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「音楽を学ばうとする婦人へ」 久野ひさ (1916.10)

2017年04月06日 | 久野久子 1
  

 音楽を学ぼうとする婦人へ
       東京音楽学校教授 久野ひさ

 何事に従事する上にも然 さ うでせうが、殊に最も高い又最も深い所のものなる音楽を修業しやうとなさるには、何よりも先づ真面目な努力がなければなるまいと思ひます。軽薄なほんの一時の気迷れな覚悟で行 や るやうでは、何年経つても満足な音の出て来る筈は御座いません。一体ポンと弾く一つの音にも、音を出す人の性質は恐ろしい程不思議に能く現はれるもので御座います。永年錬 きた えた人の出す音でも又は始めて楽器に向ふ人の音でも其の音によつて其人の性質は能く分るので御座います。要するに何処までも真面目に耐忍して、根気よく行り続けてゆくと云ふ事が、第一の要件で御座います
 然し唯耐忍して真面目に努力すれば、それで好いと云ふのではありません。それに伴つて熱と云ふものが無くては駄目だと思ひます。一つの曲を始終一貫して、同一の力で押し進んで行くやうな熱がなければ駄目で御座います。尤も音楽は組立ての定まつた、土台の据はつたもので御座いますから、唯熱許 ばか りあつても、徒 いたづ らに形を破り、組み立てを乱す許りで、迚 とて も整調した音は出ません。ですから炎のやうに燃え立つ熱を、正当に、順序正しく導く真面し目な努力が必要です。従つて真面目な努力と熱とは相俟つて離れる事の出来ない関係に立つてゐます。
 それから音を出す機械の好い事も一つの条件で御座います。機械と申しますのは腕とか指とかを云ふのです。此 この 上肢などの筋肉が均斉に充分に発達して居りませんと、どうも思ふやうな音は出ないやうです。恰度 ちやうど 声音の方で、カスレ声であつたり、嗄 しわ がれ声であつたりしては、十分なる肉声の出ないのと同様で御座います。ですから音楽を修めやうとするには、真面目な努力と熱と機械と、この三つが皆充分に具備 そなはつ てゐて、此中 このうち どれか一つでも欠けてゐては行けないのです。音楽を志望する方に対して、其他申し述べれば種々 いろゝ 細かい要求もありますけれども、私は先づ大体右の三つの条件さへ充分ならば宜しからうと存じます。

 上の写真と文は、『婦人公論』 秋季特別号 (第十号)現代女ぞろひ号 第一年 第十号 大正五年十月号 の 婦人の一芸一能 に掲載されたものである。
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