原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

路線バスとタクシーで行く郷里の旅 (タクシー編)

2017年03月12日 | 旅行・グルメ
 (写真は、郷里中心部の宿泊ホテルから実母が暮らす高齢者施設まで乗車したタクシー内で撮影した風景。)


 今回の旅行はその移動手段として主に路線バスを利用しつつ、どうしても待ち時間が長かったり乗り換え時間のロスが大きい場合はタクシーを利用する事とした。


 旅の最終日は、実母が住む高齢者施設より地元のタクシー会社に迎車をお願いして施設まで来て頂いた。

 施設玄関前でタクシーに乗り込むや否や、運転手氏が尋ねて下さる。
 「どちらまで行きますか?」  私が応えて、「空港までお願します。」
 すかさず運転手氏が「飛行機の出発時間は何時でしょうか?」と尋ね返して下さる。

 この質問の意味を私はすぐさま理解出来た。
 要するに、航空便の出発時間までに空港へ到着可能か否かを真っ先にタクシー運転手が判断して下さろうとしたのだろう。
 それを察した私は、「出発時間まで十分に時間がありますので大丈夫です。 この辺りは道路がいつも渋滞で混雑しているようですが、それを勘案しても出発までに間に合います。」

 と応えた直後にタクシーが主要道路へ出ると、案の上すぐ渋滞にはまった。 
 そこで私が、「ところで、例えば空港へ行く顧客の方が飛行機の出発までに間に合わなかったことがありますか?」と尋ねると、 運転手氏応えて、「あるんですよ。 運転手としては責任重大ですので必ず出発前に出発時間を確認するのですが、お客様はタクシーに乗れば間に合うと信じている方が多く、時間ぎりぎりの場合、運転中に胃が痛む思いです。」
 「で、実際に出発までに間に合わなかった場合はどうするのですか?」 と問うと、運転手氏曰く「次の便に乗って頂くしか仕方がないのですが、何だか罪の意識もありこれまた胃が痛み後味が悪いものです。」

 (いやはや、タクシー運転手業も大変だなあ~)、と内心同情申し上げていると。
 運転手氏が話題を変えて曰く、「でも、いい事もあるんです。 新大阪から福岡まで新幹線で帰りたいとおっしゃるお客様を、本四連絡橋を渡って新神戸駅までお連れしたのです。新神戸から乗車する方が短時間で帰宅可能と判断したからです。 その帰り道中に淡路島の休憩所でコーヒーを飲んで一休みしていると、そのお客様から携帯に電話があり“福岡の自宅に着きました”とお伝え下さったのにはびっくりしました。 新神戸で下車され別れてから1時間しか経っていなかったからです。 そんなに早く到着するとは夢にも思っていませんでした。」

 何ともまあ、自身の業務に対する責任感の強い運転手氏と感動しつつ、その後も会話が続く。

 例えば、運転手氏が「東京を航空便で往復する場合、どれくらいの旅費になるのですか?」と問うて下さるので、「私の場合、いつもネットで格安の“航空便とホテル宿泊パック旅行”を予約するため安価で済みます。今回の旅行の場合、娘と二人で¥〇〇程度でした」と正直に応えると、これまたびっくり仰天した運転手氏(ご高齢域の方でいらっしゃったが)が、「そんなに安価で済むのですか!! 若い方はいいですね。そうやってパソコンを操れて。 それで例えば、私が東京へ行きたい場合もそういう安価なパックが予約出来るのですか?」  (決して“若い方”ではない)私が“若いふり”をして応えて曰く「もちろんです。以前母を東京に招こうと考えそれを調べた事もあるのですが、混雑時期を外せば安価でしたよ。」

 そうこうピンポンの会話を続けているうちに、タクシーに乗車して約1時間後に空港に無事到着。
 そこでも運転手氏は我々を気遣って下さる。 「到着が早過ぎたようですが、大丈夫ですか?」 「はい。空港で食事をしてお土産を買ってから飛行機に搭乗する予定でしたのでちょうどよかったです。」 
 運転手氏はその我が回答に安堵し、「お忘れ物なきように」と言い残し空港を去って行かれた。


 私は十年程前より車の運転を完全卒業している関係で、自宅がある都心でもタクシーを利用する機会は多いかもしれない。
 あるいは郷里ではない他の日本国内の地に旅に出た時にも、現地ではレンタカーを借りるでもないため、タクシーに依存する機会は少なくない。

 その経験から言うと、現在の“全国標準”として、概ねタクシー運転手氏は顧客であるこちらから車内で話しかけない限り話を切り出す事はないのが通常だろう。 
 それでも何かのきっかけでタクシー運転手氏と会話が始まる場合、私は積極的にそれに乗る(ノル)人種だ。
 
 ところがこれも一長一短。 会話がピンポンで展開する人材はほぼいないと結論付けられそうに思う。

 例えば話好きの運転手氏の場合も、5分10分の短時間乗車ならば相手可能だ。
 ただ運転手氏側の一方的なお喋りが1時間にも及ぶ場合、聞き役に徹しつつも(あのーー。私クラブのママじゃないんですけど…)と言いたい思いを抑えつつ、降車後は怒り心頭だ!

 かと言って、タクシー乗車時間が1時間にも及びそうな場合、いい大人の私から何らかの話題を切り出さねば! なる使命感がいつも脳裏にあり、運転手氏の年代や個性を見抜きつつ話題をこちらから提供したりもする。


 それ程までにタクシー内で顧客の立場で運転手氏に配慮し、心労を溜める必要もないのだろう。
 それも承知だが、「タクシー」という完全個室内の人間関係を皆様はどのように対処されているのか、私からお聞きしたいくらいだ。