映画批評ってどんなモンダイ!

映画批評と映画自身について、映画批評に触れながら考えてみようなんて志高くの映画考察の映画部屋。完全ネタばれ。でも読んで!

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

『酔いどれ天使』

2008年07月28日 23時15分34秒 | 日本映画(ハ行~ワ行)
酔いどれ天使<普及版> [DVD]
志村喬;三船敏郎;山本礼三郎;千石規子
東宝


 『酔いどれ天使』 1949年(日)監督:黒澤明

 本作には一本の筋がピシッと通っている。理性と欲望の戦い。これこそが本作最大のテーマであるのだが、しかし本作の真の凄味はそんな黒澤のメッセージではない。視覚的、聴覚的に、映画的表現いっぱいで、観る者に理性と欲望の闘争を感じさせたところに真の凄味があるのだ。
 理性と欲望の対決は結核に犯された高校生の女の子の登場によって露となる。彼女は「結核なんて理性があればちっとも怖くないのね」と言い、医者の言うことをきちんと守っているのだ。しかしどうであろう。次に病院に現れたのは、同じ結核患者であるやくざの松永。彼は酒に溺れ、おまけに強情で、医者の言うことなんか聞こうともしない。まさに、女子高校生と松永の対比こそ、究極の理性と欲望の対比であるのだ。そして、松永の内面で理性と欲望の戦いがデフォルメたっぷりに、やけにインパクトたっぷりに映し出される。
 もう酒も女もしないと誓い、病院をあとにする松永。しかしどうにも目の前には女が現れ「おしおきしてあげる」と甘い誘惑が彼を惑わす。しかし彼は無言で立ち去るのだ。欲望になんとか打ち勝つと映像はワイプで場面転換し、酒屋を映し出す。しかし、これも、いや、しかし、どうにか酒の誘惑にも打ち勝つ松永。勝利を喜ぶかのように花を一凛持って、汚い汚い沼の前で勝利を味わうのだ。すると、そこに悪い悪いやくざの親分が現れ、出所していきたことを告げ、やくざの頭になった松永を促す。松永はどうしようもなく、ただ頭をペコペコし、綺麗な勝利の一凛の花をゴミで汚れた沼にポイッと捨て、そのゆっくりと汚い沼に沈んでいく一凛の花が、彼が再び欲望の沼に溺れてしまったことを視覚的に感じさせてくれるのだ。
 その後も、松永は自分の親分と酒を前にして、意地のぶつかり合いを果たしながら、誘惑と葛藤する。そして「一杯だけ…」と呟き、ゴクリと飲み干す。その瞬間、ワイプが入り、一気に泥酔状態となった松永を映し出すのだ。もうそこには理性などない。理性は欲望に負け、彼の心と肉体は欲望に支配されてしまっているのである。
 泥酔状態で、ディスコでダンスをする松永。あの「ワ~~オ、ワオワオ~」という猛獣のような「ジャングル・ブギ」をバックに、獣のような振り付けでダンスをするのだ。それはまさに彼が理性を持たない「獣」を化したことを大言しているのである。サウンドと躍動の荒々しい野性的ダンスによって理性と欲望の勝敗を観る者に感じさせるのだから、それは実に巧い演出であるし、監督の才を感じられずにはいられない。
 そして欲望に満ちたやくざたちは死に絶え、理性に恵まれた結核の女子高生は生き延びるのだ。しかも、やくざも女子高生も同じ地域に住んでいる事実は、松永の理性の敗退は社会のせいではなく、個々人の内面の問題であるという黒澤のメッセージが込められているように感じた。黒澤はやくざを大いに嫌い、人間には理性が重要なのだと生涯訴え続けた人間であり、本作はまさに『野良犬』と並んで、黒澤のメッセージが最も大言されている作品と言えよう。
 さらには、その視覚的聴覚的にドラマを高めていく演出の才は(音楽と映像の対位法など)実に洗練されていて、まさに本作は、重大なテーマを背負いモーションで構成された映画的芸術作品と言えよう。


この記事が気に入りましたら、
下記のバナーをポチッと押して、投票お願いいたします(・∀・)♪
    ↓
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
『映画・DVD』 ジャンルのランキング
コメント (1)   トラックバック (1)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 『カリートの道』 | トップ | 『野良犬』 »
最近の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (マークレスター)
2008-11-25 23:36:52
こんにちは。

レビューを興味深く拝見致しました。大いに同感できる部分がありました。
ボクも今作のレビューを書いておりますので、トラックバックをさせてくださいませ。

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
完成! 「酔いどれ天使」 (ポータブルDVDによる 車内鑑賞レビュー)
  今作の鑑賞ポイントとして、以下の2点に注目をしました。    【 ? 志村喬 と 三船敏郎 の キャラクター付け 】    【...