礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「アテネ文庫刊行のことば」(1948・3・25)

2014-04-30 04:31:38 | 日記

◎「アテネ文庫刊行のことば」(1948・3・25)

 インターネット上で、「『アテネ文庫』の研究(その1)」という論文を見つけた。もともとは、『京都光華女子大学研究紀要』第四四巻(二〇〇六年一二月)に載っていたもので、筆者は、清水康次〈ヤスツグ〉氏である。
 これによって私は、弘文堂書房(弘文堂)のアテネ文庫は、一九四八年(昭和二三)三月二五日に、第一冊から第一五冊までが同時に刊行されたこと、名文として有名な「アテネ文庫刊行のことば」を書いたのは、哲学者の鈴木成高〈シゲタカ〉であることなどを教えられた。
 今、手元にアテネ文庫12、高木惣吉の『終戦覚書』の初版がある(発行元は弘文堂書房、定価一五円)。最初に刊行された十五冊のうちの一冊である。扉の裏に目次、そのあとすぐに本文。本文は、一~六一ページで、六二ページは白ページ。六三ページは、既刊・近刊書目の一覧と奥付、その裏(最終ページ)に、まるまる一ページをとって、「アテネ文庫刊行のことば」が載っている。この「ことば」に、署名や日付はない。
 ちなみに、同年一二月三〇日に出た、アテネ文庫38、石田英一郎の『一寸法師』初版(発行元は弘文堂、定価二五円)の場合は、扉の裏は白ページ、三ページは目次、その裏は白ページ、本文は、五~五八ページ。五九ページは、「アテネ文庫刊行の言葉」と奥付で、その裏(最終ページ)は、新刊・既刊・続刊の一覧となっている。
 次に、「アテネ文庫刊行の言葉」を引いておこう。

 アテネ文庫刊行のことば
 昔、アテネは方一里にみたない小国であつた。しかもその中にプラトン、アリストテレスの哲学を生み、フィヂアス、プラクシテレスの芸術を、またソフォクレス、ユウリピデスの悲劇を生んで、人類文化永遠の礎石を置いた。明日の日本もまた、たとい小さく且つ貧しくとも、高き芸術と深き学問とをもつて世界に誇る国たらしめねばならぬ。「暮しは低く思いは高く」のワーヅワースの詩句のごとく、最低の生活の中に最高の精神が宿されていなければならぬ。本文庫もまたかかる日本に相応しく〈フサワシク〉、最も簡素なる小冊の中に最も豊かなる生命を充溢〈ジュウイツ〉せしめんことを念願するものである。切り取られて花瓶にさされた一輪の花が樹上に群る花よりも美しいごとく。また彫刻におけるトルソーが、全身において見出されえない肢節のみのもつ部分美を顕現するごとく。

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