尾崎光弘のコラム 本ときどき小さな旅

本を読むとそこに書いてある場所に旅したくなります。また旅をするとその場所についての本を読んでみたくなります。

農村児童が夢中になるとき

2017-05-18 19:55:31 | 
前回(5/12)は、戦時下(昭和十八)の純農村児童が暮しの中で楽しいことはどんなことかという質問に答えたうちで、頻数の最も多かった「運動・遊び」の内訳と著者の解説を紹介しました。今回は、もっと具体的な子供の作文を紹介します。次回のために、作文には本文にはない番号❶〜❼をつけ、簡単に見出しをつけました。また💮は本書の著者による個々の作文への前書きです。今回は以上の紹介のみです。

💮次の例は山峡の村の子供で、山には見飽いてゐそうな者であるが、尚早朝の山登りに心からの歓びを感じてゐる。

《❶早朝の山登り
私は朝早く山のぼりに兄さんといつしよにでかけました。朝早く山にのぼるのはとてもきもちがよい、朝のくうきはすこしつめたいのですこしはながいたくなりますがそのうちに太陽がでてきました。するとこんどははんたいにすこしいせいよくのぼるとあせがでます。そのうちに山のてつぺんまでつきました。その時私はうれしくてたまりません。そのうちおべんとうお(を)たべるときの楽しさは私はそれほど楽しかつたことはありませんでした。(檜原 五男)

💮又山に栗拾ひや木の実取りに半日を過す事の出来るのは村の子供の特権である。

❷秋空の下で椿の実探し
秋空の下で、僕と保男君と和夫君で、川や山をすみからすみまでつばきのみをさがしては取つた。川をさがしきつて山にいつた。だが、山には一つも見つからなかつた。を(お)くへをくへと進んだ。山のをくふかくはいつていつた。なをも進んだ。すると和夫君が急に大さわぎをした。そつちへ行つて見るとたくさん栗が落ちていた。三人で栗をたくさんひる(ろ)つて、上の平の方こうに行つた。安一君の家の方が見へはじめた。とちゆう家の畠によつて大こんをこいで行つた。上の平について休ばで休んだ。それからさか道になつたのでき兵のまねをしてかけ下つた。家についた。そして川でとつたつばきのみをますではかつたら一しょう五合とすこしあつた。栗も三人で分けた。(檜原 五男)

💮雪が降れば北国の子供の世界が始まる。スキーの移入によつて今日は冬が最も活発な運動の季節になつてゐる。兎を追ひ乍ら馳け廻る村の子供の生活は都会人の憧れの姿である。

❸スキーで山から山へ
天気になると僕たちはスキイにのる。雪の降る日はさむいが天気になれば、それほどたのしい事はないのだ僕達は山から山へうつるのだ。スキイは僕達の体をじようぶにさせるひとつのだうぐだと先生にい[われて]ゐる。それがすぐて二月から三月頃が雪がしみてしみわたりをする日曜日頃には友人と山へ行く、朝は七時頃山へ行く。山へ行つて一番楽しいのは兎を追うのである。僕達が山をのぼつていくと兎が木をかじつている。それを上へまわつて上からおいおろすのである。僕達はそれが楽しいのである。(太田 六男)

💮次の例は学校の遠足であるが、平素友達と木拾ひや栗拾ひにでかけるのと異つた新しい興奮を感じてゐる。

❹秋の遠足にゾクゾク
私は今までにいちばん楽しかつたと思ふのは去年の秋の遠足である。遠足は大すきだから、半年前から楽しんで待つてゐたのである。だんだん近づいて来て行く先も望の通りにきまるが私の心はぞくぞくする程うれしくて思はず飛び上つて万歳と叫ぶのであつた。出発する前の夜などは遠足はの予習だと云つて、きやはんをつけたり草鞋をはいたりして両親に笑はれたが、いよいよその日になつて一同そろつて校門を出た時の心持は、思ひ出しても楽しいことであつた。(太田 六男)

💮川沿いの村々では魚釣りが子供の大きな楽しみである。これには熟練した技術が要る。子供達は既に魚の習性を知り、釣りのこつを心得えてゐる。次の例は短い言葉の中によく釣りの呼吸を言表してゐる。

❺うなぎを二匹も突いた
僕はこの間につきにいつた。松竹から川にはいつた、僕はむ中で魚を見つけたらがいないので、上へ上へといつた、この(ん)どはいた。どんどんついて行くとうなぎがいた。/僕はうなぎだからもつたいないと思つてよきかまへてついた、だがうなぎのかはは、かたいのでつきがすべつた。又次の石へもぐつてくびをだしていた、又かまへてついた。こんどはつけた。僕はうれしくて、うれしくてたまらなかつた。こんどはぱんつ一枚になつてふかい所へはいつた、又石をはいでいくと又うなぎがいた、またついたのでうなぎは二匹になつた、僕はうれしくてはやくお母様に見せたいと思つて僕はみんなより先にかへつた。(恩方Ⅰ 五男)

❻魚釣りにドキドキ
さほ(えお)をかたにかけて魚釣りに行つた。糸をたれて魚のかかるのをまつている。空には雲がなく夏の空は美しい。/「くく」と魚がひき浮がしづむ。さほをあげる。さほがすこししなれる。大きなぎばちがかかつている。むねが「どきどき」となる。ばけつの中で「ぴやぴしや」とはねまはつて居る。また糸をたれる。をなじ事をいく回かくりかへしてゐ中に全部で九匹になつたから家へかへつた。

💮うなぎをさすのは釣りの中でも仲々の技巧を必要とするものであらう。冷い水の中を、静かにうないを追ひ息を殺し乍らねらひをつけ、見事にしとめた喜びは如何ばかりであらう。/斯かる楽しい遊びに村の子供は恵まれては居るが、併し彼等は都会の子供の様に休日を一日中遊び暮す様な事は出来ない。家に帰ると忙しい手伝がが待ち受けてゐる。この仕事の合ひ間にしばしの時を見付けて、子供らしく遊び戯れてゐるのである。次に例は手のすいた時に、幼い弟妹を負つて子守し乍ら遊んだり、或は山羊の運動をさせる事自身に遊びを見出してゐるものである。

❼ヤギを連れて
家にかへつて仕事をやつたりこもりをしたりじんとりをやつたりするのがぼくとして一ばんたのしいのですが、ぼくもあそびたいと思ひますが、じきようをいひつけられてあそびにも行きません。ときどきようがないとたかをおぶつてあそびに行きます、あそびに行くときにはやぎをつれて行きます。やぎをつれて原に行つてうんどうします。やぎがつかれると草をたべさせます。やぎはじぶんのすきじようのところに行き、草をたべます。(高部屋 五男)》(牛島義友『農村児童の心理』巖松堂書店 一九四七 )
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