徳川時代以前に於ける我が国の字書と、康煕字典〈コウキジテン〉を基とせる、明治以降の新漢和字書との間に截然〈セツゼン〉溝渠ありて、字音の変遷、訓義の用法共に精密ならざるは、漢字を国字として取り扱ふべき所以〈ユエン〉にあらざるを憾み〈ウラミ〉、自ら揣らず〈ハカラズ〉、妄りに〈ミダリニ〉字典編纂の志を起し、爾来造次〔わずかの間〕も漢字の研究を怠らざりき。其年八月文科大学に於いて、文部省主催の夏期講習会開かるゝや、再び恩師岡田正之先生の漢字に関する講筵〈コウエン〉に列し、我〈ワガ〉意ついに決して此稿を起こすに至れり。時に同窓の飯田傳一〈デンイチ〉君小樽中学校教諭より独逸協会学校に転任せらるゝあり、乃ち謀るに宿志を以てし、遂に其幇助〈ホウジョ〉を仰ぎ、悦び勇みて共に与に〈トモニトモニ〉纂輯〈サンシュウ〉の業に従ふ。されど余等二人の力を以てしては、猶熟語採摭〈サイセキ〉に遺漏〈イロウ〉あらんことを恐れ、更に余等同学の士、陸軍教授塩野新次郎君・学習院助教授古川喜九郎〈キクロウ〉君・東京府立第四中学校教諭宮本慶一郎君・栃木県立宇都宮高等女学校教諭小林良一君・故高知県立農林学校教諭耕崎豊〈コウサキ・ユタカ〉君の助力を仰ぎ、普く〈アマネク〉之が蒐集に力む〈ツトム〉。而して飯田君専ら之が整理に任じ、余は主として文字の選定、音訓の整理、字体の変遷、字源の解釈、全編の結構、及び索引方法等に力を注ぎたり。
 余素より〈モトヨリ〉字書編纂の大業たるを知らざるにあらず。然れども親しく編輯に従事するに至り、疑義百出、艱難〈カンナン〉日を追ひて加はり、殆ど望洋の歎〈タン〉に堪へざるものあり。就中〈ナカンズク〉字音の整理の如きは、遡っては遠く三代秦漢に至り、降っては魏晋六朝〈リクチョウ〉より唐宋に及ばざるべからず。之を反切〈ハンセツ〉に求め、之を韻鏡に正し、更に我が邦古来の慣用に照す、余の浅学素より之に堪ふべからず。乃ち援を我同学の畏友学習院教授飯田忠夫君に求め、是に於いて三人〔栄田・飯田・飯島〕協力其の事に従い、刻苦惨憺、原稿稍〈ヤヤ〉成るに及んで、恩師文学博士芳賀矢一〈ハガ・ヤイチ〉先生余等の苦心を察して、書肆〈ショシ〉啓成社に推挙し、是〈ココ〉に於て出版の曙光初めて現る。然りと雖蒐集未だ完からず〈マッタカラズ〉、体裁複雑にして煩簡宜しきを得ざるものあるが故に、直に〈タダチニ〉是〈コレ〉を梓〈アズサ〉に上す〈ノボス〉べからず。曙光は僅に〈ワズカニ〉余が身を照すと雖、前途猶遼遠なり。余は紛糾の岐路に立ちて、眼眩み〈クラミ〉、魂消えんとす。已み〈ヤミ〉なんか、信を世に失はむ。進まんか、我〈ワガ〉力足らず。乃ち情を訴へて上田・岡田両先生の指導を乞ふ。両先生其情を憐れみ、高教具に〈ツブサニ〉備はる。茲〈ココ〉に始めて蘇生の思〈オモイ〉あり。勇気疇昔〈チュウセキ〉に倍すと共に、自己の責任の益々〈マスマス〉重きを感じ、日夕〈ニッセキ〉両先生に親炙〈シンシャ〉して恐懼戒慎、体を変じ稿を更め〈アラタメ〉、面目為に新たにして、整理略々〈ホボ〉成る。是に於いて明治四十五年〔一九一二〕一月始めて鉛槧〔活版〕に附し、爾来今日に至るまで前後六箇年、予が稿を起こしゝより数ふれば実に十有一年の久しきに亘れり。乃ち乞ふに両先生と共編の名を以てし、敢て卑名を尊位の下に列す。【以下、次回】

 最後のほうに、「鉛槧に附し」という言葉があるが、小冊子および『新大字典』では、ここは「鉛型に附し」となっている。一九一七年四月の再版の形に復元した。なお、「鉛槧」というのは、たぶん「活版」のことであろう。

◎昨日のクイズの正解

彼奴   あいつ
白地   あからさま
浅墓   あさはか
浅間敷い、浅猿しい あさましい
厚釜敷い あつかましい
呆気   あっけ
天晴   あっぱれ
阿房   あほう
塩梅   あんばい
生不好い いけすかない
敦圏く  いきまく
日外   いつぞや
胡散臭い うさんくさい
浦山敷しい うらやましい
五月蝿い、蒼蝿い うるさい
迂路迂路 うろうろ
迂路つく うろつく
胡乱   うろん
大雑把  おおざっぱ
奥床しい おくゆかしい
烏滸がましい おこがましい
十八番  おはこ
女郎花  おみなえし
以為   おもえらく
隠坊   かくれんぼう
可成   かなり
瓦落瓦落  がらがら
空繰   からくり
空穴   からっけつ
歌留多  かるた
可愛い  かわいい
可哀そう かわいそう
頑丈、岩畳 がんじょう
屹度   きっと
彼奴   きゃつ
仰山   ぎょうさん
虚呂居呂 きょろきょろ
愚図愚図 ぐずぐず
呉々   くれぐれ
呉れる  くれる
下衆   げす
鳧がつく けりがつく
剣呑   けんのん
剣突   けんつく
強突張り、業突張り ごうつくばり
胡麻化す ごまかす
是許り  こればかり
妻惚爺  サイノロジイ
遉に   さすがに
嘸    さぞ
薩張   さっぱり
偖、扨  さて
左程   さほど
左迄   さまで
三一   さんぴん
乍併   しかしながら
鹿爪顔  しかつめがお
地団太  じたんだ
七面倒臭い しちめんどうくさい
素人   しろうと
洒蛙洒蛙 しゃあしゃあ
洒落る  しゃれる
冗談   じょうだん
悄気る  しょげる
白面   しらふ
図々しい ずうずうしい
素寒貧  すかんぴん
寸寸   ずたずた
擦太揉太 すったもんだ
素破抜く すっぱぬく
素敵   すてき
素破、驚破 すわ
素晴しい すばらしい
図太い  ずぶとい
切羽つまる せっぱつまる
世話敷い せわしい
十露盤、算盤 そろばん
頼母敷い たのもしい
魂消る  たまげる
大口魚  たら
鱈腹   たらふく
血塗れ  ちまみれ
丁度   ちょっと
猪口才  ちょこざい
一寸、鳥度 ちょっと
連発   つるべうち
手具脛ひく てぐすねひく
木偶の棒 でくのぼう
手古摺る てこずる
出鱈目  でたらめ
手真似  てまね
転手古舞 てんてこまい
天麩羅  てんぷら
何奴   どいつ
兎角   とかく
心太   ところてん
兎に角  とにかく
濁酒   どぶろく
左見右見 とみこうみ
泥塗れ  どろまみれ
頓狂   とんきょう
頓痴気  とんちき
頓珍漢  とんちんかん
頓間、頓馬 とんま
刀豆   なたまめ
可成   なるべく
二進も三進も にっちみさっちも
寝腐れ  ねくたれ
野良仕事 のらしごと
野呂間  のろま
呑気   のんき
呑平   のんべえ
灰殻   はいから
果敢い  はかない
派手   はで
蛮殻   ばんから
只管   ひたすら
喫驚   びっくり
素見   ひやかし
腑甲斐ない ふがいない
巫山戯る ふざける
不貞腐れ ふてくされ
不貞寝  ふてね
箆棒   べらぼう
変梃   へんてこ
弗々   ぼつぼつ
微酔   ほろよい
凡蔵   ぼんくら
盆槍   ぼんやり
間誤つく まごつく
間誤間誤 まごまご
真逆、豈夫 まさか
間違ひ  まちがい
真平   まっぴら
豆々しい まめまめしい
満更   まんざら
不見目、惨め みじめ
不見転  みずてん
土産物  みやげもの
六ケ敷しい むずかしい
無鉄砲  むてっぽう
無闇   むやみ
無理矢理 むりやり
丁班魚  めだか
滅茶苦茶 めちゃくちゃ
滅切り  めっきり
滅多   めった
目出度い、芽出度い めでたい
目星い  めぼしい
面喰う  めんくらう
耄碌   もうろく
勿怪の幸 もっけのさいわい
矢鱈   やたら 
躍起   やっき
矢張   やっぱり
矢庭   やにわ
野暮   やぼ
由々しい ゆゆしい
泥酔者  よっぱはらい
四方山  よもやま
宜敷く  よろしく
無価   ろは

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