礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

弱年次兵は残留し労務に服せしむること

2017-07-18 02:28:14 | コラムと名言

◎弱年次兵は残留し労務に服せしむること

 富田健治著『敗戦日本の内側――近衛公の思い出』(古今書院、一九六二)から、第四一号「対ソ仲介交渉」を紹介
している。本日は、その二回目。
 富田健治は、昨日、紹介した部分で、「和平交渉の要綱」を引用した。今日、紹介する部分では、同要綱の「解説」
を引用している。

   解 説
 一、目 的 
 余〔近衛文麿〕は飽くまでも聖慮を奉じ、本交渉を纏めんとする決意を以って、出発せんとする。これを以って別紙
要綱につき、聖断を抑ぎ度き所存たるところ、余りに細部に亘り聖断を抑ぐは、恐懼〈キョウク〉に堪えざるを以って
、別紙要綱の細部につき両人〔近衛文麿、酒井鎬次〕の解釈を一致せしめ、所期の効果を発渾せんとする。
 二、方針について
 一の(二)につき、
 要綱は条件の下限を明らかにしあり、勿論交渉に当りては、成るべく有利なる条件を取付くるに努むるも、最悪の場
合には、この線に踏み止まらんとするものなり、然るに国内一部の方面においては、これらに関し反対の起ることなき
を保障し難し〈ガタシ〉。然れども既に六月の経験〔六月二二日の最高戦争指導会議〕に徴するも、一度聖断下らば、
これを統一し得ることに確信を得たるを以って、この点特に木戸侯の力に期待するものなり。
 一の(三)につき、
 ソ連の仲介による交渉失敗せば、直接米英と交渉せんとする所以は、由来余はソ連の仲介を、必ずしも有利なりとは
考えあらざるも、国内の情勢上敢て異見を立てざりしものなり。さればソ連との交渉に失敗せば、聖慮貫徹の必要上、
直ちに米英との直接交渉に移らんことを、強く主張せんとす。故に聖断を得ば、予めこれがため必要の準備を整えたる
上出発したし。而してその条件は概ね本要綱によるも、情勢によりては若干条件の低下を要することあるべし。
 三、条件について
 (一)の(イ)
 国体の解釈については、皇統を確保し天皇政治を行なうを主眼とす。但し最悪の場合には御譲位も又止むを得ざるべ
し、この場合においても、飽くまで自発の形式をとり、強要の形式を避くることを努む。これがための方法については
、木戸侯において予め研究して置かれたし。
 (二)の(ロ)
 固有本土の解釈については、最下限沖繩、小笠原島、樺太を捨て千島は南半部を保有する程度とすること。
 (三)の(イ)〔(二)の(イ)〕

 若干法規の改正とは、止むを得ざれば、憲法の改正以下、反民本的法令に及ぶこと。
 (三)の(ハ)〔(二)の(ロ)〕
 彼我協議の上一部の干渉とは、恐らく先方にはリストあるべきも、我国内事情に通ぜざるため誤りあるべきを以って
、脱漏を補足する等の口実により協議を求め、これに該当せざるものは誠意を以って説明し、これを思い止まらしむる
等のことをいう。
 (三)の(イ)
 治安確保に必要なる兵力とは、戦後国内情勢に鑑み〈カンガミ〉必要なる武装せる軍隊の意にして、その名称、所属
官衛等については、敢て名目上の主張をなさざる考えなり。
 (三)の(ロ)
 若干を現地に残留とは、老年次兵は帰国せしめ、弱年次兵は一時労務に服せしむること。等を含むものとする。
 四、休戦と平和との関係について
 (三)について
 好意ある保障とは、例えば休戦条約の前文にその意味を挿入するか、或は別に非公式文書に依る言明を取り付くるか、或は会議議事録にその意味を記録する等、各種の方法あるべし。以上。
 ソ連に仲介を頼み、これに依って大東亜戦争を終結に導こうとしたことに付ては、今日ではそれがソ連の中立条約違反、騙し討ちによって、見事失敗した事実からして、世上多くの非難が浴びせられているが、当時の政情下に於ては止むを得ざる最後の方途であったように思われる。殊に特派使節たるべき近衛公がソ連不信であるし、仲介案起草の酒井氏もソ連仲介依頼反対であったのである。これも宿命であろう。【以下、次回】

 戦後における日本兵捕虜のシベリア抑留について、これは、ソ連との停戦交渉時に、日本側がみずから申し出たものだったという説がある。この説の当否は明らかでないが、「和平交渉の要綱」やその「解説」を見ると、当時の日本の軍人や政治家というのは、そうした申し出をおこないかねない人々だったことが、よくわかる。

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