大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年03月13日 | 植物

<1901> 大和の花 (165) ダンコウバイ (檀香梅)                                  クスノキ科 クロモジ属

                    

 山地の落葉樹林内や林縁に生える落葉低木で、本州の関東地方以西、四国、九州、国外では朝鮮半島から中国東北部に分布する。大和(奈良県)ではほぼ全域の山地で見られる。高さは5、6メートルになり、幹は叢生してまばらに枝を広げ、丸まった樹形を見せる。新枝は黄緑色から黄褐色、赤褐色で、灰褐色の2年枝では皮目が目立つ。葉は広卵形で、普通先端部が3つに裂けるが、裂けない全縁の葉も見られる。基部は切形から浅い心形で、秋にはみごとな黄葉になる。

 花期は3月から4月ごろで、葉の展開する前に黄色い小さな花が数個かたまって点じるようにつき、まだ寒さの残る枯れ色の林の中で春を告げる印象がある。花序は無柄で、枝木にくっつくように見えるが、よく似る同属のアブラチャン(油瀝青)とは花序の柄の有無によって見分けられる。アブラチャンの花序には柄がある。なお、花は雌雄異株で、雄花序は雌花序よりも大きく、花の数も多い。果実は直径8ミリほどの球形の液果で、秋に赤色から黒紫色に熟す。

 果実や材に芳香があり、楊枝や細工物に利用されて来た。ダンコウバイ(檀香梅)の「檀香」はビャクダン(白檀)の漢名で、檀香梅の名はその芳香に因むもので、ロウバイ(蝋梅)の1品種に用いられていた名を転用したものと言われ、ウメに関わりはない。 写真はまだ青みのない早春の雑木林を背景に黄色い花を咲かせるダンコウバイ。   三月や 寒暖ありて 向き合へり

<1902> 大和の花 (166) アブラチャン (油瀝青)                                  クスノキ科 クロモジ属

       

  高さが5メートルほどになる落葉低木で、落葉広葉樹林やその林縁に生える。また、スギやヒノキの人工林における低木層の主要樹種としても知られる。本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも広く見られる。幹は叢生し、樹形は丸まった形になる。樹皮は灰褐色で丸い小さな皮目が見られる。葉は卵状楕円形で、先が鋭く尖り、基部はくさび形。細い葉柄の先が紅色を帯びる特徴がある。秋の黄葉はよく目立ち、美しい。

  花期は3月から4月ごろで、葉の展開前に、黄色い花が集まる花序を枝々に点じ、ダンコウバイ(檀香梅)によく似るが、アブラチャンの花序には柄があるのに対し、ダンコウバイにはなく、この点を見れば判別出来る。雌雄異株で、雌雄とも広楕円形の花被片が6個ある。雄花には雄しべが9個、雌花には雌しべの柱頭が1個と仮雄しべが9個ある。花序には3個から5個の花が集まってつき、どちらかと言えば、ダンコウバイよりもアブラチャンの方が繊細に見える。

  果実は直径1.5センチほどの球形の液果で、秋に黄褐色に熟す。樹皮や果実に油分が多く、その名のもとになった。瀝青(ちゃん)はピッチやコールタールのこと。ムラダチ(群立ち)の別名は幹の叢生による。なお、材は強靭で、杖や輪かんじきに用い、果実や樹皮の油は灯火利用した。 写真は左からほかの木々に先がけ黄色い花を咲かせるアブラチャン(吉野山)。花序に柄のある花。雄花のアップ。内側に3個、外側に6個の雄しべが見える。 濃い黄色いのは腺体。全体に黄味がないのは日陰による。 いつの間に老いしかそれや常套に慣れ親しんで来しものの末

<1903> 大和の花 (167) シロモジ (白文字)                                      クスノキ科 クロモジ属

                              

  山地の落葉樹林内や林縁に見られる高さが5、6メートルになる落葉低木で、本州の中部地方以西、四国、九州に分布し、大和(奈良県)では紀伊半島の襲速紀要素系の区域に偏って見られる樹種の一つにあげられている。幹は叢生し、樹形は丸まった形になる。樹皮は灰褐色で円形の皮目がある。アブラチャンに似るが、互生する葉が異なる。シロモジは三角状広倒卵形で、上部が3中裂し、基部がくさび形で、3脈が目立つ。アブラチャンの葉は広楕円形で先が尖る。葉は同属他種と同じく黄葉するが、葉の切れ込みによってカエデ類と誤認されることがある。

  花期は4月ごろで、葉の展開前に黄色い花が3個から5個集まってつく。雌雄異株で、雌株は雄株に比べ花が少ない傾向にある。果実は直径1センチほどの球形の液果で、秋遅くに黄緑色に熟す。アブラチャン同様、材は強靭で杖に利用され、果実からは灯火用の油を得た時代もある。花の写真左は十津川村の熊野古道小辺路の果無峠付近で撮影したもので、数株が固まって見られたので、植栽起源かも知れない。黄色い花が青空に映え、シロモジの花と見た。右は野迫川村の和歌山県境で撮影。3脈が際立つ葉の展開が見られる雄花の枝。若い果実の写真は伯母子岳(1344メートル)の登山道に当たる林道の野迫川村と十津川村の境界付近で撮影したもの。  家内も春へ寒暖纏ひつつ

<1904> 大和の花 (168) クロモジ (黒文字)                                      クスノキ科 クロモジ属

           

  山地の落葉樹林内や林縁に生える落葉低木で、本州の東北南部地方以西、四国、九州北部に分布し、大和(奈良県)では高低を問わず、ほぼ全域で見られ、高さは大きいもので5メートルほどになる。幹は灰褐色で、若い枝は黄緑色から暗緑色になる。普通黒い斑点が入り、これを文字と見なし、この名が生まれたとされる。倒卵状長楕円形の葉は先端がやや尖り、基部はくさび形で、短い柄があり、互生する。葉の縁には鋸歯(ぎざぎざ)がなく、裏面は白色を帯び、葉の開出時には絹毛に被われるが、後になくなる。秋の黄葉は美しく映える。

  花期は4月ごろで、葉の展開と同時に黄緑色の花を咲かせる。雌雄異株で、花被片は6個、雄花は雌花より少し大きく、雄しべが9個、雌花は柱頭の周りに黄色い腺体が囲むようにつく。果実は直径が5ミリほどの球形の液果で、秋に熟し、光沢のある漆黒に至る。なお、薬用クロモジの類似種としてケクロモジ、オオバクロモジ、ミヤマクロモジなどが知られる。

  材は白く、香気があるので高級楊枝に用いられ、細工物にもされる。葉や果実からは油が採れ、香料に利用されて来た。また、薬用植物で、根皮を陰干しにしたものを煎じて患部を洗うと、いんきん、たむしなどの皮膚病に効くとして、釣樟(ちょうしょう)の生薬名を持つ。 写真は黄緑色の花を咲かせるクロモジと果期のクロモジ。光沢のある黒い果実が印象的。  狭くなる視野が気になるその視野に点じて止まぬ灯火の色

 <1905> 大和の花 (169) ヒメクロモジ (姫黒文字)                          クスノキ科 クロモジ属

                                        

  山地の落葉樹林内や林縁などに散見される落葉低木で、高さは2、3メートルほど。枝は暗緑色で、細く、葉は全縁の長楕円形で、互生する。秋には黄葉する。花期は4月ごろで、葉の開出と同時に柄のある黄緑色の小さな花を集めて咲かせる。雌雄異株で、同属の他種よりも、小柄で花の数が2個から5個と少なく、かわいいのでこの名がつけられたのだろう。。

  本州の太平洋側に見られ、東海地方以西、四国、九州に分布し、大和(奈良県)ではほぼ全域に見られ、個体によってはクロモジに似るところがあり、判別困難な個体にも遭遇することがある。 写真はヒメクロモジの花(野迫川村・左)と右は十津川村の果無峠付近で撮った花。一見ヒメクロモジに思えたが、花序に花の数が多くついているのでクロモジと見るのが妥当か、判別の難しさがある。幹は叢生し、高さは2メートルほどであるが、枝ぶりがクロモジらしくないところが気になるところである。  外面よりどこか春めく人の声

<1906> 大和の花 (170) カナクギノキ (鉄釘の木)                              クスノキ科 クロモジ属

                     

 丘陵や山地に生える高さが15メートルほどになる落葉高木で、本州の神奈川県の箱根以西、四国、九州から朝鮮半島、中国に分布し、大和(奈良県)ではほぼ全域に見られる。幹は淡褐色、枝は灰褐色で、皮目が入り、同属の他種より大きい。葉は枝先に互生し、倒披針形で先はやや尖り、基部は赤味を帯びる柄に向かって細長く、鋸歯はない。他と同じく秋の黄葉が美しい。

 花期は4月ごろで、葉の展開と同時に開花する。雌雄異株で、黄緑色の花被片6個の小さな花が集まって花序を形成し、枝に連なるようにつく。これはクロモジによく似るが、皮目の目立つ灰褐色の枝と赤い果実で判別出来る。なお、カナクギノキの名は鉄釘の意ではなく、樹皮の鹿の子模様の「かのこ」が訛ったものと言われている。この説が正しいとすれば、「鉄釘」は当て字ということになる。材は楊枝や器具材として用いられる。 写真はカナクギノキ(大台ヶ原ドライブウエイ等で)。  短詩形日本列島春霞

<1907> 大和の花 (171) ヤマコウバシ (山香し)                                       クスノキ科 クロモジ属

                           

  山地に生える高さが5メートルほどになる落葉低木で、関東地方以西、四国、九州から朝鮮半島、中国に分布し、大和(奈良県)ではほぼ全域で見られるが、個体数は少なく、散見される。幹は叢生し、樹皮は茶褐色で皮目が見られる。淡褐色の枝には割れ目が入ることがある。葉は長楕円形から楕円形で、先端は鈍く尖り、基部は広いくさび形で、やや質が硬く、葉身はやや波打つところが見られ、秋には黄葉する。

  花期は4月ごろで、雌雄異株で知られるが、日本には雌株しかなく、雄株なしで結実する不思議な木として知られる。淡黄緑色の小さな花は葉の展開と同時に開き始め、葉腋の花序に数個つく。花は花被片6個で、子房と花柱が花被より外に突き出て見える特徴がある。 写真は五月初めに金剛山の中腹で見かけたもの。葉の展開が進み、終わりに近い完開したヤマコウバシの花。   球春や日差し明るき甲子園

<1908> 大和の花 (172) アオモジ (青文字)                                              クスノキ科 ハマビワ属

         

  山地や丘陵の日当たりのよいところに生えるハマビワ属の落葉小高木で、幹は叢生し、高さ7、8メートルになり、円形から楕円形の樹形をつくる。樹皮が緑褐色で、この名がある。葉は長楕円状披針形で先は長く尖り、基部はくさび形で、互生する。花期は3月から4月ごろで、葉の展開と同時にふっくらとした淡黄白色の花をつける。雌雄異株で、雄株は雌株よりも花数が多く、にぎやかに見える。果実は直径5ミリほどのほぼ球形で、秋に赤色から黒紫色に熟す。

  岡山県と山口県、九州、沖縄に自生し、屋久島に多いことで知られる。近畿地方には見られなかったが、近年、大和(奈良県)をはじめ三重県などでも地域によって多く見られるようになった。大和では奈良盆地の北西部に当たる生駒山地や矢田丘陵でよく目にする。これは1960年代に平群町の花卉農家が花材用に植栽したものが逸出して野生化したものと言われる。野鳥が果実を啄み、種子を撒き散らしたのが原因と考えられており、国内帰化の例と言える。

  材と果実には芳香と辛みがあり、ショウガノキ(生姜の木)、コショウノキ(胡椒の木)の異名でも呼ばれる。白い材は楊枝に、果実は香料にされ、雄花は花材に用いられる重宝な木である。 写真は左から花を咲かせるアオモジの雄株と雌株。黄葉を始める葉の陰に見える花芽群、切り花に用いられる雄花。白い花被片が目につく。   小川にも春が来てゐるさらさらと

 

 

 

 

 

 

 

 


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