こころ がたり

物語・・もの がたり。
心語・・こころ がたり。

語れない心、
言葉にできない心、
心は語る・・・心 語り。

舵 ④ 終

2019-05-16 09:56:00 | 2019



舵①

舵②

舵③


彼女と 闇の者の魂を負う者は

ある約束をしていました。



それはそれは

遠い遠い

昔々…



地球で巡り合う前、

光と闇の戦いより前、



ずっとずっと前…


神との約束。

いや、創造主かもしれません。






神は

二人に一つの課題を出しました。



それは、


愛を知る

という課題。




天は 愛の世界

満たされているが退屈な世界。

だから、愛が無い世界が分からない。




愛を知るために

出された課題。


いや、二人が自ら望んだのでした。


愛を知りたい


と。






男は、

愛を持ち続ける

どんな事があっても。




女は、

愛を失って彷徨う

涙が枯れても。




そう設定し…


そう約束し…


地上に生まれました。




天にいて、愛しか知らない二人には

その約束がどんなものであるか分かりません。



地球での学びがどんなものか?

想像すらできない。



肉体を持って

その課題をこなす事が

どれほどの事か、

知る由もありませんでした。





💠




彼女は

心の淀みにある

罪悪感と自己否定にやっと会う事ができました。



どうしても

自分が好きになれない理由


どうしても

愛されること、愛すこと、に

罪悪感を感じる理由




漠然とした不安

愛されても、

愛しても、

幸せを感じられない理由



に、


やっと会ったのでした。





そして、


同時に


思い出していました、




神との約束を。








嗚呼


と。



知りたかったんだ


と。






愛を

知りたかった





それだけ






もう、

必要無い。



淀みに潜んでいた

罪悪感。


罪悪感が呼んだ

自己否定。




もう


そこにいる

理由は無い。


と。



愛す事を恐れ、


愛されるを求めながら拒絶する


その理由を


知ったのでした。





愛だけの世界


愛が当たり前の、

退屈な世界は

本当の意味で愛がどんなものか

分からない。




それを知るため




長い長い


気が遠くなるほどの


遥かな約束。







もう


いらない。





けれど、


だからこそ、



自己否定と罪悪感が

あったからこそ、

感じる事ができたのだ


と。











長い長い





これまで




彼女のハートは


感じました。




彼女の淀みは深く、重く


どれだけのものを

闇の魂を持つ者にぶつけたかしれません。



涙が枯れても求めると、

神に誓った重い想い。




忘れているけれど、

神と約束した【愛を求めて彷徨う】は

確かに

そこにありました。




闇の魂を持つ者もまた【愛を持ち続ける】を

持ち続け、



どんな事があっても持ち続ける

と、

神に誓った約束を違えることは

ありませんでした。






神との約束。


地球で学ぶということ。




彼女は それがどういうことか…

感じる…



愛を知るために

どれほどの

長い時を超えたか…





愛は


男女の愛だけはありません。



男女も親子も隣人も




愛は、


人と人とを


繋ぎ、結び、包むもの。






そして


思うのでした。





もう


自分を愛さない理由はない


と。




自己否定と罪悪感を

抱きしめて、



そして、



自分を


抱きしめるのでした。





感謝と共に…。







舵 ③

2019-05-16 09:10:33 | 2019




舵①

舵②


月日は流れ、

彼女も闇の存在も

天に還っていきました。




長い長い年月が流れ…



そして、


今度は


地球に生まれました。




生まれる理由は 魂を磨くため

そのために。




彼女は



昔々

はるか昔



闇の者に愛されながら、

深くに巣食った 自己否定と罪悪感を負って

生まれました。



勿論、自覚などありません。


全て 忘れている。



けれど、

学ぶべき想いは

重く

その意識の中に内包される。





地球に生まれ、学ぶというのは 全てを忘れ、やり直しするということ。


それさえ忘れる。


なんと 切なく 厳しい。





彼女が負ったものは、


あまりに深くて…


まるで、

水底に沈殿した泥のよう。



彼女には見えない…

それほど深くにありました。




地球は 魂の学びには

とても厳しい星でした。


そんな事は 知らずに生まれます。



それを知るのは

神だけ。





💠




彼女は


地球で経験します。




闇の者を愛したように

愛し、



闇の者から愛されたように

愛されたい、


と、求める。



愛す、愛されるを経験する。




愛す、愛される

は、

男女の繋がりだけでなく、

親子の繋がりにもある。



彼女は

知るため、感じるために、



親子の間にも

その設定をして生まれたのです。




厳しいとされる この地球で、

学ぶにはあまりに厳しいこの地球で、



愛を知るための

彼女の厳しい旅は


長い長い時間をかけて…

幾度となく繰り返されたのでした。


気が遠くなる程に…。





愛を求め

愛されるを求める。





それは、


心の底に沈殿した


自己否定と罪悪感に気付くため。


自分を愛すため。






アトランティス

エジプト

イスラエル


そして

日本




男女として

親子として

巫女として

近くにいる幼馴染として




背景を変え、


縁を変え、


設定を変え、




幾度となく 生まれ

幾度となく 愛を求め、彷徨う。



それでも、


沈殿した 自己否定と罪悪感は浮かんでこない。


それほど 両者は重い


想い


でした。






何度同じことが繰り返されたでしょう。



愛されたいと求め

傷つけ、傷つけられ…

何度繰り返したか分からない。




愛されたいの

底に沈んだ 自己否定と罪悪感。







ある時

彼女は、

会うのです。





勿論 覚えてなどいない。


何故これほどまでに苦しいのか?

分からない。



何故ここまで苦しいか?

分からない。




彼女の 心の水底にあった淀みは重く



素直に愛を受け取れない。



強い自己否定

強い罪悪感



愛す事が、

何故こんなに辛いのか。



愛される事に、

罪悪感があるのか。


分かりませんでした。



揺さぶられる心。

苦しみ。



再会したのは

かつての闇の者。



覚えていないけれど



闇の者の魂を負った者は、

彼女を大切にしてくれました。



彼女は 自らの水底の淀みに恐れおののき



揺さぶられる魂

慟哭





自らの中にある

愛すこと、愛される事への罪悪感


派生するように生まれた

強い強い自己否定。




幾度となく

淀みは揺さぶられ


水が

心の器から跳ね上がり

揺さぶられる。



何度も、、




そして、


やっと、


淀みは浮き上がってきたのです。




自らの心の底の淀み

気付くことができなかった澱(オリ)




やっと 見つけたのでした。



つづく















































舵 ②

2019-05-16 06:09:55 | 2019






舵①



彼女の心の中


強い強い責任感の隣には

もう一つ。



彼女は光の側の者。


大切な人は…闇の側。





責任感の隣にあったのは【愛す】でした。




【責任感】の隣には【愛す】が、、




どちらも大切。

どちらも捨てられない。



どちらも同じ位強く、大切。


どちらかを捨てるなどできない。




闇の者も 彼女を大切に思い、


彼女もまた 想い、


二人は想い合っていたのです。





けれど…

光と闇の戦いは激しく…




闇の者を 愛せば愛すほど、


彼女の中の 【責任感】と【愛す】は、

相対し、反目し、

互いを傷つけようとする。




どちらも大切。

どちらも捨てられない。




それでも、

闇の者の愛は深く、暖かく…




二人は

敵味方を超えて…

結ばれました。




愛し合うのは素晴らしい事。



愛し合うは

男女の愛を超えるもの。




二人は

戦いの中にありながら、

愛を貫いたのでした。



敵味方でありながら…。





けれど、



勿論、反発も…。

強い反発もありました。





彼女はとても幸せだったけれど、


心の中にある責任感は

知らぬ間に愛すを傷つける。




そして、


気付かれないように

彼女の心に侵入するのは

自責の念。




彼女は愛され、

幸せであればあるほど、



愛す に隠れるように…

気付かれぬよう…


自責の念が 入り込む

深くに。




そして、


いつしか、


自己否定と罪悪感に

形を変える…。







自己否定と罪悪感は



深く深くに、

彼女の知らぬ間に。





闇の者の愛は深く広く、


愛されれば愛されれるほど…

幸せであれば幸せであるほど…


彼女の心を苦しめたのでした。




闇に殺された 同胞達

光のために戦い、命を削った者達


親を失った子供

夫を失った妻




その涙を、

同胞の血を、

彼女は知っていたから。



涙と血をもたらしたのは

闇だから。


だから…。





愛したのは、

愛してくれるのは、


闇の存在。





彼女は

同胞の波も

仲間の血も


深くに追いやりました。



責任感の隣にある 愛すを

どうしても消す事は出来なかった…。


そして、

闇の者の愛を受け取りました。





それほど、


愛されていたから、


愛していたから。







つづく










舵 ①

2019-04-22 17:38:30 | 2019



🌈


彼女は見下ろしていた。


見下ろす先には、


生い茂った木々。

緑が広がる。



ここは 何処なのか?


何が住んでいるのか?





彼女が握る

操縦桿には



戦いに疲れ、

傷ついた同胞、


女性

子供


疲れた果てた同胞が


肩を寄せ


船に乗っていた。



操縦桿には命があった。



彼女もまた


戦いで


全てを失い



その責任感だけで、


どうにか舵を取っていた。




彼女は


覆われた緑を


見下ろす。



やっと着いた

尖った心が少し丸くなる。




舵を握るのは


責任感だけ。



彼女を

どうにか立たせていたのは

責任感だった。




責任感が無ければ、

とうに

命など捨てていただろう。



守るべきもの


ただ、


それだけのため


舵を握っていた。






この星に来たのは


戦いの果て。





光と闇



母星で繰り広げられた戦いは激しく



光は闇を拒絶し


闇は光を取り込もうとし




流れる血


失われた幾多の命




彼女は光の側の者。



女船長として舵を握り


戦いの中から

女・子供を守るべく

この星に流れ来たのだった。



安全な場所を求めて。




船の中に男性はいない。



うなだれ、

こうべを垂れた、

幼い子供と母

女性ばかり。




彼女が自ら舵を握ったのは

護るため、

それだけのため。




今 たどり着いたこの星を見下ろし、


少しだけ丸くなった心。



未開のこの地への不安も

頭をよぎっていた。



皆を 安全な場所へ

彼女の中には 強い責任感。



あるのは それだけ…

自分の命など、どうでも良かった



責任感だけでこの星に来た。



つづく


王と伝えし者 ②

2019-04-20 22:40:12 | 2019





H31.4.19 平成最後の満月🌕 ピンクムーン


🌈


王と伝えし者 ①


🌈



伝えし者が、


目の前に見る

自らの涙には


この地球での

幾多もの想いが詰まっていました。



何度も巡り会い、


その度に

同じ想いを噛み締めて、


そして、

同じような失敗をし、


その度に


涙が溜まっていったこと。




そんな、


自らの涙を


今、


目の前にしながら、


伝えし者は想うのでした。




愛すことが、

何故こんなに辛いのか?



愛される事を

望みながら拒絶するのは何故か?



傷ついた愛は


男女の愛だけではありません。


親子、友人、知人、隣人


そして、国と国。



全ての人を

全ての人とつなぐもの。


人と人との間に

欠かせぬもの。




愛。




伝えし者は、

目の前の涙を見つめ…





愛すこと、


の裏側にあるものを


見ていました。




愛すことの


裏側には


罪悪感がありました。


そして、


恐怖がありました。




罪悪感故に、


愛すこと事を拒絶し、



恐怖故に、


愛される事に、


蓋をしてきた。




涙には


罪悪感が眠り、


その奥には


恐怖がありました。




自らの心に溜まっていた

涙の中に眠るもの を見つけ、



伝えし者は、知ったのです。




愛することに


罪悪感は必要ない。




愛されることを


怖がる必要は、

ない…。




自らの心から、

溢れ出た涙を見て、



透き通った心には、

そんな気付きの種が


ありました。




伝えし者は、


今度は


その種を


自分の力で育てようと


思っていました。



もう、


愛されたいと望み、

愛されることで、

育てようとするのではなく、



自らが、自らの手で

育てようと。




伝えし者は


そう


思っていました。




涙の中に眠る、

種を見ながら、





まだ見ぬ美しい花





見るのでした。







王と伝えし者

2019-04-14 20:33:18 | 2019


H31.3.31 高尾山自然公園 桜🌸と空


💠


古い古いある国に

ある王がいました。



その王は神でもあり、


いや、正確に言うと、

神からの命で地球に来た存在でした。



心優しく

大きく

そんな存在を皆慕っていました。



王は 誰のものでもない

誰のものでなく、誰のものでもある。


天から降りし王はそんな存在。


王の側には、

男女を問わず、年齢を問わず

支えし者がいました。



💠



長い長い年月の間…

天から降りし者は、


地球の様々な国で、

神や王として、


時代や 国を変え、

何度も何度も 人々を導こうとしました。



ある時は イスラエル🇮🇱に。

ある時は 日本🇯🇵に。



人間は身勝手。


自分達の想いを都合よく投影し、

利用出来れば祭り上げ、

都合が悪くなれば…殺してしまう。


王はどれだけ辛い想いをしたことでしょう。


王は、

それでも、神を、いや、宇宙を信じていました。


起こる事は 全て宇宙の采配。

宇宙が許可しないことは起こらない。

と。



💠



王の側にいて、

宇宙の意思を伝える者がいました。


伝えし者は いつも王の側にいました。


王と共にあり、

宇宙の意思を伝えました。



王は 誰のものなく、誰のものでもある。


伝えし者は、側にいました。

いつの時代も。



💠



伝えし者は

宇宙の意思を伝えながら、

心は荒んでいきました。


自分を無くし、

王のため、人のために尽くす事に疲れ果て、



とうとう…

ある時代に、

牙を剥き、罪を犯してしまったのです。



💠


何度も、

繰り返し、


色々な事がありました。




ある時代にまた…巡り会いました。



伝えし者は、

これまでと同じように宇宙の意思を伝えながら、


なぜこんなに悲しいのか?


悲しみばかりが溢れてくるのは何故か?



宇宙の意思を伝える喜びは大きい。


それほどの喜びでありながら、

なぜか、溢れてくる悲しみ。


喜びが強いほど、悲しみに繋がり

悲しむほどに、喜びにも触れる。


相反した想いの波に飲まれました。



💠



王は、伝える者のことを深く理解し、

その愛は 人の愛を超えたもの。

深く広い。



💠



伝えし者は、

そんな王の想いに気付けませんでした。


これまで繰り返し巡り会ってきたことなど忘れていたし

何より

心が涙でいっぱいだったから。


上流から流れてくる力に抗うことも出来ずに

涙に押し流されました。



泣いて

泣いて


どれほどの時間が経ったでしょう。








心の中が空っぽになった頃

伝えし者は

思い出したのです。





遥か昔

古の時代



王のため、他人のため

己を無くし、全てを他者に捧げ、

自分の幸せを求める事を許さぬ事を、自らに課す。


誇り高い生き様だったかもしれないけれど、


それはいつしか、

他人から自分を見ることでしか生きられない



すり替わっていた…。



心が悲しみでいっぱいになったのは

だからなのだと。





いつの時代も

王は、

伝える者を深く理解してくれていたことを。


悲しみ故に

見えなくなってしまっていたことを。




💠



伝えし者の心は

空っぽになりました。



蓄えられていた涙は、

宇宙に帰っていきましたから、



今は、

美しい透明。




やっと

向こう側が見えるように

なりました。




向こう側に見えるのは



未来


やっと見える景色です。



💠



そして、

透明になった心を掴んでいました。





今度は



喜びと共に

宇宙の意思を伝えたい。



他者のためでなく、

自分のために。



自分の幸せのために、

伝えたい。



悲しんだ自分を誇り、

今度は喜びと共に伝えたい。


それが幸せなんだ


と。




それだけでいいのだと。



それ以外は

何もいらない


と。



















芽 5(葉~4)

2013-10-20 13:49:58 | 芽 5(葉)
「あっ・・・」

小さな声がしました。


「あっ!!」

女は同じように小さな声を上げ・・

「どこにいたの?」

と。


小さな声の主は女の子でした。


男は黙って見つめました。


女は安心した表情をし、次に自分の聞きたい事を探している。。


「素敵な木でしょ」

どこからか現れた女の子は・・
そんな二人の反応にお構いなしに話すのでした。

これまでどこにいたか?説明を求めているであろう男と女の疑問をよそに・・
話し出しました。

「この木・・素敵でしょ!!」

二人に同意を求めるかのように同じ言葉を繰り返す女の子。


自分たちの質問に答えて欲しい二人は、返事をせずに・・

「どこに・・いたの?」

と。



「私?ここにいたよ!ずっと!」

「・・・」

「ああ・・・さっきまで上にいた
 木のてっぺんに登ってた!」

「・・・」


女は、何から聞いたらよいものか・・
頭の中の疑問を整理出来ずにいました。

男は、ただただ黙っている。


女は、さっき自分たちが発した言葉を聞いたのか?
この部屋に来ていることに気付ていたのか?

聞きたいことが後から後から湧いてくることに・・
戸惑っていて・・

何から聞いたら良いのか分からず・・
やはり 黙るしかありませんでした。


その沈黙の間を目がけて・・

女の子は話します。

「この木・・素敵なのよ!!
 いつのまにかこんなに大きく成長してて・・自分でも気が付かない間に、
 こんなに大きくなっていたの!!」

「不思議でしょ」


「気がついたのは・・」


しばらく考え・・

「そうそう・・」

大事な事を思い出して、満足した表情をする女の子の笑顔を・・
二人はただ黙って見ていました。

「お友達のお家にね・・はじめて行った日・・かな?」

女の子は さも満足げな表情をする。。

「お友達のお家で食べたホットケーキが美味しかった・・」

「今まで食べたことがない味だったの」


女は初めて口を開き・・

「ホットケーキ?そんなものより美味しいケーキをいつも食べてたでしょ?
 苺のショートケーキ・・大好きじゃない!!」

なじるように言う。


本当はもっと他の疑問を投げかけるはずなのに、
今は整理ができない。


「うん それも好き!でもね・・・」

言うのをためらったのか・・一瞬の間の後・・
スッキリした目をして・・

「全然違うの」

と。。


「温かい」


と。。



男も、女も・・・黙って次の言葉を待ちました。


「とても温かいの!
 こんなおやつは食べたことがなかった」


そして・・

「なぜだか・・」


女「何故だか?」

次の言葉を恐れるように、でも急かすように・・言葉を挟む女。


「なぜだか分からないんだけど・・
 気が付いたら、この木が・・」

女「木?」

「うん だと思うんだ?ホットケーキを食べてから・・よく分からないんだけど・・」

男「・・・・」


「最初はね、穴から風が入るみたいに寒かったの・・
 でもね・・しばらくしたら光が入ってきたのかな?

 ああ・・穴だよ。」

女「穴?どこの?」


「うん この木が伸びる穴」

女「この木?穴?」

「見えてるでしょ?この木・・天井の穴を目がけて伸びてる・・」

女「・・それは 分かる」


「でね・・そのうち・・芽を出したの」

男と女は、黙って聞くことしかできずにいました。

女は、自分が聞きたい事の整理が出来ないことに、少しイライラし、
その疑問に追い打ちをかけるような女の子の話に・・

美しい赤いマニキュアの指で頭を抑えるのでした。


「その芽が・・どんどん成長したんだよ!!

 私、とてもうれしくなったんだ・・!!」


女の子は 満足げな表情をし、

二人に話すのでした。

「多分 穴から光が射して、で、芽が成長したんじゃないかな?
 
 で・・こんなに大きくなった」


「私ね・・この木がいるから寂しくない

 だって、てっぺんは凄く気持ちいい
 それに、凄く景色が良くて・・
 で・・お日様が温かいんだよ!」

 だから・・もう寂しくないんだ!!」


女の子の表情は、落ち着いていて、本当にうれしそうに見える。。

他には何もないように見えるのです。


でも・・


目の奥になおし込まれた本当を・・

男と女は感じ取ることができませんでした。



芽 5(葉~3)

2013-10-19 09:33:01 | 芽 5(葉)
薄暗い女の子の部屋。

静まりかえった部屋。

部屋にあった【もの】、女の子のお気に入りの【もの】
男と女に与えられた【もの】は・・
緑の美しい芝生の上に散在し・・

薄暗い緑のヴェールに覆われ、鈍く光っていた。

その情景を思い出しながら、何もない部屋に向かって、
二人は名を・・呼ぶのでした。

その声は反響し・・
静かに自分たちの心臓へと戻ってくる。

戻ってきた声は、心臓の音を増幅させているように・・
感じられる。

黙って立ちつくす二人。。


どれくらい時間が経ったか・・
時間を意識し始めた頃。


目を凝らすと・・


「これは?何?」

部屋の真ん中に何かが、見え始めました。

今まで気が付かなかっただけなのか?
今見えるようになったのか?

定かではないけれど・・
とにかく目に入ってきました。


「これは・・木だな」

ぼんやりと浮かんで見えてきたのは・・

部屋の真ん中にそびえ立つ木でした。


「木?・・なぜ?部屋の中に?」


木は 太く、真っ直ぐ天井に伸びていました。

見上げると・・

天井を突き抜け、真っ直ぐ上に伸びている・・
目の前に見えるのは、しっかりとした幹で・・

枝や葉は・・天井に阻まれて見えませんでした。

天井に空いた穴を目指し、木は真っ直ぐに伸びていました。

天井の穴を目がけて伸びている。。


そして、突き抜けたその先から・・
枝を伸ばし、葉を付け・・

茂っている。


女は・・

「分かったわ・・緑のヴェール」


男は黙って、同時に頷きました。


女は、謎が解け・・

「この木の陰になっていたのね・・」
「緑のヴェールは、葉っぱの緑だったのね・・」

自分の言葉で、答え合わせをするかのように呟くのでした。


「にしても・・なぜ?こんなところに??」

「そうだな・・」


薄暗さの原因は、ここにありました。

女の子の部屋の真ん中にどっかり腰を下ろし、
根を張り、天に向かって伸びる木。

我が家を薄暗くするまでに 成長した木。

我が家に当たる日の光を、緑のヴェールで遮る木。


いつからか 我が家を薄暗くしていたのは・・

木でした。

いつからか・・覚えてない。


その存在に気が付かなかった男と女。

知らなかった


目の前に現れた木。


やっと、薄暗さの原因が分かり・・

一瞬明るくなったと感じた部屋は・・

また、すぐに・・

薄暗くなってしまうのでした。

















芽 5(葉~2)

2013-06-15 04:31:09 | 芽 5(葉)
女の子の部屋の前で、

一瞬 顔を見合わせた

父と・・女。


「開けるよ」

と、声をかけ、

ゆっくりとドアを開けました。


部屋の中は・・

「暗いわね」

女は呟きながら見回しました。


(初めて入るかもしれないな・・)

父親は心の中で呟き・・やはり部屋を見回す。


「どこにいるのかしら・・」

女の子の姿はありませんでした。

女は、声を出して探す勇気がなく・・
父は、名を呼んでみたものの・・返事はなく・・

二人に、黒いものが同じようにのしかかってくる。


女は、それを振り払うように・・

「どこにいるの?」

と、少し大きな声を上げてみるのでした。

が・・

やはり 部屋は静かなままでした。


父は、ゆっくりと・・

「何か話したいことがあるなら・・聞く」

やはり 返答はない。


部屋は、濃い緑色をしている。


暗いというよりも、緑色が濃く・・
暗く感じさせているようでした。

多分、我が家周辺で・・一番緑が濃い場所。

一番、緑が深い場所。


その理由は、今の二人に理解できるはずはなく、

ただ、濃い緑色の暗さに目を奪われ・・

そこにいない我が子を探すほかありませんでした。


「話があるなら・・聞かせて!」

女の叫ぶような声に・・

一瞬、薄暗かった部屋が明るくなったように感じられ・・
もう一度、同じ言葉を繰り返してみるのでした。

「話を聞かせて」

それまで暗かった部屋が、確かに明るくなりました。


少し明るくなった部屋には・・

やはり、女の子のお気に入りの「もの」はありませんでした。

鏡も、机も・・

外に散在していた「もの」は女の子の物。


照らされた部屋は、がらんと広く・・

何もない。


あんなに満たされていたはずなのに・・
お気に入りの物に囲まれていたいたはずなのに・・
物に不自由はしていないはずなのに・・

がらんとした部屋は、

広く、暗い。


二人は、照らされた、その変化を感じ・・

無意識に「話さなければ・・」と思うのでした。


この部屋は聞いている。
女の子の代わりに?聞いている。

理屈ではない 何となくそう感じ・・
女は、ここにくるまでに考えていたことを思い返していました。

それを口に出す事は、とてもいたたまれない気持ちになる。

でも・・

今、話しておかなければ・・

きっと後悔する。


取り返しがつかなくなる。



「私は・・あなたにとって母ではなかったのかもしれない」


思っていた言葉とは・・

少し違う言葉を発した自分に驚く女・・

反応を待つより、驚きを収めることに気持ちが向いていました。







芽 5(葉 ~1『そこ』)

2013-06-14 11:06:58 | 芽 5(葉)
やがて、枝はぐんぐん伸びて行きました。

左右
前後

あらゆる方向へと・・

ぐんぐん伸びる。


あるとき、

下を見る。


「暗い」


枝が伸びるまでは、しっかりと日の光が当たっていた。

自分がいた所

自分が育った所

自分が幼い頃を過ごした所


それは・・

地面。


栄養を吸収し、

水を吸い、

小さな芽を出した・・そこ。


『そこ』


かつて過ごした場所を・・

枝は、下に眺め・・

日の光を遮ってしまっている。


『そこ』

は、

枝にとって



になってしまった。


茎を伸ばし、

枝を伸ばし、

葉を付け、

もう、後戻りはできない。

底を見ることはない。


枝は伸び

葉には日光が当たり


底には

当たらない。


自ら伸ばした枝は・・

自分の足元を照らすことはできなくなって

いたのでした。


葉を付けたことで、

日の光は・・

より遮られる。


もう 底を見ることなく

伸びるだけになりました。