尾崎光弘のコラム 本ときどき小さな旅

本を読むとそこに書いてある場所に旅したくなります。また旅をするとその場所についての本を読んでみたくなります。

商業の発達は百姓と商人の関係を変えた

2017-06-16 10:35:29 | 
前回(6/9)は、牛島義友『農村児童の心理』(巖松堂書店 一九四七)の第十五章「村の変貌」に転じ、農村が変っていく契機は、「都市の発達」が村落に与える影響にあったことを見ました。繰り返せば、「都会的なもの」が農村を変えたのです。職業的に言えばまず商業、次いで工業の発達が村落へ侵入し農村が変っていったという訳です。そこで今回は古代から明治維新まで、商業の村落へ影響史を大まかにみますが、やはり注目すべきは近世における動きだと思われます。百姓と商人の関係に焦点を当て読んでいきます。(漢字かな遣いを現代風に変えてあります。太字は本文では傍点箇所です)


《上代(古代のこと)の市(いち)は政治的、宗教的、経済的、社会的機関として成立したもので、村には交易や社交の便益を与えてくれた。市町村に対立するものでなく、又之によって村民の経済生活が撹乱された訳ではない。近世の城下町は多少都鄙の区別を明らかにし、農村を軽視する弊風を起したが村の生活がそれに左右される程ではなかった。城下町の支持者は結局は農民であった。武士達も少し前までは在郷の生活をしていたし、その家人達も多く農民だった。又町へ集まった商人、工人達も元は耕作片手間に生活するか、村々を流浪して業を立てねばならなかった。かかる村で生活していた人が町に定住する様になったのである。町の旧家と言われる者も、一人として元は地主の子で無かったものはない。併し村の子であり乍ら自分の生地を軽んずる傾向が生じた。商人が村を行商して歩いた時代には村民の方が優位を感じていた。商人や漁民は自分の生活に不可欠な米を得るために村へ商品を持参し収穫の秋に米を得て帰った。あきないの語はこの秋熟(シュウジュク)交換から来たと考えるのが通説である。ところが商人が町に店を構え、種々の商品を並べて、消費者の便をはかる様になってから地位が転じ、村民が町民の下に立つ様になった。併し江戸時代には各藩の制限がはげしく、商人もその資本主義的威力を充分発揮する事が出来なかった。或る藩では一定の町場以外では商人の売買も居住も許さず、村へ出見世(デミセ)を設ける事も禁じた。従って村の自給自足の体制は維持され、その経済生活が商人の為に著しく影響されることはなかった。

明治維新になり、職業住居の自由が許され、村内に店を開く者も増した。しかし村民が小規模の商業をしている中(ウチ)は、村民の為の奉仕機関の域を出でず、農繁期等は日雇いに傭われたりして村民と共に生活していた。処が村の有力者が商店を開業したり、外来者が商店を営む様になると事情が一変し、何年かの後には村民の耕地や山林が彼の手に渡ってしまう。村の肥料商と村民との関係などは近時まで深刻な資本主義的暴虐の跡を示している。》(牛島義友『農村児童の心理』巖松堂書店 一九四七 三九二〜三頁)



下線部に注目すると、近世において商人が町に定住するようになると、それまでは百姓優位だった関係が逆転し、町人(商人)が優位になります。なぜかと考えますと、町の商品経済が農村に浸透し、これまで自給していた農具や肥料などの生産手段を購入しなければ、農業生産が成り立たなくなり、こうなると、町に定住した貨幣を持っている商人の力は大きくなります。必要な商品を種々取り揃え、百姓の需要に応えようとします。他方百姓側で資金が不足する場合には、商人に借金(前借り)をしなければならなくなります。返済は農産物の順調な収穫があった場合に限られます。返せない場合は前借りの繰り返しで生き延びるか、逃げ出す(逃散・欠落ち)しかなくなります。こうなると、いつのまにか耕作されなくなった荒地が増え「枯村」化してしまいます。近代に入ると農地は私有化されますが、借金を返せない百姓にとっては手放さずには済まず、小作農を増やしていくことになる一方で、村落内外の有力者のもとに集積された耕地や山林は、ついに大地主を生み出していったのだと考えられます。

以上を、商業の発達が農村に与えた影響という観点で眺めますと、百姓は自給自足の暮らしを壊しながら、商品経済に依存するしかない暮らしに自らを変えてきたことが分かります。一方商業は自らの発達によって、農村の暮らしを質的に変えたということができます。これを商人と百姓の関係で捉え直すと、近世中に百姓優位から商人優位に変ったことを確かめることができます。まことに荒っぽい把握ですが、私が欲しいのは詳しい知識ではなく、変遷のイメージなのです。
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