完璧すぎるビジュアルと性格を兼ね備えた彼女になんの文句もないというのが一般論かもしれない。
しかし、その完璧すぎるものが歪んだ形となって彼にはあらわれたのかもしれない。
彼が浮気をしていることを彼女は感じ始めていた・・・。
そして、次第に彼のことを信じられなくなった・・・。
あれだけお互いを信じ、好きでいたのに彼女はもう彼に疑いの目を向けていた。
3月、彼の赴任先が決まった。今いるところから、車で4時間ほど行った都会の中の学校に彼は勤務することになった。
彼が出発する前日、彼は彼女に伝えた。
「ついてきてほしい」
しかし、彼女は
「わたしの結婚する人は、あなたじゃないと思うの」
はっきりと宣告された彼は我を失った。お酒をのんだ勢いもあって、彼女を問い詰める言い方になった。
「そんな脅しみたいなことを言われても、ついていけないものはいけないの」
「絶対に俺についてこい」
「絶対とかそんなことではないでしょう」
彼は持っていた缶を彼女の近くに投げつけた。
彼女の信じられないという恐怖と嫌いという視線がつきささった。
これがつい数ヶ月前まで、すべてを信じ、愛し合っていた二人とは思えない光景だった・・・。
そして、彼はとうとう彼女の胸ぐらをつかみ、壁に押しやった。彼女は必死に抵抗した。
力任せに彼女を投げ飛ばした・・・。
もう憎しみしかなかった・・・。
あれほど愛し合っていた二人なのに・・・。
時計は深夜の2時を回っていた・・・。
彼は自分の都合で彼女を強引に抱いた・・・。最低の男のやる所業であった。
翌朝、彼が赴任先へと向かう日、顔をはらした彼女が浮腫んだ男の表情の後姿を見送っていた。
「彼女が自分の元から離れていく・・・」そんな危機感を抱いた旅立ちの日だった。
3月30日のことだった・・・。まだ、雪のある風景、そして、途中に湖を見ながら、彼は絶望のスタートを切ったのだ。