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半島有事への日本の備え

半島有事への日本の備え

旧日本軍の風船爆弾

客観的に見て、朝鮮半島の地政学的リスクは低下していない。ところが市場の動きなどを見て分るように、これに対する世間の緊張感は一頃より小さくなっている。この傾向は当事国に成りうる日本にも及んでいる。後ほど言及するが、日本の政治家の行動を見ても危機感が全く感じられない。

筆者は、むしろ緊迫の度合は徐々に高まっていると見る。先週号で「在韓米軍の家族の避難訓練を6月に実施するという未確認情報(本当なのか嘘なのか不明)がネットに流れていた」と述べたが、どうもこれは韓国のメディアが報じたものらしい(真相は6月にならなければ分らない)。ただいきなりの軍事衝突は無いということははっきりして来た。

兵法が説く「戦わずして勝つこと」が良いことは米国も分かっている。米国にとって、自分の手を下して戦う事はなるべく避けるのが最良の選択である。それまでは国際的な制裁を強めたり、中国に圧力を掛け続けることになる。

しかし国連決議による制裁などがどれだけ有効なのか、さすがに米国も大きな期待を持たなくなっているようだ。中国の制裁強化の実効性も疑問である。米国としては最悪のケースを想定し、着々と準備を整えている段階と筆者は見ている。

この緊迫した状況で日本が出来ることは限られる。たしかに2年前に成立した安保関連法によって、自衛隊や海上保安庁の行動範囲は広くなった。しかしこれによって国土防衛体制が万全になったわけではない。とにかく現行法は現実の有事に十分耐え得るものではない。

先週号で、核兵器を漁船で運んだりコンテナ荷物にして送る方法があることを説明した。実際、日本近海に不審船が現れても、現行法ではほとんど何もできない。例えば荷物の臨検さえできない。相手が攻撃してこない限り、船の進む方向を変えるよう要請するだけである(攻撃があれば反撃できる)。この状態では国土防衛ができるはずがなく、現行法の改正を急ぐべきと筆者は言いたい。特に今日危ないのは北朝鮮ということになって来た(2年前の安保関連法の議論では中国に重きを置いていた)。

北朝鮮のミサイル実験で、飛んだ距離のことばかりが注目されている。また大気圏に再突入する際の温度上昇に機体が耐えうるかが問題になっている。要するに兵器のハイテク度だけが人々の関心の的になっている。

しかし北朝鮮に関して、むしろ危ないのは漁船やコンテナなどを使ったローテク兵器であると筆者は考える。もっと正確に言えばローテク兵器と核兵器や化学兵器の組合せである。ところがこれらは話題にもなっていない。

実際、第二次世界大戦では、旧日本軍がこのローテク兵器(仕組は意外と精巧)で米国本土を攻撃したことがある。風船爆弾(気球爆弾)である。日本は9,300発の風船爆弾を放球し、このうち1,000発が米本土に到達している(米国の記録では285発)。たしかに戦果はせいぜい山火事を起こすなど小さかった(他に不発爆弾が爆発し子供などの民間人6名が死亡したケースあった)。しかし心理的パニックを恐れた米国は風船爆弾の話は徹底的に世間に漏れないようにした。ちなみに風船爆弾を運んだジェット気流は北朝鮮の上空を流れ、日本上空、そして米国上空を通っている(ジェット気流の速度は100~300km/h、2日で米国に到達する)。

このようなローテク兵器と大量破壊兵器(核兵器と化学兵器)の組合せが危険なことは、日・米の軍関係者は十分承知していると筆者は考える。しかし政治家、マスコミ、一般人がこのことをどれほど認識しているか疑問である。したがって究極的な作戦の目標は、朝鮮半島の非核化であり化学兵器の廃棄である。さらなる実験を止めれば済むという話ではない。

安保法制の改正が必要

朝鮮半島での武力衝突の危機が迫っていることは、何となく大体の日本人も感じている。確率でそれを示すことは困難であるが、近年になく危険性が高まっていることは確実であろう。仮にこの確率が小さくても、一旦有事が起れば日本に多大な悪影響がある。それに対し日本の国会が情けないことになっている。特に野党が酷く、半島危機には全く触れようともしない。

特に民進党などの野党には、2年前の安保関連法の国会審議で常軌を逸した徹底抗戦を行った後遺症がある。野党の国会議員は「戦争法案だ」「徴兵制への第一歩」と叫びながら踊っていた(プラカードを掲げながら本当に踊っているように筆者には見えた)。憲法学者も反対の声を上げ、特定の市民団体が国会前に押し掛けた。マスコミはこの様子を連日大々的に報じていた(マスコミは安保闘争の大騒ぎの再来でも期待したのであろうかこの動きを煽っていた)。

野党と憲法学者は安保関連法は違憲と決め付けていた。しかし彼等は憲法改正に反対する根っからの護憲派である。特に憲法学者のほとんどは、護憲派であるだけでなく、自衛隊を否定し日米安保条約にも反対している。また15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」で取上げた朝日新聞のアンケートが示すように、日本の憲法学者のほとんどは集団自衛権はもちろん個別自衛権さえ否定している(さすがに民進党の前身の民主党は、集団自衛権を否定するが個別自衛権は認めていた)。

民主党などの野党と憲法学者の発想の前提は、日本に地政学的リスクなんて降り掛かって来ることはないと言うことであった。むしろ集団自衛権を認めることがリスクを高めるとさえ言っていた。ところが今回は彼等の想定に反し、近くの朝鮮半島で地政学的リスクが実際に高まったのである。

このように北朝鮮のリスクが高まり反対派の前提条件が完全に崩れた。今日の事態は、明らかに安保関連法を成立させた安倍政権が正しかったことを証明した。つまり逆に民進党などの野党にとって、国会で朝鮮半島の有事を取上げることは2年前の自分達の失態・不明を際立たせることになる。したがって彼等はこの問題を極力避けたがっていると筆者は解釈している。それどころか民進党が安倍総理への攻撃材料に使っていた加計学園の獣医学部新設に関し、民進党の高井崇志衆院議員と江田五月最高顧問が働きかけていたという話が飛出している。特に昨年4月22日に高井議員は地方創世に関する特別委員会で「中国、四国の獣医は不足していて獣医学部新設が必要」「国家戦略特区を使って規制を突破するのが石破大臣の役目」と発言している。

ただし前段で述べたように2年前の安保関連法には不備があり(例えば不審船への対処など)、政府・与党は早急にこれらを現実に則して改正する必要がある。これ以外にも有事に備えることは沢山あると筆者は思っている。先々週号で本誌が提案した「予備自衛官の大幅増員」もその一つであろう。

昔から安保法制の整備を行おうとすると、内閣支持率が下がるのでどの内閣も避けて来た。しかし支持率の低下は一時的であり、むしろその後の国政選挙では与党が勝っている。国民も時間が経てば冷静になるのである。今のままでは自衛隊や海上保安庁に「超法規的行動」を求めることに成りかねない。

北朝鮮の不穏な動きやトランプ大統領のロシア疑惑の浮上など情勢は渾沌としている。なかなか先が読めない状況になっている。まずイタリアでG7サミットが26日、27日に開かれるが、このタイミングで北朝鮮が何かを仕掛けてくるかもしれない。また政権が窮地に陥れば、トランプ大統領は一発逆転の行動を起こす可能性がある。
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