礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

引用しやすい文献・引用しにくい文献

2013-03-13 08:56:02 | 日記

◎引用しやすい文献・引用しにくい文献

 書物や論文の世界には、引用しやすい文献と引用しにくい文献というものがある。
 引用しやすい文献というのは、その書物・論文において、筆者が主張せんとしていることを端的に示すようなパラグラフが、すぐに、あるいは、いくつも発見できるような文献である。
 一方、引用しにくい文献というのは、その書物・論文において、筆者が主張せんとしていることを端的に示すようなパラグラフがなかなか見つからず、ようやく見つけたとしても、その表現が難渋だったりするような文献である。
 もちろんこれは、書き手の思想的水準と読み手の理解力との相関の中で生ずる問題であり、また、書き手や読み手の「好み」の問題でもある。したがって、これは、あくまでも相対的な問題であることは断るまでもない。
 昨年読んだ、井上寛司〈イノウエ・ヒロシ〉氏の『「神道」の虚像と実像』(講談社現代新書、二〇一一)は、私にとっては、引用しやすい文献であった。少し引用してみよう。

 さらに仏教との関係を絶たれた神社・神祇信仰が、実際には国家や世俗政治権力への果てしない従属を強いられ、本来の宗教的機能を大きく後退、形骸化させるというきわめて深刻な事態に立ちいたった。第二章でも述べたように、中世成立期に仏教理論を基軸に据え、多様な宗教儀礼が統一されるかたちで成立した日本の宗教、とくに「神仏隔離原則」にもとづく「神仏習合」によって新たな安定を見た神社・神祇信仰にとって、その教義的な理論部分を担ってきた仏教との関係を絶たれたことはまことに深刻であった。

 一方、今年になってから読んだ島薗進〈シマゾノ・ススム〉氏の『国家神道と日本人』(岩波新書、二〇一〇)は、私にとっては、引用しにくい文献であった。これも、少し引用しておこう。

 しかし、平時の国家神道の側からすると、この二重構造という前提の下で諸宗教が存在することは、むしろ必要なことでもあった。国家神道は「公」の国家的秩序について堅固な言説や儀礼体系をもっているが、「私」の領域での倫理や死生観という点については言葉や実践の資源をあまりもちあわせていない。また、「公」の領域でも、西洋由来の思想や制度のシステムの助けを借りなくては、存続しえないものだった。そこで日本文化の特徴を自覚的に考える人たちにとっては、国家神道と諸宗教や近代の思想・制度が支え合うことによってこそ、ある種の多様性を抱え込んだゆるやかな調和が成り立つ、そこに多神教的な日本文化の利点がある、と感じられる。日本の国体が美しいとされる一つの理由である。こうした精神状況は、そのまま第二次世界大戦後に流行する日本人論に引き継がれていく。

 この二冊の書物は、扱っている主題や問題意識に共通する部分があり、「参考文献」として挙げられている文献にも共通するものが多い。
 私は、この両書それぞれから多くを学んだが、どちらかと言えば、先に読んだ『「神道」の虚像と実像』のほうが、わかりやすく、また刺激的だった。『国家神道と日本人』は、重大かつ論争的な指摘を含んでいることは理解できたが、必ずしも主題が明示的でないという印象を受けた。たまたま、先に、『「神道」の虚像と実像』を読んでおり、一応の予備知識と関心を持っていたので、何とか『国家神道と日本人』を読み終えることができたが、もし『国家神道と日本人』のほうから読んでいたとしたら、あるいは、途中で投げ出すことになっていたかもしれない。
 ところで、少し気になったのは、『「神道」の虚像と実像』の参考文献に、先行する『国家神道と日本人』が挙げられていないことである。この本が挙げられていないだけでなく、島薗進氏関係の文献が、ひとつも挙げられていない。一方で、『国家神道と日本人』のほうにも、井上寛司氏関係の文献はひとつも挙げられていなかった。これは、単なる偶然なのか、それとも何かわけでもあるのか、少しだけ気になった次第である。

今日のクイズ 2013・3・13

◎次の文献のうち、『国家神道と日本人』と『「神道」の虚像と実像』が、共通して挙げている参考文献をひとつ選んでください。

1 阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』ちくま新書、1996
2 村上重良『天皇の祭祀』岩波書店、1977
3 安丸良夫『日本の近代化と民衆思想』青木書店、1974

【昨日のクイズの正解】 2 全国の神社を包括する宗教法人■ウィキペディアに依りました。

今日の名言 2013・3・13

◎国家神道は「公」の国家的秩序について堅固な言説や儀礼体系をもっている

 島薗進氏の言葉。『国家神道と日本人』(岩波新書、2010)の51ページに出てくる。上記コラム参照。

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