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2017-07-11 12:19:02 | 日記
京都済生会
中央病院整形外科 仲尾保志 先生
 神経再建外科の進歩

  神経は、脳からの信号を四肢に伝達してそれを機能させるほか、手指が感じた触覚や温度、痛みなどを逆に脳に伝える役目も担っています。これが、何らかの傷害で切断されると、信号の伝達経路が絶たれるため、重度の機能障害が生じます。

  しかしながら、一度傷害された神経も、近年のマイクロサージャリーの技術や神経生理学の進歩によって、再建が可能になりつつあります。手足の末梢神経に限れば、再度その切断された神経端を縫合すれば、かなりの機能回復が可能なまでに臨床医学は進んでいます。

  いっぽう、医学の進歩が、未だ解決できない神経損傷も残されています。一つは、長い距離の末梢神経が損傷されて縫合できない場合、もう一つは脊髄損傷や視神経損傷に代表される中枢神経損傷の場合です。私は、その中で前者の末梢神経の再建を目指して、過去10年間研究を行ってきました。

  最初に行ったのは、人工神経の開発で、縫合できないほど距離が開いてしまった抹消神経の切断端を、シリコンでできたチューブで架橋しました。当然、ただのチューブでは神経がつながるはずがありませんが、私はこのチューブの中にさまざまな神経成長物質を付加することを試みました。

  私がこの研究を始めた10年前は、ちょうど細胞接着分子が生理学の分野で注目され始めた頃で(今では、多くの本が出ていますが)、特に神経成長作用を持つとラミニンという細胞接着分子をチューブ内にコーティングすることを考えました。多くの失敗の末、ようやくある程度の欠損長なら、ラミニンを入れた人工神経で架橋して再生神経を誘導することができるようになりました。このとき感じたのは、神経には信じられないほどの再生、成長能力があり、良好な環境を与えれば、再び延びて機能の回復が期待できるということでした。

  私は、1992年からカナダのトロント大学に留学しました。そこには、北米でNo1と言われる抹消神経再建外科の権威、Susan E.Mackinnon教授がいたからです。私は、彼とともに、今度は人口神経とは違い、全く新しい再建方法を模索することになります。それは、神経移植による再建でした。私が、日本で作っていた人工神経は、短い神経の欠損は架橋できるのですが、長い欠損を越えての再生神経を誘導すること不可能でした。どうしても神経組織でつなぐことが必要だったのです。Mackinnon教授は、北米で最初に死体から採取した神経で、子供の大腿全長にわたる神経欠損を再建し、機能を回復させたことで知られていました。

  私は、このころ、同時に移植免疫学の権威であるHay教授の研究室で、さまざまな移植免疫に関する基礎的実験を行う機会にも恵まれました。やがて私は、Mackinnon 教授とともに、米国のWashington大学に移り、新しいモノクローナル抗体を用いた免疫抑制下での同種神経移植に、動物実験で成功しました。 これは、従来の心臓移植などで用いられてきた強い副作用を持つ免疫抑制剤を使わない組織移植で、現在は欧米を中心に臨床応用が始まろうとしています。

  さて、このように末梢神経再建の分野でも、一般の患者さんが知らないところで、膨大な先端的研究が積み重ねられ、それらはまさに臨床応用されようとしています。では、脊髄損傷などの中枢神経はどうなのでしょうか?今でも、ほとんどの臨床医が、脊髄損傷は、絶対に回復しないと信じているでしょう。脊髄は私の専門とする研究分野から離れますが、実は、この分野においても、さまざまな研究が優れた成果を上げているのです。

  脊髄は、末梢神経と違って、縫合できても簡単に再生しません。その違いは何処にあるのでしょうか?、抹消神経では、軸索という一本の神経単位が、それぞれシュワン細胞という神経の成長に欠かせない細胞に取り囲まれ、さらにその周りが基底膜という管腔構造で覆われています。この基底膜にも、切れた軸索を成長させるラミニンという物質がたくさん含まれていることが知られています。

  いっぽう中枢神経では、オリゴデンドロサイトという細胞が複数の軸策を取り囲み、これらはさらにアストロサイトの突起で覆われ、そして複数の軸策が基底膜で囲まれることになります。 軸策の再生には、末梢神経のように、たくさんの基底膜の筒が存在し、さらに神経成長物質などを分泌するシュワン細胞が存在していることが必要で、これらの条件が満たされない中枢神経は、環境が不利なのです。また、人間など哺乳類では再生しないといわれていても、魚や両生類では、中枢神経を損傷しても再生することが知られています。

  これはアストロサイトが索条に配列して、末梢神経のように再生の手がかりとなるような構造をとっているためと考えられています。さらに最近の知見では、哺乳動物の中枢神経には、軸索の再生や成長を阻害するような物質が含まれていることも解ってきました。この分子を抗体でブロックすることで、切断された中枢神経を再生させた報告があります。 また、切断した中枢神経が再生する魚では、この阻害物質が中枢神経に含まれていないことも明らかにされています。

  このような知見から、人の中枢神経の再建においても、神経成長阻害物質をブロックしたり、神経が再生しやすい構造を構築することで、再生させることが可能ではないかと考えられるようになりました。

1994年にNatureという科学雑誌に、衝撃的な論文が掲載されました。

  それは、日本の京都大学の川口三郎博士らのグループによるもので(Nature vol .367,13,167-170,1994)、ラットの切断した脊髄を胎児の末梢神経で架橋し、脊髄の再生に成功したとするものでした。

  その論文には、脊髄が支配する末梢神経での筋電図と、ラットが再び金網をよじ登る写真も掲載されていました。 私は、いくつかの学会でこの川口三郎博士とご一緒する機会があり、また厚生省の研究班でも一緒に仕事をしましたので、この脊髄を再建したラットのビデオを見る機会がありました。そして、手術したラットがするすると金網をよじ登るさまを見て、日本でこのような中枢神経再建に関する先進的な研究が行われていることに驚きました。

  私のこれまでの研究は、主に末梢神経の再建に関するもので、その成果が、日本経済新聞の1998年3月28日および4月27日に掲載されました。それをきっかけに、この文章を書く依頼をいただいたのですが、専門外とはいえ、中枢神経の研究の様子についてもお話しました。

  中枢神経の再建が臨床応用されるには、まだ多くのハードルを越える必要があると思いますが、この文章で、現在、脊髄損傷を受けながらもがんばっておられる方々が、新たな希望の光を感じ取っていただければ幸せです。


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