private noble

寝る前にちょっと読みたくなるお話し

Starting over03.3

2017-07-16 19:49:22 | 連続小説

 マサトから聞いた勧誘のことばなんて、さすがに話し半分で、、、 三分の一ぐらいで、、、 聞いていたけど、もしそれが本当なら、キレイなお姉さまと一緒に和気あいあいと仕事ができ、給油に来たキレイなお姉さまとお知り合いになれ、先輩の彼女のキレイなお姉さまの差し入れをいただいて、若奥様に愛想をふってもらい一日が終わるはずだった。地元に帰った政治家が受ける接待なみのお気楽さだ。
 
面接で政治家がらみの例えばなしをはさみこむと、学があるようにみえるからって、小ネタのひとつふたつ考えておくものだと、スポーツ推薦で大学に行った部活の先輩から聞いたことがあった。この例えばなしがあまり的を得ているとは思えず、実際にどれほど効果があるのかわからないけど、面接の場で使うにはそぐわない、、、 別の案を考えた方がいい、、、 それよりまじめに勉強した方がいい。
 そんなことはさておき、おれの華麗なる、、、 華麗じゃないけど、、、 バイト遍歴の第一歩がどうかといえば、話し三分の一でも言い過ぎぐらいで、大学生のお姉さまとは、出勤時に事務所でチラッと見かけるぐらいで、仕事で絡むこともなく。給油に来る客はオヤジ連中ばかりで、そいつらにアゴで使われる。バイトの先輩になんだかんだと仕事を言いつけられ、つねに奔走しているので、一度も差し入れを持ってきた先輩の彼女とやらにも遭遇せず、やっと休憩が取れて事務所にもどれば、差し入れはすべて食べ尽くされている。若奥さまとはほど遠い、おれの母親より年上の有閑マダムは、逆に馴れ馴れしいほど絡んできて振り切るのに苦労する、、、 そんな一週間があっという間にすぎていった。
 帰りの電車でマサトは、いろいろとくっちゃべっているけど、オレはただ、気のない相づちを打つだけで、何も考えられず、何の言葉も出なかった。マサトは要領よくやって、それほど大変そうではないらしい。その分のしわ寄せが全部おれの所にきている。
「 …すぐに慣れるって」
 言葉巧みに理想的な職場として紹介したくせに、単に自分がやっていた雑用一般をおれに押しつけている現実に、少しは負い目を感じているのか、精一杯のフォローの言葉だったのかもしれない。そんな甘い言葉に釣られて付いて来たオレがよっぽどオメデタイわけで、マサトにグチをこぼす気にもならない。欲に絡んで足元もおぼつかないでいる人間をダマそうとするのは簡単なんだ。
 連日の猛暑も手伝って、食欲も落ち込み、駅からの帰り道はフラフラになっていた。道路の脇をゆっくり歩いていると、側溝から漂う臭気のせいで、胃の中は空っぽなのに吐き気を感じてくる。
 
あと何日続くんだろうと、そんなことしか考えらなかった。まだ7月だから1ヶ月は悠に残ってるのは分かりきっているのに、どうやってこの先を乗り切っていこうかと、およそ建設的でない思案に流れていく。まだ期限のあるバイトの身だ。最悪を想定すればケツをまくって辞めたっていい。それぐらいの立場なくせに、なんだか追い込まれた気持ちになってくる。父親を見て将来を悲観したためか、来年になれば本当の就職が待っているからなのか、いずれにしてもこのままズルズルと働きつづけるのはどうにもうまくない。
 
両親には一日中、空調の効いた図書館で、夏休みの宿題と就職活動の準備をしてるって言ってあるからへばった姿を見せるわけにもいかず、家に近づくにつれ無理にでも背筋を伸ばしていく。去年までは夏休みといえば毎日のように部活三昧で、泊りがけの合宿もありほとんど家にいなかったから、今年になって家に居座られても調子が狂うだろうと、体裁よく勉強とかにかこつけて一日中家を空けるって言ったら、母親は感心したような、安どしたような、あんたもようやくやる気になったのねえと喜んでいるのか、皮肉っているのか、あいかわらずツカミどころのない言葉を聞いて、おれもさ、将来のこととかまじめに考えないといけない時期だからって、、、 母親は冷たい麦茶を飲んでフーンとだけ言った、、、 おれ、目を泳がせている。
 親を騙すってのは抵抗があるんだけど、これも子供の頃からのおこないの良さのたまものか、これまでもよほどのことがなければ反対されることはなかった、、、 もしくは、はじめから反対されるようなお願いはしなかっただけともいえる。
 
図書館で勉強せずスタンドでバイトするのが、よほどのことの範疇かどうか考えるまでもないが、母親からその図書館でやっている夏期講習を受けるためにおカネ要るでしょ?と聞かれた時は、その気になったら受けてみるとお茶をにごしていた。お金を受け取ってそのままバイトしててもバレはしないだろうが、いくらなんでもそこまでできないと、抑制できる道徳心と、勉強の成果を隠ぺいする悪知恵ぐらいは持ち合わせていた、、、 それも二学期までのはかない運命だけど。
 
なんとか家の前までたどり着き、かたちばかりの勉強道具が入れられた手提げバックを斜めにかけ直し、庭先のトビラを開けようと手を伸ばそうとすると、何かがキラリと光ったように目端に映った。ギィッと音をたてたトビラを止め、静かに手を離す。指先には赤サビが付いたみたいでザラっとした感触が残った。よく見れば所々にサビが浮いている。ゴルフクラブ磨くよりトビラにサビ止めでもしろよと、悪態をつきそうになり言葉を飲み込んだ、、、 おれが言えた義理じゃない。
 
ズボンで指先の汚れを払い、忍び足で一歩、二歩と後ずさりして、光の正体を探す。隣の家の塀との境目だ。その隙間で目を凝らすと何か小さな存在が認識できた。そのうち、か細い声で『ミャア』と鳴いた。おどかすなよ。子ネコだった。生まれたばかりらしく、わずか5センチくらいの隙間に入りこんでいる。顔を正面に向けると外灯の明りが目に映りこみ、それが暗闇でキラリと光ったように見えたのだ。
 
もともと外壁はウチの方だけにあり、お隣さんは改築したタイミングで、ピッタリくっつけるようにして、ウチより高く外壁を作った。
「あの壁、なんとかならないかしら?」
 母はそれが気に入らなかったらしく、物が落ちたら取れないとか、ゴミが溜まっても掃除できないとか、何かと父親にこぼしていたけど、本当はウチの壁から見える隣の壁に変な圧迫を感じていたのだろう。出来上がってしまってからは何を言っても後の祭りだ。
 
さて、この子ネコも母のご指摘のとおり、壁の隙間から取り出すことは出来そうにない。自分で入っていったなら、自分で出てこれるんだろうが、両方の壁とも直線的な造形ではなく、起伏のあるブロックが組み合わされているので、どうにか通れる道順があって、進めるところまで行ったけど、これ以上身動きがとれなくなったというところか。
 
それにしても、手前から後ずさりして入っていったのか、向こう側からこちらに進んできたのかもわからず、外敵から身を守るのには都合がいいけど、もし引っかかったまま動けないのなら、このまま餓死してしまうのは明らかだ。
 
オレはしばらく、夜空を眺めていた。一応どうしたものかと思案しつつ、半分以上は厄介ごとに巻き込まれた自分をおもんばかっていた。なんだか最近、ネコにからんだ事件に関わってる。もしかしてこの子ネコは、あの死んだネコの子供なんだろうか。動物は多産だから一匹っていうのはおかしい、、、 生まれ変わりとか?
 
箸にも棒にもかからない考えをしていてもしかたない。ただでさえ、このところ帰りが遅いから、母からも訝しがられている。図書館出てからどこほっつき歩いているのか、問いただされるのも面倒だ。子ネコの件は見なかったことにして、もう一度トビラに戻り、足先で軽く押しトビラを開けた、、、 そうやっていろんなことにフタをしてこれまでも生きてきた、、、 明日からもまたそうやって生きていく。
 
ひとは自分で解決できないことはしょい込むことはないって、なんかで聞いたことがある、、、 都合のいいことだけは覚えてる、、、 おれがもしあの子ネコのことを解決できるなら、きっといやでもまた思い出すに違いないはずだ。
 おれのあたまの中で、優先順位の五番目ぐらいに位置付けられた子ネコの存在は、他に何か問題が起これば、一番最初に切り捨てられる程度のものでしかなく、そして案の定、翌日の朝にはきれいサッパリ忘れていた。

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