大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年02月24日 | 植物

<2248> 大和の花 (446) ミズメ (水目)                                                  カバノキ科 カバノキ属

                     

 丘陵から山地、谷筋などに生える落葉高木で、カバノキの仲間ではシラカバ(白樺)とともに最も大きくなり、樹高は20メートル以上に及ぶものも見られる。樹皮は、若木で緑褐色、横に長い皮目があり、老木は灰褐色になり、サクラに似るところがある。

  皮目が目立つ樹皮を傷つけると、水のような樹液が出るのでこの名があると言われる。新枝は黄褐色で、光沢がある。葉は長さが3センチから10センチほどの卵状楕円形で、先は尖り、基部はやや心形。縁には鋭い重鋸歯が見られる。側脈は8対から14対で、はっきりしている。葉柄は長さが2センチ前後で、互生し、一部対生する。枝木を折るとサルチル酸メチル(サルメチール)の臭いがし、これが特徴の木である。

 雌雄同株で、花期は4月ごろ。葉の展開とほぼ同時に開花する。長さが5センチから7センチほどの雄花序は長枝の先に垂れ下がってつき、雌花序は円柱形で、短枝の先につく。実は堅果で、果穂は長さが4センチ弱の楕円形で、10月ごろ熟し、濃い褐色になる。

 本州の岩手県・新潟県以南、四国、九州に分布する日本固有の植物で、大和(奈良県)では広範囲に見られ、垂直分布の幅も広いと言われる。材は重く堅いので建築、家具、器具に利用される。ヨグソミネバリ(夜屎峰榛)の別名を持つが、ヨグソ(夜糞)はサルメチール(サルチル酸メチル)臭によるものであろうか。それほど悪い臭いではないが。ミネバリ(峰榛)は峰に生えるハンノキ(榛の木)の意。

   また、アズサ(梓)の名もあるが、これは古名によるもので、昔は弓材に用いられ、『万葉集』の歌にも梓弓(あずさゆみ)で詠まれ、万葉植物にあげられている。なお、アズサ(梓)は令和天皇のお印(御印章)として知られる。  写真はミズメ。左から冬芽、枝木いっぱいに垂れ下がる雄花序、雄花序のアップ、いつまでも枝に残る果穂(天川村ほか)。  暖かき日に愛されて梅の花

<2249> 大和の花 (447) ダケカンバ (岳樺)                                        カバノキ科 カバノキ属

        

 北海道、本州(近畿以北)、四国に分布し、千島、サハリン、カムチャッカ、朝鮮半島、中国東北部に見られるという。北海道では平地部、本州以南では亜高山帯の日当たりのよいところに生える落葉高木で、高さは10メートルから20メートルに達するが、山岳高所の風雪の厳しいところでは風雪に影響され、低木状になることが多い。ダケカンバ(岳樺)の名は、標高の高い山岳の高所に生えるカバノキ(樺の木)の意による。

 樹皮は灰白色または灰褐色で、若木では白い横長の皮目が見られ、成木になると、シラカバ(白樺)と同じように薄く剥がれ、老木では縦に裂ける。枝は黄褐色から紫褐色で、光沢があり、白い皮目が目立つ。葉は長さが5センチから10センチの三角状広卵形で、先は鋭く尖り、基部は円形からやや心形となり、縁には不揃いの鋭い重鋸歯が見られる。側脈は7対から12対。葉柄は3センチ前後で互生し、秋には黄葉する。

 雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ、葉の展開とほぼ同時に開花する。黄褐色の雄花序は長枝の先に1個から数個垂れ下がり、長さは5センチから7センチで、苞をともなう花が多数つく。雌花序は短枝の先に1個ずつ直立して頂生する。実は堅果で、長さが3センチ前後の長楕円形の果穂になってつき、秋になると熟して褐色になる。

 大和(奈良県)では紀伊山地の山岳高所部に見られるが、大峰山脈の釈迦ヶ岳(1800メートル)の山頂周辺の群生地が一番多く、ここがダケカンバの本州における南限に当たる。山頂周辺は風雪の厳しいところで、低木状の個体が多く、絶滅危惧種にあげられている。ダケカンバはシラカバより高所に生えるので、ダケカンバが自生していれば、シラカバも見られるはずであるが、不思議なことに紀伊山地にシラカバの自生地は見当たらない。

 写真はダケカンバ。左から葉を繁らせる真夏の姿、冬芽の枝木、垂れ下がる雄花序と直立する雌花序が見られる葉の展開時の枝、実になりかけた雌花序と展開を終えた若葉(いずれも釈迦ヶ岳山頂付近)。開花の時期はその年の気象条件によって微妙に異なるところがある。辺りではシカを見かけるが、シカの食害には遭っていない模様。   春近しぽいっと高塀越ゆる猫

<2250> 大和の花 (448) ツノハシバミ (角榛)                                       カバノキ科 ハシバミ属

                         

 山地の明るい林内に生える落葉低木で、株立ちし、高さは2メートルから3メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、滑らか。横に長い皮目がある。葉は長さが3センチから7センチの広倒卵形で、先は急に細くなって尖り、基部はやや心形。縁には不揃いの鋭い重鋸歯が見られる。側脈は8対から10対で、裏面に突出。葉柄の長さは2センチ弱で、互生する。

 雌雄同株で、花期は3月から5月ごろ。葉の展開前に開花する。雄花序は長さが10センチ前後で、枝の上部に垂れ下がり、苞をともなう雄花を多数つける。雌花は芽鱗に包まれた状態で開花し、紅い柱頭が芽鱗から飾り羽のように覗き印象的である。実は堅果で、果期は9月から10月ごろ。堅果は5センチ前後のくちばし状に先が細く尖る果苞に包まれ、ドングリ状で食べられる。ツノハシバミ(角榛)の名はこの食用に供せられる角状の果苞に由来する。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)では山地で普通に見られる。仲間のハシバミ(榛)は自生が希で、まだ出会っていない。 写真はツノハシバミ。枝に連なり垂れ下がる雄花序(左)と雄花序のアップ(中)、芽鱗に包まれ、紅い柱頭だけが芽鱗から覗く雌花(いずれも吉野町の山中)。   ヒヤシンス庭より早き室の花

<2251> 大和の花 (449) キブシ (木五倍子)                                     キブシ科 キブシ属

                   

 山地の道端や林縁などに見られる落葉低木で、大きいものでは高さが4メートルほどになる。樹皮は赤褐色乃至は暗褐色で、本年枝は緑色もしくは赤味のある緑色。無毛で、少し光沢がある。葉は長さが10センチ前後の長楕円形から卵形と変異が見られ、先は細長く尖り、基部はほぼ円形。縁には浅く細かい鋸歯があり、2センチ前後の柄を有し、互生する。

 雌雄異株で、花期は3月から4月ごろ。他の木々に先がけて、葉の展開を待たず春を告げるように咲き出すものが多いので印象に残る。花は雌雄とも3センチから10センチほどの総状花序で、枝の節ごとに垂れ下がり、鐘形の花を多数つける。花は雌雄とも花弁も萼片も4個。雄花は淡黄色で、雄しべの黄色い葯が目立ち、雌花は淡黄緑色で、淡緑色の雌しべの柱頭が少々突出して見える違いがある。

  実は卵球形の液果で、果序に多数つき、秋には黄褐色に熟す。実にはタンニンを有する微小な種子が多数含まれ、このタンニンによってヌルデ(白膠木)の五倍子(ふし)の代用にされて来た。この関係によりキブシ(木五倍子)の名は生まれた。タンニンは黒色染料にされ、江戸時代にはお歯黒に用いられた。なお、材は丈夫で杖や楊枝にされて来た。

 北海道(西南部)、本州、四国、九州、小笠原諸島に分布する日本固有の植物で、地域的変異が著しく、その特徴によって地名やその特徴を示す言葉が冠せられているものが多い。大和(奈良県)ではほぼ全域で普通に見られる。 写真はキブシ。左から雄花序、雌花序、実をいっぱいつけた個体、果序のアップ(金剛山ほか)。 兆す春卓の上なるノ―トにも

 


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