礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

1885年刊『和漢洋諺』に見られる西洋の諺・名言

2012-11-01 05:22:24 | 日記

◎1885年刊『和漢洋諺』に見られる西洋の諺・名言

 先日、里見法爾編輯『和漢洋諺』という本を入手した。一八八五年(明治一八)刊、喜楽舎蔵版である。本文五二ページの微々たる小冊子であるが、実に興味深い。
 同書には、いろは順に、和・漢・洋の諺が並べられているが、このうち、洋諺〈ヨウゲン〉に分類されているものは、聞いたことがないものがほとんどである。しかし、その聞いたことのない洋諺に、おもしろいもの、感心させられるものが多いのである。
 いくつか抜き出してみよう。

・一杯の水も一壜〈ヒトビン〉の酒に勝ることあり
・論に負けて実に勝て
・春に花なきものは秋に菓実なし
・再煮〈ニカエシ〉の肉と和睦せし敵には用心せよ
・帽中の針を蔵す勿れ〈ナカレ〉
・駑馬〈ドバ〉も食ふこと駿馬〈シュンメ〉に劣らず
・珍談も再び語れば味ひ〈アジワイ〉なし
・量過ぐるときは袋を裂く
・濡ぬ〈ヌレヌ〉先の傘
・夫の愚賢は妻を見て知れ
・学問は金庫、練習は鍵
・善き分別は老人に問へ
・短身能く〈ヨク〉大胆を蔵す
・争論は一方の堪忍に終る
・常に転ぶ石は苔を生ぜず
・無産の健康は多病に等し
・牛は角を見て買ひ人は言を聞て〈キイテ〉用ゆ
・口に蜜ある虫は尻に刺あり
・曲れる杖には曲れる影あり
・富人の汚点〈シミ〉は金にて拭ふ〈ヌグウ〉
・後悔は愚者の鞭
・香餌〈エバ〉の中には釣針あり
・溺人〈デキジン〉を救ふて自ら溺るる勿れ
・悪人も悪子〈アクシ〉を望まず
・裁縫と著述とは時々の流行に注意せよ
・虐政は一揆の親
・油断は盗賊の親
・名誉は徳行の給金
・屡々誓ふ者は屡々忘る
・貧乏は壮健の母
・用ひぬ器は損ずることなし

 これらは、すべてが諺なのだろうか。「常に転ぶ石は苔を生ぜず」(A rolling stone gathers no moss.)が、諺であることは、辛うじてわかる。しかし、ここにあるものの多くは、諺というよりは名言・格言なのではないのか。また、これらの「諺」の出典は何だったのだろうか。諺のことは詳しくないので、ご教示いただければさいわいである。
 なお、二三の「諺」についてコメントする。
「濡れぬ先の傘」という諺は聞いたことがあり、日本の諺とばかり思っていたが、ここでは洋諺に分類されている。ことによると、この諺は、この本によって日本に広まったのかもしれない、などと考えてみた。
「香餌の中には釣針あり」の「香餌」を〈エバ〉と読ませているあたり、なかなか凝っている。この本は、国語史の上でも、また翻訳史の上でも、興味深い資料と言えるのではないか。
「裁縫と著述とは時々の流行に注意せよ」。なるほど。

今日の名言 2012・11・1

◎曲れる杖には曲れる影あり

 里見法爾編輯『和漢洋諺』(喜楽舎、1885)の27ページに紹介されている西洋の「ことわざ」。意味はよくわからないが、曲がった人間の言うことは、やはり曲がっているといった意味ではないのか。みずからに戒めたいと思う。

コメント
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