徒然草紙

読書が大好きな行政書士の思索の日々

クリスマスのフロスト

2016-12-23 16:32:54 | 読書
「クリスマスのフロスト」R・D・ウィングフィールド作。芹澤 惠訳。1984年にイギリスで発売されたミステリー。
 
 この作品、理屈抜きに面白い。特に全編を貫く疾走感がたまりません。500ページを超えるボリュームがありながら、そのようなことは全く感じさせないのです。いわゆる一気読み、完徹必至とはこの作品のことをいうのでしょう。
 
 クリスマスを十日後に控えた、デントン市で一人の少女が失踪する。警察の必死の捜索にも関わらず、少女の行方はようとして知れない。捜査を続けるフロストの前に32年前に起きた現金強奪事件が影を落とし始める。はたして二つの事件に関連はあるのか。失踪した少女は無事なのか。
 
 と、あらすじを簡単に言ってしまえば、以上のようになるのですが、この作品の面白さは交錯する事件の謎解きだけではありません。何よりも主人公のジャック・フロストの個性が作品を魅力的にしています。今だったら、セクハラで訴えられることうけあいの卑猥なる悪態をつきまくり、ひたすら事件解決に邁進。そうかと言って、快刀乱麻を断つ如き鮮やかな手並みを見せることなど全くありません。むしろ、ヘマをすることの方が多い。事務処理は大嫌いで、デスクの上だけではなく、執務室全体に未処理の書類がうずたかく積まれています。当然、上司のうけも良くありません。一見、はちゃめちゃな感じですが、不思議と同僚達には人気があるのです。借金のために道を踏み外しそうになる若い巡査を立ち直らせる場面があるのですが、その部分を読むと、フロストが他人の痛みの分かる苦労人だということが分かります。そこが同僚達には分かるのですね。私も読んでいて、むべなるかな、と思わずうなづいてしまいました。
 
 けれども、フロストの真骨頂はこんなところにはありません。とにかく、彼は立ち止まるということをしません。夜中だろうが、夜明けだろうが関係なく動き回り、(ヘマをやらかして、上司から怒鳴りつけられながらも)事件の真相に迫っていくのです。読んでいるほうは、まるでジェットコースターにでも乗っているような気分です。この男、いつ眠るんだ、と余計な心配をしてしまうほどの勢いです。この勢いが最後まで続くわけです。圧倒されてしまいます。
 
 年の瀬に、また面白い本と出会うことが出来ました。
 

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