真っ白な部屋・・・病室という場所だったが、部屋からは出れず・・・遥か高い所にある窓から柔らかな陽射しが舞い込む・・・その窓枠は鉄の格子で塞がれていた。
温度管理はされているので、換気の為の ほんの少しの間しか外気に触れる事さえ出来ない場所だった。
拘束する為の服で固定された姿で今の状態を知った。
誰だと眺める顔・・・激しく動けば、身を守る為の服のせいで体は大丈夫かと不安になるほどの華奢な姿だった。
病室側へ用意してくれた椅子に座ると、柵越しに見つめた。
視線に気づいたのだろう、静かに振り向いた顔にハズキは微笑んだ。
『ノリト?』
そっと名を呼んでみた・・・
『僕の本当の名前・・・何で知ってるの?』
『ハズキだよ(笑)
ノリちゃん・・・お誕生日(笑)おめでとう』
『 ・・・何歳の?』
『15歳。(笑)やせっぽちね・・・食べてるの?』
『 ・・・死ななきゃ皆が殺される・・・食べたら生きちゃう・・・』
『私の為に生きてくれない?』
『なんで?』
『ノリトは私の弟だから』
『 ・・・誰?』
『ハズキだよ(笑)』
『写真の・・・お姉さん?
マナちゃんと・・・さよなら した日に会った・・・ハズキちゃん?』
彼女が頷く・・・何とか思い出しながら呟くノリト・・・やっと呟いた目が潤みだした。
『お姉さんなら助けてよ・・・これ、外して・・・』
ベッド端に座っていたノリトが立ち上がり走り出したが・・・
ガン!
激しい音がして壁と拘束服を繋ぐ間の紐が張り詰め、壁の金具が鳴った。
半分までしか届かずに、膝まつくノリト・・・溢れた涙に辛く唇を強く結んだ。
『泣かないで・・・』
大丈夫だという笑みになったノリトだった・・・
『時々・・・本当の僕じゃなくなるんだ・・・僕の前に誰かが立って勝手な事をする・・・
それに別の日は怖くなる・・・別の僕が勝手に人を殴っちゃう・・・
本当の僕は・・・怖いから・・・任せるんだけど駄目な事もしちゃうから・・・
そのせいで、こうなっちゃった・・・いつ来たかも分からなくなっちゃった』
『一人で頑張ったね・・・』
『僕がこうだから会いに来なかった?』
少しずつ・・・互いの話をしていくハズキもいた。
『 ・・・どの写真が好き?』
『海(笑)確か皆がいる写真に海があったヤツ・・・笑ってる顔しか覚えてないけど・・・』
『(笑)そうだね、ノリトもたくさん笑ってた・・・私もソレが一番好き・・・
その写真・・・もう一度、見たいな』
懐かしそうな笑みのハズキに、穏やかな笑みで見つめたノリト・・・
『疲れたから・・・寝ながら話してもいい?』
『いいよ(笑)』
良かったと床に寝転ぶ姿に、微笑んだハズキだった・・・
『そこでも平気?』
『ん(笑)空が見えるし。以外とベッドよりも好きなんだ』
『(笑)赤ちゃんの頃からよね』
『そ?』
『(笑)砂まみれになったから・・・』
そうなんだと笑う顔に微笑んだ・・・眠くなったのか、寝息が聞こえてきた。
苦笑いをして誰かを呼ぼうと立ち上がったが・・・
『誰?』
声音の違うノリトの頭だけが上がった。
『 ・・・ハズキ(笑)』
『なにもん?』
『ハズキの姉よ(笑)、6年ぶりに会ったわ』
『これ、外して貰えよ』
『それが出来たら、私は中へ入れて貰えたしノリトを抱き締められたわ・・・』
『ちきしょう!』
悔しそうに呟くノリトは、項垂れたように また寝転んだ。
『 ・・・助けろよ』
『ノリトの体を守ってくれて、ありがとね。生きて会えたから嬉しいの・・・』
『ガキだから殺されずにすんだだけだ。利用出来そうだったから便利ではあったけどな』
『 ・・・15歳の言葉使いにしてくれない?』
『俺を知るのか?』
『先生に教えて貰ったの・・・ノリトを守る為の人格1って・・・』
『 1(笑)・・・ヤツが話したのか・・・口は上手いからな・・・』
『それで頑張れたのね・・・それでも・・・駄目な事は駄目と考えて、互いを利用して欲しかったわ』
『ガキの頭じゃ限界はあんだよ・・・仕方ねーから実行はしてやっけどよ』
『言葉・・・』
『お前には無理(笑) ・・・
だけど、今まで別の奴らに声は出さなかったぞ・・・それはヤツも。
ノリトが異常と思うくらいにビビったから本当にヤバいって思ってよ』
『 ・・・それが生きれた本当の理由だったかな・・・』
『施設の中は自由になったし(笑)金はくれたから自由に遊べたけどな』
『 ・・・貴方の記憶・・・教えてくれない?』
『 ・・・本当に居ねーのか?』
『ノリトに手が伸びる事も、親族の顔も見なくてすむわ』
『 ・・・良かった(笑)。マジでやべーのが居てよ。
我慢の限界とか言って髪の毛を切りに来んだよ・・・時々ナイフでよ・・・下手くそ!
耳を切りやがって・・・痛くなって暴れたふりして殴ってやったら(笑)次から凶器は無かった・・・』
『貴方がノリトと交代し始めた頃、もう一人は?』
『居ねーよ。アイツは、いつの間にか居てよ・・・女に連れ出される時に出たいって騒ぐから(笑)、俺は寝たい時に変わってやってる』
『じゃ、何をしてるかは・・・』
『ん?(笑)そりゃ交流会だろ・・・チクって人が変わったからな。
大人でも良い奴は居ると初めて知ったな・・・
男が連れ出す外は俺だ(笑)、演技して誰かを脅してた・・・電話だかんな。
それを すっとよ(笑)金をくれんだけどよ・・・喋り倒すから疲れてな・・・
結局ノリトが菓子を買ったりすっから、旨い酒は買えなかったんだよな』
ぺらぺらと話し出したノリトに、微笑みながら見返した。
今までの大冒険を聞こうと意識を変えた事で辛さは軽減した・・・そして話し方で・・・ノリトは守られていたのだと思えた。
だが逆に疑問が増えた・・・死にたいのは誰かと・・・
『その衣服はいつから?』
『 ・・・最初』
『誰がノリトを止めるの?』
『 ・・・』
話さないと言いたげに身を起こしてベッドへ戻ると寝そべった。
『ノリトの体が危険だから着せられてるのよね?』
『 ・・・』
眠りに入った事を知った。
暫くして体を横にして彼女が見えるように向きを直したノリトに気づいた・・・
『(笑)私も誉めてくれますか?』
『 ・・・ノリトを守ってくれて、ありがとね(笑)危険な場所から出してくれて・・・本当にありがとう』
『 ・・・ラッキーな人達だったからです(笑)あの人達と違い、聞いた話を信じてくれたから・・・』
『(笑)疲れるまで交代は出来ないの?』
『んー(笑)そうでもないですけど。頻繁にしてませんでしたね・・・以外と長時間は無理で(笑)』
『聞いていい?』
突然言い出したハズキに驚いて見返したまま頷いた。
『何故・・・ノリトを殺すの?』
『 ・・・これの理由が知りたいのですか?』
そうだと頷くハズキを、眺めながら考えているようだった。
『自分で死ねなかったから・・・たぶん・・・これは想像です。
皆に会いたくて・・・恋しくて・・・触れたくて・・・・
飛び降りたら終わる場所に居ても写真を思い出すと足も動かず・・・誰かに押されると確実に拒否する。
向こうは殺人になりますから(笑)無理な事も出来ず・・・今度は閉じ込めて・・・自分から自殺へ向くように・・・』
『それを拒否して二人の人格が出来たのね・・・』
『(笑)人格か・・・僕はノリトの一人、医師は2とか言ったかな(笑)・・・
も一人は口より先に手が出るから・・・観察して僕が代弁してたんだ。
ノリトは、ずっと泣いてる・・・駄目だと泣きながら・・・それでも自分でしない』
『生きたいのに・・・死ななきゃならなくて・・・それが出来ないから替わりが出来る人格が産まれた?』
『・・・お姉さんが替わりにって言ってた・・・それは貴女ですか?』
『 ・・・』
『小さな頃に・・・ペンダントをくれた・・・お姉さん・・・』
『 ・・・・』
ペンダントと聞いて思い当たり・・・懐かしくなり想いにふけり、そっとノリトを眺めると眠り始めていた。
うつ向くハズキの肩に医師が触れた。
『驚いたよ・・・
いつもは、今・・・話をしている人格2しか話していなかった。
それがノリト君と最初は思っていたが、違和感が残り・・・話を何度もしていくうちに ようやくノリト君が多重人格を持つ事を知った。
疲れると 人格1が出てくる・・・話し方は荒いが、ここで暴れる事は無かった。
調べて始めて・・・1の存在理由に納得した。
・・・施設員にまで暴力を受けていたから・・・親戚が時々、連れて行くが・・・それは恐怖を体へまで覚えさせる為だったらしい・・・
骨折にまでは成らず、大怪我にまでもならない微妙な匙加減・・・1が笑いながら言って怖くなったよ。
2が引き継いで話を聞くと・・・それぞれの 役割分担のようにしていると言った』
『3というのは・・・』
『声を聞いた事はない。静かに現れ、自殺の準備をする。
シーツを裂き・・・繋ぎクビへ巻く・・・食事なら・・・フォークで喉を・・・
散歩なら不意に駆け出して、柵へ・・・
それでも大人なら、それは完全に死ねるまでの行いではないと知る・・・だから寸出で止められ自殺志願の人格が居ると気づけた・・・それを3としたが・・・』
『なら・・・本来は3、1、2・・・で現れてますね・・・そんな気がします』
『確かに・・・私も今聞いていて思いました。
同時に現れた事に驚きました・・・なにより初めて・・・ノリト君の声を・・・話し方を聞けました』
『一度も・・・』
『ありません・・・1や2と話して頼むのですが拒否して無理だと・・・
目つきも違うので、もしかしてと声をかけると人格交代をしてしまいます・・・
お祖母さんと話をしたのは、2だけですが・・・それからノリト君が自殺をしようとした事はありません。
ですが不意に出られたらと・・・あれは脱がせる事も出来ません』
『お願いします・・・出来るだけ来ますから・・・治療は続けて下さいますか?』
分かったと悲し気に頷く医師・・・眠るノリトを一緒に見つめていた。
暖かな陽射しがノリトの体へ辺り、暑いのか布団を剥いでいた。
特別にと許可を貰い中へ入れたハズキは、優しくノリトの髪を撫で・・・静かに寄り添って寝そべるとノリトへ腕を回して抱き締めた。
『誰だ!』
『ハズキよ・・・ノリト・・・』
『 ・・・』
驚き慌て体が動いたが・・・一瞬、静かになり・・・
微かに震え始めたノリト・・・
『(笑)四人兄弟だったのに・・・こうして一緒に眠った記憶がない・・・
ギュッて・・・誰かにされた記憶も・・・恥ずかしくて嫌だろうけど・・・少しだけ・・・このままでいい?』
『ハズキちゃん・・・』
『(笑)なぁに・・・』
『また会えた(笑)』
その言葉に、悲しくなりグッと涙を堪えたハズキだった。
別れ際にノリトへ言った・・・最後の言葉になってしまった・・・
『もう言わない・・・』
-また(笑)会おうね。頑張ろう-
自分の言った言葉が木霊する・・・
『(笑)言わないと会えないよ?』
『言わなくても来るから(笑)』
『(笑)そっか』
『本当は一緒に暮らしたい(笑)』
『出たいな・・・』
『(笑)生きてれば出れるよ』
『ん(笑)・・・あったかいね』
『本当だね(笑)布団もかけてないよ?』
『布団は暑い(笑)』
『ハズキちゃん、まだ狙われてる?』
『(笑)ないよ』
『 ・・・僕』
『ノリトへ攻撃もない!だから死ななくてもいい。私の為に生きて・・・
ずっと・・・ノリトを探しながら逃げてた・・・何処にも居ないから海外でも探してた・・・ノリトと同じ歳の子だっただけ・・・
国内に居ると確信すると、狙われたから(笑)生きてるって気づけて嬉しかった』
『 ・・・狙われたのに?』
『(笑)生きてれば会える幸せ・・・絶対に生きてると信じて探してたから。
いつも、あと一歩だった・・・』
『ハズキちゃんはお仕事してる?
確か6個離れてたから・・・二十歳?』
『(笑)してるよ。しないと稼げないし、出来ない時は変わりに探しててくれる人を雇えない(笑)』
『ずーっと?』
『ずーっと(笑)。
ノリトを隠してる人も、お金を使って隠してた・・・
だから負けずに探さないとって(笑)』
『頑張ったね(笑)』
『ノリトに(笑)会いたかったもの・・・凄く幸せ・・・こーしてるのも・・・』
『(笑)嬉しい・・・』
小さな呟きに微笑んだハズキだった。
温度管理はされているので、換気の為の ほんの少しの間しか外気に触れる事さえ出来ない場所だった。
拘束する為の服で固定された姿で今の状態を知った。
誰だと眺める顔・・・激しく動けば、身を守る為の服のせいで体は大丈夫かと不安になるほどの華奢な姿だった。
病室側へ用意してくれた椅子に座ると、柵越しに見つめた。
視線に気づいたのだろう、静かに振り向いた顔にハズキは微笑んだ。
『ノリト?』
そっと名を呼んでみた・・・
『僕の本当の名前・・・何で知ってるの?』
『ハズキだよ(笑)
ノリちゃん・・・お誕生日(笑)おめでとう』
『 ・・・何歳の?』
『15歳。(笑)やせっぽちね・・・食べてるの?』
『 ・・・死ななきゃ皆が殺される・・・食べたら生きちゃう・・・』
『私の為に生きてくれない?』
『なんで?』
『ノリトは私の弟だから』
『 ・・・誰?』
『ハズキだよ(笑)』
『写真の・・・お姉さん?
マナちゃんと・・・さよなら した日に会った・・・ハズキちゃん?』
彼女が頷く・・・何とか思い出しながら呟くノリト・・・やっと呟いた目が潤みだした。
『お姉さんなら助けてよ・・・これ、外して・・・』
ベッド端に座っていたノリトが立ち上がり走り出したが・・・
ガン!
激しい音がして壁と拘束服を繋ぐ間の紐が張り詰め、壁の金具が鳴った。
半分までしか届かずに、膝まつくノリト・・・溢れた涙に辛く唇を強く結んだ。
『泣かないで・・・』
大丈夫だという笑みになったノリトだった・・・
『時々・・・本当の僕じゃなくなるんだ・・・僕の前に誰かが立って勝手な事をする・・・
それに別の日は怖くなる・・・別の僕が勝手に人を殴っちゃう・・・
本当の僕は・・・怖いから・・・任せるんだけど駄目な事もしちゃうから・・・
そのせいで、こうなっちゃった・・・いつ来たかも分からなくなっちゃった』
『一人で頑張ったね・・・』
『僕がこうだから会いに来なかった?』
少しずつ・・・互いの話をしていくハズキもいた。
『 ・・・どの写真が好き?』
『海(笑)確か皆がいる写真に海があったヤツ・・・笑ってる顔しか覚えてないけど・・・』
『(笑)そうだね、ノリトもたくさん笑ってた・・・私もソレが一番好き・・・
その写真・・・もう一度、見たいな』
懐かしそうな笑みのハズキに、穏やかな笑みで見つめたノリト・・・
『疲れたから・・・寝ながら話してもいい?』
『いいよ(笑)』
良かったと床に寝転ぶ姿に、微笑んだハズキだった・・・
『そこでも平気?』
『ん(笑)空が見えるし。以外とベッドよりも好きなんだ』
『(笑)赤ちゃんの頃からよね』
『そ?』
『(笑)砂まみれになったから・・・』
そうなんだと笑う顔に微笑んだ・・・眠くなったのか、寝息が聞こえてきた。
苦笑いをして誰かを呼ぼうと立ち上がったが・・・
『誰?』
声音の違うノリトの頭だけが上がった。
『 ・・・ハズキ(笑)』
『なにもん?』
『ハズキの姉よ(笑)、6年ぶりに会ったわ』
『これ、外して貰えよ』
『それが出来たら、私は中へ入れて貰えたしノリトを抱き締められたわ・・・』
『ちきしょう!』
悔しそうに呟くノリトは、項垂れたように また寝転んだ。
『 ・・・助けろよ』
『ノリトの体を守ってくれて、ありがとね。生きて会えたから嬉しいの・・・』
『ガキだから殺されずにすんだだけだ。利用出来そうだったから便利ではあったけどな』
『 ・・・15歳の言葉使いにしてくれない?』
『俺を知るのか?』
『先生に教えて貰ったの・・・ノリトを守る為の人格1って・・・』
『 1(笑)・・・ヤツが話したのか・・・口は上手いからな・・・』
『それで頑張れたのね・・・それでも・・・駄目な事は駄目と考えて、互いを利用して欲しかったわ』
『ガキの頭じゃ限界はあんだよ・・・仕方ねーから実行はしてやっけどよ』
『言葉・・・』
『お前には無理(笑) ・・・
だけど、今まで別の奴らに声は出さなかったぞ・・・それはヤツも。
ノリトが異常と思うくらいにビビったから本当にヤバいって思ってよ』
『 ・・・それが生きれた本当の理由だったかな・・・』
『施設の中は自由になったし(笑)金はくれたから自由に遊べたけどな』
『 ・・・貴方の記憶・・・教えてくれない?』
『 ・・・本当に居ねーのか?』
『ノリトに手が伸びる事も、親族の顔も見なくてすむわ』
『 ・・・良かった(笑)。マジでやべーのが居てよ。
我慢の限界とか言って髪の毛を切りに来んだよ・・・時々ナイフでよ・・・下手くそ!
耳を切りやがって・・・痛くなって暴れたふりして殴ってやったら(笑)次から凶器は無かった・・・』
『貴方がノリトと交代し始めた頃、もう一人は?』
『居ねーよ。アイツは、いつの間にか居てよ・・・女に連れ出される時に出たいって騒ぐから(笑)、俺は寝たい時に変わってやってる』
『じゃ、何をしてるかは・・・』
『ん?(笑)そりゃ交流会だろ・・・チクって人が変わったからな。
大人でも良い奴は居ると初めて知ったな・・・
男が連れ出す外は俺だ(笑)、演技して誰かを脅してた・・・電話だかんな。
それを すっとよ(笑)金をくれんだけどよ・・・喋り倒すから疲れてな・・・
結局ノリトが菓子を買ったりすっから、旨い酒は買えなかったんだよな』
ぺらぺらと話し出したノリトに、微笑みながら見返した。
今までの大冒険を聞こうと意識を変えた事で辛さは軽減した・・・そして話し方で・・・ノリトは守られていたのだと思えた。
だが逆に疑問が増えた・・・死にたいのは誰かと・・・
『その衣服はいつから?』
『 ・・・最初』
『誰がノリトを止めるの?』
『 ・・・』
話さないと言いたげに身を起こしてベッドへ戻ると寝そべった。
『ノリトの体が危険だから着せられてるのよね?』
『 ・・・』
眠りに入った事を知った。
暫くして体を横にして彼女が見えるように向きを直したノリトに気づいた・・・
『(笑)私も誉めてくれますか?』
『 ・・・ノリトを守ってくれて、ありがとね(笑)危険な場所から出してくれて・・・本当にありがとう』
『 ・・・ラッキーな人達だったからです(笑)あの人達と違い、聞いた話を信じてくれたから・・・』
『(笑)疲れるまで交代は出来ないの?』
『んー(笑)そうでもないですけど。頻繁にしてませんでしたね・・・以外と長時間は無理で(笑)』
『聞いていい?』
突然言い出したハズキに驚いて見返したまま頷いた。
『何故・・・ノリトを殺すの?』
『 ・・・これの理由が知りたいのですか?』
そうだと頷くハズキを、眺めながら考えているようだった。
『自分で死ねなかったから・・・たぶん・・・これは想像です。
皆に会いたくて・・・恋しくて・・・触れたくて・・・・
飛び降りたら終わる場所に居ても写真を思い出すと足も動かず・・・誰かに押されると確実に拒否する。
向こうは殺人になりますから(笑)無理な事も出来ず・・・今度は閉じ込めて・・・自分から自殺へ向くように・・・』
『それを拒否して二人の人格が出来たのね・・・』
『(笑)人格か・・・僕はノリトの一人、医師は2とか言ったかな(笑)・・・
も一人は口より先に手が出るから・・・観察して僕が代弁してたんだ。
ノリトは、ずっと泣いてる・・・駄目だと泣きながら・・・それでも自分でしない』
『生きたいのに・・・死ななきゃならなくて・・・それが出来ないから替わりが出来る人格が産まれた?』
『・・・お姉さんが替わりにって言ってた・・・それは貴女ですか?』
『 ・・・』
『小さな頃に・・・ペンダントをくれた・・・お姉さん・・・』
『 ・・・・』
ペンダントと聞いて思い当たり・・・懐かしくなり想いにふけり、そっとノリトを眺めると眠り始めていた。
うつ向くハズキの肩に医師が触れた。
『驚いたよ・・・
いつもは、今・・・話をしている人格2しか話していなかった。
それがノリト君と最初は思っていたが、違和感が残り・・・話を何度もしていくうちに ようやくノリト君が多重人格を持つ事を知った。
疲れると 人格1が出てくる・・・話し方は荒いが、ここで暴れる事は無かった。
調べて始めて・・・1の存在理由に納得した。
・・・施設員にまで暴力を受けていたから・・・親戚が時々、連れて行くが・・・それは恐怖を体へまで覚えさせる為だったらしい・・・
骨折にまでは成らず、大怪我にまでもならない微妙な匙加減・・・1が笑いながら言って怖くなったよ。
2が引き継いで話を聞くと・・・それぞれの 役割分担のようにしていると言った』
『3というのは・・・』
『声を聞いた事はない。静かに現れ、自殺の準備をする。
シーツを裂き・・・繋ぎクビへ巻く・・・食事なら・・・フォークで喉を・・・
散歩なら不意に駆け出して、柵へ・・・
それでも大人なら、それは完全に死ねるまでの行いではないと知る・・・だから寸出で止められ自殺志願の人格が居ると気づけた・・・それを3としたが・・・』
『なら・・・本来は3、1、2・・・で現れてますね・・・そんな気がします』
『確かに・・・私も今聞いていて思いました。
同時に現れた事に驚きました・・・なにより初めて・・・ノリト君の声を・・・話し方を聞けました』
『一度も・・・』
『ありません・・・1や2と話して頼むのですが拒否して無理だと・・・
目つきも違うので、もしかしてと声をかけると人格交代をしてしまいます・・・
お祖母さんと話をしたのは、2だけですが・・・それからノリト君が自殺をしようとした事はありません。
ですが不意に出られたらと・・・あれは脱がせる事も出来ません』
『お願いします・・・出来るだけ来ますから・・・治療は続けて下さいますか?』
分かったと悲し気に頷く医師・・・眠るノリトを一緒に見つめていた。
暖かな陽射しがノリトの体へ辺り、暑いのか布団を剥いでいた。
特別にと許可を貰い中へ入れたハズキは、優しくノリトの髪を撫で・・・静かに寄り添って寝そべるとノリトへ腕を回して抱き締めた。
『誰だ!』
『ハズキよ・・・ノリト・・・』
『 ・・・』
驚き慌て体が動いたが・・・一瞬、静かになり・・・
微かに震え始めたノリト・・・
『(笑)四人兄弟だったのに・・・こうして一緒に眠った記憶がない・・・
ギュッて・・・誰かにされた記憶も・・・恥ずかしくて嫌だろうけど・・・少しだけ・・・このままでいい?』
『ハズキちゃん・・・』
『(笑)なぁに・・・』
『また会えた(笑)』
その言葉に、悲しくなりグッと涙を堪えたハズキだった。
別れ際にノリトへ言った・・・最後の言葉になってしまった・・・
『もう言わない・・・』
-また(笑)会おうね。頑張ろう-
自分の言った言葉が木霊する・・・
『(笑)言わないと会えないよ?』
『言わなくても来るから(笑)』
『(笑)そっか』
『本当は一緒に暮らしたい(笑)』
『出たいな・・・』
『(笑)生きてれば出れるよ』
『ん(笑)・・・あったかいね』
『本当だね(笑)布団もかけてないよ?』
『布団は暑い(笑)』
『ハズキちゃん、まだ狙われてる?』
『(笑)ないよ』
『 ・・・僕』
『ノリトへ攻撃もない!だから死ななくてもいい。私の為に生きて・・・
ずっと・・・ノリトを探しながら逃げてた・・・何処にも居ないから海外でも探してた・・・ノリトと同じ歳の子だっただけ・・・
国内に居ると確信すると、狙われたから(笑)生きてるって気づけて嬉しかった』
『 ・・・狙われたのに?』
『(笑)生きてれば会える幸せ・・・絶対に生きてると信じて探してたから。
いつも、あと一歩だった・・・』
『ハズキちゃんはお仕事してる?
確か6個離れてたから・・・二十歳?』
『(笑)してるよ。しないと稼げないし、出来ない時は変わりに探しててくれる人を雇えない(笑)』
『ずーっと?』
『ずーっと(笑)。
ノリトを隠してる人も、お金を使って隠してた・・・
だから負けずに探さないとって(笑)』
『頑張ったね(笑)』
『ノリトに(笑)会いたかったもの・・・凄く幸せ・・・こーしてるのも・・・』
『(笑)嬉しい・・・』
小さな呟きに微笑んだハズキだった。