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2017-04-18 08:46:27 | 日記
メンデルの発表は完全に無視されたわけではなく、あちこちで、それなりの関心を引いたようである。しかしながら、後の再発見の際には即座に多くの注目を集め、追随する研究が行われたのに比べれば、埋没と表現するのは間違いではない。それには、いくつかの理由が考えられる。
メンデルの研究方法が先進的であったこと。
彼の個々の遺伝形質に注目し、それを数百個というような大きな数で扱い、(広い意味で)統計的に扱うやり方は、当時の生物学者にはなじまなかった。また、彼の粒子論的な説明も、遺伝という複雑な生物現象の説明としては単純に感じられたであろう。彼はそれを逆なでするかのように、数式による説明までその著作の中で行っている。つまり、対立する遺伝子Aとaを持つ個体の自家受精の結果を
{\displaystyle (A+a)^{2}=AA+2Aa+aa} (A+a)^{2}=AA+2Aa+aa
という形で説明している。彼自身は物理学・数学が得意で、生物学は苦手だったことにも関係するかも知れない。ちなみに、ほぼ同時期にチャールズ・ダーウィンはハトを材料にして遺伝の実験を行い、対立形質の一方だけがその雑種一代目に現れること、二代目には一代目に現れなかった(劣性の)形質を持つものも現れることは確認しているが、3:1といった関係には気づいていない。したがって遺伝法則を知ることには失敗している。
この法則が適合しない事例が多かったこと。
そのころ行われていた遺伝の実験結果に、この法則に合わない例がいくつかあった。たとえば、メンデルもその後手がけたタンポポ類では、単為生殖が行われるために、花粉に関係なく、雌親の形質が遺伝する。
細胞学などの未発達。
当時は、花粉と卵細胞が1:1で受精することも確実には示されていなかった。染色体は発見されていたが、詳しくは知られていなかった。減数分裂の発見もこれ以後である。再発見は、これらの知識が整った後であったから、すぐに受け入れられ、二年後にはウォルター・S・サットンにより染色体が遺伝子の担体であるとする染色体説が提唱されるわけである。
再発見[編集]
メンデルの法則は、1890年代に3人の研究者によって再発見され、1900年に同じ雑誌「ドイツ植物学会報告 (Berichte der Deutschen Botanischen Gesellschaft)」に前後して発表された。
ド・フリースの再発見[編集]
ユーゴー・ド・フリースはオオマツヨイグサの実験で独自にメンデルの法則を再発見。1890年代には、大学の講義で教えていたという。ベイリーの1895年の論文を読んでメンデルのことを知り、1898年にエーリッヒ・チェルマックがド・フリースの元を訪れたとき、ド・フリースはメンデルの研究を追試中だと語ったという。そして同じ法則がエンドウでもオオマツヨイグサでも成立するということは重要だと考え、1900年3月26日にパリのアカデミーで報告、アカデミーの紀要4月号に掲載された。それに先立つ3月14日には同内容の論文を「ドイツ植物学会報告」に投稿、4月25日に掲載された。この論文ではメンデルに言及しているが、アカデミーの紀要には言及がなかった。
コレンスの再発見[編集]
カール・エーリヒ・コレンスはエンドウについて実験を行い、1899年に法則を再発見した。コレンスはメンデルの原論文を読み、自分と同じ結果が書かれていたので、既知の法則を再度発表しても無意味だろうと考え、論文は書かなかった。しかし1900年4月21日に送られてきたド・フリースの報告を見て、メンデルに関する言及がないのに驚き、ド・フリースがメンデルのことを知らないのかもしれないと考え、翌22日、「品種間雑種の子孫の挙動に関するメンデルの法則」と題する論文を書き「ドイツ植物学会報告」に投稿、4月24日に受理、採用されて5月23日に掲載された。
チェルマックの再発見[編集]
エンドウで遺伝の研究をしていたエーリッヒ・チェルマックは、ヴィルヘルム・フォッケの論文でメンデルのことを知り、メンデルの原論文をあたった。チェルマックの論文は1900年1月、講師資格論文としてウィーン農科大学の雑誌に投稿されたが、ド・フリースの報告を知り、この雑誌への投稿は取り下げ、すぐに印刷をしてくれる「オーストリア農学雑誌」に投稿、採用され6月に掲載された。その後、ド・フリース、コレンスの論文が「ドイツ植物学会報告」に載ったことを知り、同誌向けに自身の論文の要約を送り、7月24日に掲載された。
4番目の再発見者[編集]
古い文献では、1900年にメンデルの法則を再発見した研究者は4人いると記されていることがある。この4人目の研究者の論文は実際にこの年に発表されたが、後の時代の遺伝子解析の結果、3:1で優性遺伝しない植物に関して、法則が成立すると記していたことが分かった。このことから内容に疑惑が持たれるようになった。現代ではこの再発見者について言及されることはない。
動物への応用[編集]
メンデルや初期の研究者はほとんどが植物を用いて実験を行っていた。動物については、イギリスのウィリアム・ベイトソンとレジナルド・パネットがニワトリについて、日本の外山亀太郎がカイコガについて、優性の法則が成立することを確認した。外山の論文は1906年に発表されている。(ただし、ベイトソンの研究はこれに先行する)
メンデルの実験データは合いすぎているのか[編集]
メンデルの実験は後にかなり論争の的となった[4]。メンデルの実験データは理論と合いすぎているというのである。その顕著な例の一つは、優性を示すF2世代のホモ接合(AA)とヘテロ接合(Aa)の1:2の比率である。
メンデルは7つの形質の各々で純系(ホモ接合)のエンドウを掛け合わせた。どの場合でも、第一世代(F1)はヘテロ接合になり、それゆえ一様に優性な状態が現れた(丸や緑)。1936年に、ロナルド・フィッシャーはメンデルの実験を再構築し、第二世代(F2)の結果を解析し、優性と劣性の表現型の比率(例えば、緑と黄色のエンドウ豆の比率、丸としわのエンドウ豆の比率)が期待される3:1に信じ難いほど近いことを発見した[5][6]。メンデルは優性の表現型を示すエンドウのホモ接合とヘテロ接合の比を決定するため、F2世代を自家受粉させてその子世代を10株ずつ育て、その中に劣性の株があればF2世代をヘテロ接合とし、10株全てが優性ならホモ接合とみなしていた(7つの形質のうち5つでは種子を育てて調べる必要がある)[7][8]。フィッシャーはメンデルが得た純系(ホモ接合)と雑種(ヘテロ接合)の1:2の比率に懐疑的で、メンデルの結果が「出来過ぎている」と述べた[9]。フィッシャーが指摘したところによると、ヘテロ接合のF2に偶然10株の優性の子が生まれる確率は約6%あり、この結果として、純系と雑種の正しい期待比率は1:1.7となるべきである。しかしメンデルの実験結果である353:720は期待される値とかなり異なり、メンデルが期待したであろう誤った1:2の比率に非常に近い[5]。この統計的な解釈はメンデルの仕事全体を批判する根拠として受け取られ、1998年には、メンデルが外れ値を除外してデータを整え、実験を繰り返すことで、実験的不正をしたと非難されるに至った[10]。フィッシャーは、実験の多くのデータは、全てではないにしても、メンデルの予想値に近くなるように改竄されている、と主張した[5]。彼はメンデルの結果を「ひどいもの」「衝撃的」[11]「加工されている」と呼んだ[12]。
フィッシャーはメンデルの実験を「予想と一致するように強くバイアスがかかっている…その理論に疑わしい利益を与えるために」と非難した[5]。これはしばしば確証バイアスの例として引用される[13]。これは次のようなときに生じるだろう。もしメンデルが小さいサンプルサイズの初期の実験で約3:1の結果を発見し、その比率が3:1からやや偏差しているように見えたら、結果がより正確な比率に近づくまでより多くのデータを集め続けるかもしれない。2004年にJ.W. ポーティアスはメンデルの観測は信じがたいと結論した[14]。しかし、実験再現は、メンデルのデータに本当のバイアスがないことを実証している[15]。2007年にダニエル・L・ハートルとダニエル・J・フェアバンクスは、フィッシャーが実験を誤って解釈したと提案した。彼らは、メンデルが10株より多くの子からデータを得ていた可能性が高いことと、その結果が期待比率と合うことを発見した。彼らは次のように結論した。「意図的な改竄があるというフィッシャーの疑念は最終的に解消された。なぜならより正確な解析により、説得力ある証拠に裏付けられていないと示されたからだ」[11][16]。2008年にハートルとフェアバンクスらは包括的な本を出版し、メンデルが結果を捏造したと主張する理由はなく、フィッシャーが意図的にメンデルの成果を矮小化しようとしたと主張する理由もない、と結論した[17]。統計解析の再評価もまた、メンデルの結果に確証バイアスの概念が当てはまらないことを示している[18][19]。
その他[編集]
シロイヌナズナにおいて親の遺伝子に異常があった場合でも前の世代の遺伝子情報が選択される事例がある。(パーデュー大学による実験)[1]
メンデルの法則は核に存在する遺伝子についての法則である。細胞質にある細胞小器官である葉緑体とミトコンドリアにも遺伝子(細胞質因子)が存在しており、これに関する遺伝は細胞質遺伝と呼ばれる。
脚注 [編集]
^ 中村運 「生命科学の基礎」2003年 p41
^ 例えば、以下の教科書には全て「分離の法則」「独立の法則」と記されているが、優性に関しては「法則」とは書かれていない。「キャンベル生物学」2007年、J.F. クロー「遺伝学概説」1991年、「ハートウェル遺伝学」2010年、「アメリカ版 大学生物学の教科書 分子遺伝学」2010年 (原著「LIFE」)、澤村京一「遺伝学」2005年
^ 「優性の法則」を法則と呼ぶことの問題点は他にもある。1組の対立遺伝子がある形質に完全優性を示しても、別の形質に対してはそうとは限らない。例えば豆の丸とシワを決める対立遺伝子は、その遺伝子が生産する酵素の量に注目すれば完全優性にはなっていない。
^ Carlson, Elof Axel (2004). “Doubts about Mendel's integrity are exaggerated”. Mendel's Legacy. Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press. pp. 48–49. ISBN 978-0-87969-675-7.
^ a b c d Fisher, R.A. (1936). “Has Mendel's work been rediscovered?”. Annals of Science 1 (2): 115–137. doi:10.1080/00033793600200111.
^ Thompson, EA (1990). “R.A. Fisher's contributions to genetical statistics”. Biometrics 46 (4): 905–14. doi:10.2307/2532436. PMID 2085639.
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^ Novitski, Charles E. (2004). “On Fisher's criticism of Mendel's results with the garden pea”. Genetics 166 (3): 1133–1136. doi:10.1534/genetics.166.3.1133. PMC 1470775. PMID 15082533 2010年3月20日閲覧. "In conclusion, Fisher’s criticism of Mendel’s data—that Mendel was obtaining data too close to false expectations in the two sets of experiments involving the determination of segregation ratios—is undoubtedly unfounded"
^ Franklin, Allan; Edwards, AWF; Fairbanks, Daniel J; Hartl, Daniel L (2008). Ending the Mendel-Fisher controversy. Pittsburgh, PA: University of Pittsburgh Press. p. 67. ISBN 978-0-8229-4319-8.
^ Monaghan, F; Corcos, A (1985). “Chi-square and Mendel's experiments: where's the bias?”. The Journal of Heredity 76 (4): 307–309. PMID 4031468.
^ Novitski, C. E. (2004). “Revision of Fisher's analysis of Mendel's garden pea experiments”. Genetics 166 (3): 1139–1140. doi:10.1534/genetics.166.3.1139. PMC 1470784. PMID 15082535.
カテゴリ: 遺伝学自然科学の法則生物学史エポニム
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