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2017-06-17 14:29:40 | 日記
害獣とオオカミ再導入

日本中で進行する野生鳥獣被害、中でも鹿と猪による農作物被害は深刻で、被害総額は年間で200億円を超えています。この額の算出はあくまで農家からの申告ベースで、これは損害保険を申請する際に申告されたもの。それ以外の表に出ない被害を含めると数倍に及ぶのでは無いかと思われます。


農作物以外では、増えすぎた鹿が若木の芽を食べつくす事による森林樹木の状態悪化、それによって大規模に枯れた奥山からの表土流出、最悪の場合には土砂崩れにまで発展しています。
→http://www.shinrin-ringyou.com/topics/shika_mondai.php

こういった問題を解決する一つの方法として、以前からオオカミの再導入案が提唱されてきました。背景にあるのは、年間数十万頭もの害獣駆除を行っているにも関わらず、多くの地域では一向に個体数抑制に歯止めがかからない事、また駆除を担当する猟師さんそのものの数が急速に減っており改善の目処が立っていないこと、そして日本人そのものの数が減っているという事情があります。

オオカミ再導入について提唱している代表的な団体として、日本オオカミ協会があります。この団体は識者も踏まえ、長年地道な研究と活動を行っているようです。

→http://www.japan-wolf.org/

一般社団法人日本オオカミ協会は、オオカミに対する誤解と偏見を解いて、その生態を科学的に正しく伝え、世界中のオオカミの保護と復活ために活動しています
現在のシカ,イノシシなどの中大型哺乳類の増えすぎは,明治時代のオオカミの絶滅に第一の原因を求めることができます。それゆえに,絶滅種オオカミと同種です。絶滅種コウノトリやトキの再導入による復活となんら異なるものではありません。本州,四国,九州の場合,中国に生息するオオカミを,北海道には沿海州のオオカミを再導入することによって実現することができます。
オオカミの再導入については共感の声が多くある一方で、当然ながら反対意見も多々存在します。反対派の主だった意見はやはり安全面の問題で、

事故があったときに誰が責任を取るのか?
オオカミ監視や管理の予算は誰が払うのか?
家畜への被害や補償はどうするのか?
など。

もっともな意見です。

ただ、再導入派と反対派の間には根本的な論点のすれ違いがあるようにも感じます。

日本の自然環境を回復させる案を論じている前者に対し、責任とか予算とか、誰も回答できない『正論』を突きつける後者。対案のない反対論は『野党第一党』と同じで生産的な議論には発展しないだろうと思います。

そんな中おもしろい事を言っているのが、以前も別記事で触れた森林ジャーナリストの田中淳夫氏。

→オオカミとイヌに違いはあるのか?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakaatsuo/20160902-00061744/

以下引用

私がオオカミ再導入に反対の理由は多岐にわたる……というか山ほどあるが、何よりニホンオオカミは絶滅したのだから、再導入するには外来のオオカミを持ち込むということである。外来種を放してどうする、と指摘してきた。
もはや外国のオオカミを再導入するぐらいなら、ノイヌ(野犬の中でも、山野で自活したイヌ)を増やせばよいということになる。

いや、すでに日本の野山にノイヌは増えている。飼い主に捨てられたり狩猟時にはぐれたイヌが野生化するだけでなく、子孫をつくって増えているケースも報告されている。生まれながらのノイヌは、オオカミと生態は変わらないかもしれない。
田中氏は、オオカミ再導入については反対の立場。記事では安全面においては触れておらず、(絶滅した)ニホンオオカミではない外来種を導入してどうするのか?という点を指摘。それならばむしろ野犬に任せておけばいいではないか!という、まったく違った角度からの論を投げかけています。
(DNA的にはオオカミも犬も種としての違いはないため)

氏の記事はコンテンツ的に面白くなる工夫がされているため、読み物としての知的なエンタメ性に興味が惹かれがちですが、その根拠となるデータや研究、文献をわかりやすく踏まえた説明がしてある点に真髄があります。

ただし野犬の場合も、

じゃあ野犬が人を噛んだらどうするんだ!
狂犬病が発生したらどうするんだ!
家畜被害は誰が補償するんだ!
という外野の『正論』に対する答えは出せません。

結局のところ自然に対する責任は誰も取れないということ。その自然すらも人間が何らかの影響を及ぼしているため、完全な自然などは今や少なく、それだけに誰か特定の個人への責任を回帰させるのは無理な話に思えます。自然を壊した責任は誰も取らず、回復させようとした場合に失敗したら責任を取らせようという構図はなかなか残酷。

オオカミに限らず、日本で何かをしようと思った時、必ず誰かが「xxxxしたらどうするんだ!」という言論封殺的な責任論をぶち上げ、誰も回答できずに何も進まないという負の慣例があります。海外が先行事例を作り、何とか責任回避の下地が整った段階でようやく物事が動くというフットワークの重さがあります。

オオカミ再導入の場合、アメリカのイエローストーン国立公園をはじめ、周辺地域での実験的導入で目覚ましいほどの自然環境改善が認められたこともあり、それが日本国内でのオオカミ再導入論の大きな拠り所となっています。

→オオカミ復活の事例 イエローストーン国立公園
https://blog.fore-ma.com/?p=13

当然ながらイエローストーン国立公園周辺では家畜被害が増加し、牧場主はオオカミを憎んでいるとの記事もあります。また、自然環境の回復保護でオオカミだけでなくハイイログマも個体数が増え、それにともなう人身事故も起こっています。

→人を襲ったクマは殺されるべきか
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/a/082400028/



最後に、賛成・反対の立場はともかくとして、ドライに現実を分析した研究報告をご紹介。

(財)自然環境研究センター 米田政明氏 著

知床に再導入したオオカミを管理できるか
http://shiretoko-museum.mydns.jp/_media/shuppan/kempo/2701s_yoneda.pdf

以下、結論部分を引用。

1)収容力:知床半島だけでは1パックのオオカ ミでさえ収容するのは困難である.拡大知床 地域とすれば,潜在エサとなるエゾシカも豊 富であり,15頭のパックを最大3パックほど 収容できそうである.ただし,この場合,予 測不可能な事態がおきて導入個体の管理強化 の必要が生じた場合,地域が広いため対応が より困難となる.

2)導入後のオオカミの管理:分布域や個体数を 望ましいにようにコントロールすることは特 に第二世代以降で難しく,希少種の捕食や競 合種への影響など予測困難な事態がおきた場 合,その対処には多くの困難が予想される. 被害レベルを低減させるためには,第二世代 以降の捕獲(生息数)管理を行いながら,必 要な地域を柵などで物理的に保護していく対 策などが考えられるがそのための経費は相当 なものになろう.

3)社会的受容面:導入後は家畜被害が予想され 低い確率であっても人身被害もおきる可能性 があるが,他の野生動物による被害補償との 整合性から直接被害補償システムの構築には 困難が予想される.社会的受容は,職業層に よる意見の違いが大きいと考えられ,農家に は反対意見が強いであろう.
氏は、イエローストーンの成功事例を踏まえ、上記報告が「単なる取り越し苦労で、全てはうまくいくのではないか?という気持ちも持っている」 と後書きに記載しています。気持ちというより願いかもしれません。

とは言え、野生動物の個体管理に関してはIT及びIoTの急激な進歩で従来ではありえなかった方法が今後次々と登場することが予想されます。自動飛行ドローンの活用、顔認証による固体識別、ビーコン、小規模発電と末端機器のIoT..。野生動物の個体管理に関しては、今後はより精密な把握が可能になるのは間違いないと思われます。

「反対ありきの現状維持至上主義」ではなく、まずやってみて、駄目なら修正を重ねるのが今世紀のあるべき姿。識者の声に耳を傾けながらも、トライアンドエラーを繰り返しながらのオープンソース開発的なスタイルが求められているように思えます。



冒頭写真
By Silke Sohler – Own work. Heidelberg, Zoo, EOS 1000, colour slide, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=781361
投稿日: 2016年9月6日作成者 koizumiカテゴリー ニホンオオカミ, 絶滅種, 狼
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