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『天然コケッコー』

2008年04月10日 19時20分15秒 | 日本映画(ア行~ナ行)
天然コケッコー [DVD]

角川エンタテインメント

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 『天然コケッコー』 2007年(日)監督:山下敦弘

 ラブ・ストーリーは何も人に恋をするものだけではない。本作では、男と女、田舎と都会、それぞれの三角関係を静かに、それでいてユーモラスに描かれる。
 光に照らされ輝く緑。壮大に広がる山々、そんな風景画のように神秘的な映像には激しいカットバックはなく、ただひたすらにカメラは人も交えた風景をおさめ、ワンシーン・ワンショットで田舎のスローライフを演出する。場面転換であっても、まるで日が沈むようにゆっくりとフェード・アウトしていき、朝日のごとくフェード・インするから、もうその名も知れない場所の空気とのんびりとした時間を視覚的に感じられるのだ。その演出力と言ったら巧み技。何といっても本作は田舎と都会の対比が面白い。
 都会に修学旅行に来た主人公のそよ。足だけが駅の真ん中で描かれる。彼女の足はまるで田舎で散々描かれたあの静かな風景のように動かず、彼女を置いていくようにして周りの人々は速く歩いて行くのだ。そして田舎では全く描かれなかった連続したカットの数々。駅の表示板が次々と目が回るように映し出され、都会の忙しい雰囲気を映像によって醸し出しているではないか。田舎という静、都会という動、そんな二つの異なった生活習慣と場所を映像によって表現する演出力の妙。また、言葉では語らぬ愛の物語も奥深い。
 大沢が東京で久しぶりに会えた友達。帰りの駅で友人が彼に渡したのは母校の壁の一部である。そよはそんな友人の心こもったプレゼントを微笑ましく思うが、彼はその壁の一部をその場に捨て去るではないか。彼は「奴らのギャグだよ」と言う。確かに彼らのふざけたそぶりを見るとその母校の壁はギャグなのである。しかし、自分が育ち思い出に溢れ、家族のように愛してきたただ一つの母校が廃校になってしまうであろう未来に不安と悲しさを抱いていたそよにとって、母校の壁の一部をギャグとする都会人の行為は何とも腹立たしく、実にやるせない現実なのである。学校という存在を軽視する彼らと田舎者のそよは全く異なった思考であることが叙情的に描かれず、ドラマティック且つ重々しく感じさせられるから巧い。ラストのキスシーンは集大成とも呼べる本作の最も要となる重要なシーンであろう。
 そよが(ジャケットではなく)今度は卒業祝いのために彼にキスをする。しかし何度キスを繰り返してもどこかしっくりこないで、満足のいかない彼女。彼はそんな彼女に「愛情がないんだよ」と捨て台詞を吐くのだ。彼女は彼が去った後、哀愁に満ちたその教室の黒板にキスをする。そこには彼へのキスにはなかった満足げな笑みがこぼれ、彼女は真実のファースト・キスをしたのだ。彼女はキスを「行為」とし、握手と変わらないものとしていた。だからキスに満足はしないし、彼女にとってジャケットと交換するくらいたいしたものではないのだ。だが、黒板でのキスのように、彼女は何よりもこの町、この風景、この黒板、この教室、この学校、この田園風景、この田舎の故郷を愛していたのだ。そんな彼女の無意識な田舎への愛情を察しているように、彼は「都会に来ても田舎のことばっか」と彼女の故郷に嫉妬する。だから彼女が心から愛した教室へのキスは愛に満ちており、彼女の心を満たしたのである。
 本作は田舎という故郷への愛を様々な恋の関係と都会との対比を交えながら描き、映像によってその場の雰囲気を演出し、観る者の心を揺さぶり、愛に対する想いを喚起させる秀作であり、そのユーモアのセンスも決して忘れてはならない。


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4 コメント

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Unknown (ANDRE)
2008-06-07 00:27:21
TBありがとうございました。

自分がうまく表現できなかったことを的確に述べられていて、とても興味深く拝見させていただきました。

この題材は、普通だったら主人公の初恋物語として映画化しても十分通用するものだと思うんですが、それをあくまで背景にして学校や田舎を描いているのが本当に新鮮で、良い意味で期待を裏切られました。
コメントありがとうございます! (ヒッチ)
2008-06-07 11:29:22
わたくしも最初は初恋ものかと思ってたんです。ところがどっこい、田舎町に住む女の子お話じゃないですか。
映画的な表現で彼女の想いを描いていて、心に深く突き刺さる優しいドラマでしたね。

これからも是非遊びに来てください!ANDREさんのブログにもお邪魔させていただきますのでヨロシクお願いします。
お邪魔します (マーク・レスター)
2008-12-29 10:47:53
コメントを書くのが遅れておりました。

今作レビューの相互トラックバックをさせて頂いております。マーク・レスターと申します。

おっしゃる通り、「田舎と都会の対比」 が興味深く表現されておりましたね。あんなにゆったり描いてきたものを、一転して、しかもCG合成をしてきたりと......。

「酔いどれ天使」 も相互トラックバックさせて頂いております。共通する作品レビューが生じましたら、また、よろしくお願い致します。 
マーク・レスターさん、こんにちわっ! (ヒッチ)
2008-12-29 16:03:51
わたくしもマーク・レスターさんのブログにはちょくちょくお邪魔させてもらってます。

あら、CG合成のシーンなんてあったんですね。なんだか全然気付きませんでした。
しかしながらこれまでにないような独特の雰囲気と、ふと思いにはせられるような不思議な作品でしたね。

こちらこそ、今後ともよろしくお願いします!気になるレビューがありましたらこちらもコメントやTBさせていただきますので、その際にはヨロシクお願いいたしますねっ!!

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