礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ヘイト(憎悪)はヘイトを呼ぶ

2014-12-17 08:53:52 | コラムと名言

◎ヘイト(憎悪)はヘイトを呼ぶ

 昨日の続きである。くどいようだが、昨日、引用した文章を、もう一度引用する。クルト・コフカ著、平野直人・八田眞穂訳『発達心理学入門』(前田書房、一九四四)の「後記」の中の一節である。

 大東亜戦争は、これをはつきり言へば、有色人種対白色人種の争闘であると云ふことが出来る。白人の云ふ如く、果して有色人種が彼等より劣つてゐるものであるならば、この戦争の帰趨〈キスウ〉は既に見えてゐると言つてよいであらう。しかし吾々はさうは思はない。人類学的に見て、人種学的に見て、果たまた〈ハタマタ〉心理学的に見て、吾等日本人が白人如きに劣つてゐるとは断じて考へられないのだ。彼等はこの地球上から日本人の影を消してしまふ、と豪語してゐる。それならばよし、吾等も彼等をして地球上より消滅せしむるであらう。白人の一人も居なくなつたこの地球上は、何とさばさばとした住み心地のよいものとなるであらうか、考へただけでも楽しいではないか。

 昨日のコラム「国策を否定する危険なヘイトスピーチ」では、この文章は、ドイツやイタリアを同盟国としていた当時の国策を否定するものであり、その意味で、きわめて危険なヘイトスピーチであったということを指摘した。
 本日、指摘したいのは、ヘイト(憎悪)はヘイトを呼ぶということである。
 文中の「彼等はこの地球上から日本人の影を消してしまふ、と豪語してゐる。それならばよし、吾等も彼等をして地球上より消滅せしむるであらう。」という部分に注目されたい(下線部)。
 訳者ら(平野直人・八田眞穂)のヘイト(憎悪)は、「彼ら」(白人)のヘイトに触発されたものであった。少なくとも訳者は、そう思っているようだ。
 しかし、ここにいくつか問題がある。「彼等はこの地球上から日本人の影を消してしまふ、と豪語してゐる」とあるが、この豪語している人間とは、具体的に誰なのか。白人の誰かが、そういうことを言っているという噂を聞いただけなのか、それとも、実際に文献などで、そういう発言を確認しているのか。訳者らは、最低一例でも、そういう「豪語」の例を挙げるべきであった。もちろん、そういったヘイトスピーチの例があるからといって、それにヘイトスピーチで対抗してよいというものでもないが。
 さらにもうひとつ問題がある。訳者らが、このようなヘイトスピーチを活字という形で公にしてしまったことは、白人をして、日本人に対するヘイトスピーチをおこなう口実を与えたことになる。「日本人はこの地球上から白人の影を消してしまふ、と豪語してゐる。それならばよし、吾等も日本人をして地球上より消滅せしむるであらう」と。これに対して、訳者は、どう抗弁するのか。
 いずれにしても、ヘイトはヘイトを呼ぶのである。訳者らは、インテリであり、心理学者でもあった。戦中だからという言い訳は許されない。戦中だからこそ、慎重な発言を心がけるべきであったと思う。

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