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『マタンゴ』

2011年04月03日 13時13分58秒 | 日本映画(ハ行~ワ行)
マタンゴ [DVD]
クリエーター情報なし
東宝ビデオ


『マタンゴ』 1963年(日)監督:本多猪四郎

●〝ミステリー〟と〝特撮〟と
 「誰も死んじゃいませんよ。いや、正確には一人死んだだけで、あとは皆生きているんです。じぁ、なんで帰ってこないのかって言いたいんでしょ。でもこの話をしたら、あなたも僕を気違いだと思うでしょうね」
 東京の精神病院で回想を始める一人の男。一体彼に何があったのか。そしてヨットで出港した陽気な男女7人はどうなってしまうのか。オープニングでミステリーを提示し、観客を引き込んでいく様は古典的ドイツ・ホラーの名作『カリガリ博士』(19)のような怪奇的な感覚を臭わせている。
 さらに当時の最新技術を投入して創り上げた難破シーンや特殊メイク、キノコの化け物たちの造形やセットはCGが横行した現代では描けぬ緻密さと大胆さに溢れていて、それだけで観客の目は満足できそうだ。しかしながら本作のもっとも素晴らしき価値は、特殊撮影よりも日本独特の間の感覚で表現するホラー表現にあるのではないだろうか。それは世界が注目し、新たな文法であり恐怖の源泉となった現代のジャパニーズ・ホラーにも通じているように思える。
 
●見えない恐怖
 難破船に寝泊まりをする男女7人。ある者は眠りにつき、ある者は食料を漁る。そこに何者かの影がある。音だけが響き渡り、白い影が。と思いきや、それは毛布をまとった女ども。そして食料を漁る男の背後にゆっくりと忍び寄る黒い影。目の前まで迫り、命からがら逃げてきて、ドアを閉め、7人で震えながらドアの向こうの存在を想像する。そして扉が開くとそこにはとんでもなく醜いキノコ人間の姿が。
 カーペンターが『ハロウィン』(78)や『要塞警察』(76)で〝見えない恐怖〟〝得体の知れない恐怖〟を確立するまでハリウッドは怖しい顔をした殺人鬼やサイコ・キラー、ポルターガイストや宇宙人、ポーを原作にしたAIP作品など怪奇現象やエイリアンを恐怖の対象としてきた。その恐怖演出も『大アマゾンの半漁人』(54)やハマー・フィルムの『フランケンシュタインの逆襲』(57)からわかるようにアクションの傾向が概ね強かったし、SF作品は日本もハリウッドもアクション形式で魅せていたように思える。本作もまた終盤においては幻想的なアクションとなっているが、キノコ人間が難破船に入り込んでくるシークエンスは従来のホラー演出と大きく異なっているように思えるのだ。
 キノコ人間の存在は「足」や「手」「影」といった極めて曖昧なショットで構成されている。しかもキノコ人間は彼らをナイフで殺すわけでもないし、何かをするわけでもない。前後に彼らの脅威となる「モンスターの遭遇=死」という観念が植え付けられていないから、観客は一向に怖くないはずあ。それでもキノコ人間の恐怖が観る者の心に滲み出るのは、やはり映像と音響における映画的な演出があったからこそではないだろうか。
 長い長い〝間〟とギシギシと鳴る〝効果音〟や〝気配〟だけで恐怖を体感させる演出はジャック・ターナーの『キャット・ピープル』(42)といったB級ホラー演出を現代版に置きかえたかのように鮮烈であった。
 
●理性のある人間こそマイノリティ
 従来モンスターはマイノリティ(集団における少数派)として除外されるべき存在であり、本作においてもキノコ人間は明らかなマイノリティとして排除されるべき存在なのである。しかし人が住み着くことのできない無人島では、生き抜く方法はただ一つ。大量に生えた毒キノコを食べてキノコ人間になることだけだ。
 空腹と苛立ち、絶望感にさいなまされた彼らは、苦痛に悶えながら生きるよりもキノコ人間となって満たされた快感の中で生きることを選んでいく。すなわち彼らは人間として生きることを捨てたのだ。誘惑に負け、感情に流されたのである。理性を捨て、感情のまま生きることが、この土地で生きる唯一の方法。
 水野久美演じる妖艶な美女は理性を捨て、快楽で生きることによって醜くなるどころか、ますます妖艶になっていく。まるで東京の街で美貌に花を咲かせる女たちのように。
 恋人にキスも許さない純朴な明子は、最後まで誘惑に負けないとするが、ついにキノコを口にし、快楽の中で綺麗になっていく。そして強烈な理性をもって感情に流されずに生き抜いた久保明演じる男は島を脱出し、東京の街へと帰還した。
 しかし東京もまた島と同じ。欲望の街において感情に流されない理性ある人間はマイノリティとして除外されるのだ。だから彼は依然として理性の赴くままに真実しか話さない。精神病院で影から覗くキノコ化した彼の顔面は、彼が欲望の街では生きていけぬモンスターであり、彼こそマイノリティの存在であることを感じさせてくれるから傑作だ。
 「感情に流されない方がモンスター」という逆転の発想で恐怖を演出する脚本が刺激的であり、この逆転の発想こそ本作が長年カルト映画の傑作と謳われる大きな要因なのではないだろうか。
 脚本としてもサスペンス演出にしても下降時期にあった60年代の日本映画とは思えぬ出来栄えであり、あらためて特撮映画に並々ならぬ情熱を注ぐ映画人の力量に震えさせられた。


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