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2017-06-17 14:18:27 | 日記
かぜ”の治療が世界を救う
6月13日 12時49分
知ってますか?恐ろしい推計があるんです。対策をとらないとおよそ30年後、”1000万人が死亡”。その対策が求められているのは薬が効かない「耐性菌」。抗生物質など抗菌薬を繰り返し使う中で、細菌自体が変化し出現することがあるんです。世界を救うために、いま、”かぜ”の治療から変わろうとしています。(名古屋局・松岡康子記者)
わずか10分 グラム染色って?わずか10分 グラム染色って?
奈良県橿原市にある「まえだ耳鼻咽喉科クリニック」は、かぜや中耳炎などの患者が訪れる、一見普通のクリニックです。14年前、院長の前田稔彦さんが開業しました。

ここでは抗菌薬を極力処方しないよう、診療に「グラム染色」と呼ばれる検査を取り入れています。患者の鼻水やたんを、特殊な染料など4種類の液体を使って染めたあと、顕微鏡でのぞきます。10分ほどで、細菌が原因かを推定することができ、検査結果をもとに、抗菌薬を処方するかどうか、どの抗菌薬を処方するかを判断します。
出発点 自身の治療への疑問
グラム染色を導入したのは、開業してまもない13年前。抗菌薬が効きにくい耐性菌の問題を知ったからでした。病状が悪化した時の責任や、患者が来なくなってしまうおそれなどから、患者や保護者に求められればもちろんのこと、かぜや中耳炎の患者のほとんどに、抗菌薬を処方していたみずからの診療に疑問を持ったからでした。

前田医師は「中耳炎の患者さんで、一見治った感じになっても、すぐに再発したり、抗生物質を次々に変えても、全く効かなかったりという事例が散見されました。中耳炎なら命に関わりませんが、例えば肺炎だと命に直結する。抗生物質は本当に必要な患者にだけと思うようになった」と当時を振り返ります。

実は日本では、抗菌薬の大部分が入院患者にではなく、かぜなどで訪れる外来患者に処方されているんです。
ウイルスか?細菌か?それが大事
検査の画像は、患者にも見せています。取材に訪れた日、のどの痛みと微熱、黄色い鼻水が出るという、40代の男性が診察を受けに訪れました。
検査したところ、画像には白血球は見られるものの、問題となる菌は見つかりませんでした。

前田医師は、細菌ではなくウイルス性のかぜと判断し、男性に「抗生物質は必要ありません。炎症を抑える薬で様子を見ていきましょう」と説明しました。
実は、かぜは、細菌よりもウイルスが原因であることが多く、しかも抗菌薬は、もともとウイルスには効かないのです。

男性は「細菌が原因でないことがわかって良かったです。むだに飲む薬がなくなっていいと思う」と話していました。
細菌がいたって元気なら処方なし
細菌が原因だと推定されても、患者が元気であれば、抗菌薬を処方せず様子を見ます。

この日、鼻水が長引き、少し咳が出る8か月の赤ちゃんが来ていました。検査をすると、「インフルエンザ菌」と呼ばれる細菌が原因の可能性が疑われました。
「インフルエンザ菌」は、まれに乳幼児に敗血症や髄膜炎を起こすこともある細菌です。

前田医師は、母子手帳でインフルエンザ菌による髄膜炎を予防するワクチンを打っていることも確認したうえで、次のように説明しました。

「菌がいましたけど、前回よりましな気がするし、そんなに悪くなっていないので抗生物質を出さずに、鼻水を吸っていきます。熱が出てきたとか、中耳炎になったとか、悪化した場合は、抗生物質の出番になってくるかと思います」
細菌がいたって元気なら処方なし
どうしても必要な時は…
さらに、抗菌薬が必要な場合でも、耐性菌をできるだけ生まないよう薬を選んでいます。

同じ日、13歳の男の子が、とてもしんどそうな様子で受診していました。39度を超える熱があり、鼻水や咳、のどの痛みを訴えていました。検査の結果見えたのは、「肺炎球菌」。

前田医師は、肺炎を疑い、男の子は呼吸器に持病もあることから、肺炎球菌を“ターゲットにしぼった抗菌薬”を処方することにしました。
抗菌薬を途中で飲むのを止めたりすると、生き残った菌が耐性菌になるおそれがあるため、前田医師は「ペニシリン系の抗生物質を出しますので、量が多いけど頑張ってしっかり飲んで。帰ったらきょうの分、すぐ飲んで下さい」と、忘れずに飲むように指導しました。
抗菌薬6分の1に
抗菌薬の処方を慎重に行ってきた前田医師。抗菌薬の使用量は、12年間で6分の1に減り、治療期間も短縮したと言います。

前田医師は「こういう小さなクリニックですが、特にかぜに関しては、最前線の病院です。一番診る数も多いですし、少しでも耐性菌の脅威を減らすために、極力、抗生物質を出すのを控えて、診療していくことが大事だと思っています」と話しています。
厚労省”かぜの多くは抗菌薬不要”
厚生労働省が今月公表した手引きには、乳幼児以外、小学生以上の子どもと成人の、かぜと下痢への抗菌薬の対応について書かれています。

その中には、かぜには多くの場合、抗菌薬は不要であることが明記されています。また、抗菌薬が必要なのは、どのような状態の時なのか、そして必要な場合も、耐性菌をできるだけ作らないために、どの抗菌薬を使うべきかが、細かく記されています。

前田医師が実践してきた内容が盛り込まれているのです。手引きは、外来診療を行う医師向けに書かれていますが、細菌とウイルスの違いや、なぜ不要な場合には抗菌薬を飲まない方がいいかなどについて、患者の私たちにも分かりやすく説明されています。
対策とらねば1000万人死亡
イギリスの研究機関は、耐性菌に対して、何も対策がとられなければ、2050年には、世界で年間1000万人が耐性菌によって死亡すると推計しています。

その数は、がんで死亡する患者より多いというのです。耐性菌で死亡するというのは、どういうことなのか?。
なかなかイメージできないかもしれませんが、例えば、何かの手術を受けたり、がんなどの治療で免疫力が低下したりした際に、耐性菌による肺炎などを起こすと、使える薬がほとんどないために、命に関わることになります。
耐性菌によって、これまで治せたはずの病気が治せなくなるおそれがあるのです。
私たちが気をつけること
いざという時に使える抗菌薬がないということにならないためにも、私たち自身も気をつけるべきことがあります。

それは、医師に自分から「抗菌薬をください」と求めないことです。患者から求められると、必要がないと思っても処方してしまうという医師もいるからです。

また、家に残してあった抗菌薬を、自分の判断で飲んだり、他の人にあげたりしてはいけません。抗菌薬は、医師の指示に従って、必要な時だけ使う。安易に頼らないということを、私たちも心がけるべきだと思います。世界を救うためにも。
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