編者のつぶやき

川田文学.comの管理者によるブログ。文学、映画を中心に日常をランダムに綴っていく雑文

東中野ポレポレ

2017年05月19日 | Weblog
先日、東中野ポレポレという映画館で、人生フルーツという、ドキュメンタリー映画を観てきた。
もともと、東海テレビで制作され、テレビ放映された作品だが、大きな反響があり、映画館で上映されるまでに至ったという。
平日朝イチの上映30分前には、すでに入り口付近に長蛇の列ができていた。

東中野ポレポレは、100席ほどの単館だが、シネコンとは違った落ち着いた雰囲気がある。

名古屋の団地の一角で、野菜や果物をそだてながら、建築家レーモンド氏設計の丸太小屋を住居に、仲睦まじく毎日を精一杯生きる90歳代のご夫婦のこだわりの日常を追ったもので、私はすっかり魅了されてしまった。

ここまで動き続ける高齢者がいるとは…。
映画を観た後、彼らに関する書籍を入手できるものは全て購入し、夢中で読んだ。フィルムでは、描ききれない、もっと深い何かがあるに違いない、と思った。
映画では、東大出の建築家・修一さんを中心に描かれていたが、関連書籍を取り寄せてみると、農作術、お料理や編み物、生活作法全般の方面で、妻のひでこさんの方が、むしろ有名なようだった。

『いつも笑顔で』をモットーに、ネガティブなことは、決して口に出さない。そうすれば、自然といい方面に向かう、と語るひでこさんのファンになってしまった。

ひでこさんは、名古屋の知多半島にあった200年間以上続いた酒蔵の一人娘として育ち、幼いころの生活を通して、家具や食器の目利き、四季を通じた洗練された生活術などが自然と身についた。
壮絶な戦争体験と、20代に病気で両親を亡くした悲しい経験が、ひでこさんの『いつも笑顔で』の境地に至らしめた、と私は勝手に解釈した。実際、修一さんを見送る朝も、ひでこさんは、必死に笑っていた。

修一さんは亡くなる数ヶ月前に、ある精神病院施設の設計図の監修を依頼され、
「これじゃ、もっと病気が悪くなっちゃうよ」と言って、無料で設計図を提供した。
恐らく、緑に囲まれた、これまでの常識を覆すような遊びの多い設計図だったようだ。
施設の責任者は、いままでの設計図を反故にし、修一さんの設計図を採用したという。これもなかなかできることではない、と思った。
完成を見ることなく、修一さんは亡くなった。

そんな修一さんの言葉で印象的だったのは、
「いまの人は、お金は万能のように思っているみたいだけど、じつはお金ほど脆弱なものはない。(交換できなければ)ただの紙切れなんだからね。」
という言葉だ。
逞しく、生命力が溢れる、言葉だと思った。

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