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映画批評と映画自身について、映画批評に触れながら考えてみようなんて志高くの映画考察の映画部屋。完全ネタばれ。でも読んで!

『ザ・フォッグ』

2012年02月13日 13時26分23秒 | ホラー映画
ザ・フォッグ 【ベスト・ライブラリー2011年 ホラー映画特集〜「本当は聞きたくない!山の怖い話 発売記念」:初回生産限定】 [DVD]
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ジェネオン・ユニバーサル


『ザ・フォッグ』 1980年(米)監督:ジョン・カーペンター

●閉塞感の巨匠
 町があり、灯台があり、漁業が盛んな島に、まるで牢獄のような閉塞感を感じさせられるのはなぜだろうか。それはカーペンターの閉鎖的な空間づくり、雰囲気づくりの演出が功をなしているからだと思われる。
 夜の街で騒音が突如鳴り響き、電気が点滅し、家具が勝手に動く怪現象に見舞われる街を映すシーン。クレーンを使って移動しながら町を俯瞰するクレーン撮影(ハリウッド映画で多用される表現)ではなく、本作では各建物をどっしりと構えた固定アングルで撮影する。それらの静的なショットの数々をつなぎ合わせることにより、まるで牢獄に閉じ込められているような感覚(閉塞感)を醸し出すことに成功していたように思える。しかしこれは劇映画の枠組みで容易に生み出せるものではない。もし貴方が複数の場所で巻き起こる出来事を静的なショット同士だけで表現しようと試みるなら、すぐさまそれらのショットの繋ぎに違和感を覚えるだろう。なぜなら空間ショットの連続だけでは、映っている空間の位置関係を想像的に把握させることが困難になり、どうしても退屈な説明的ショットを入れなくてはいけないからだ。無論、そうした説明的なショットが挿入されるとたちまちテンポと緊迫感が崩れ、島全体に漂う閉塞感、閉じ込められて逃げ場のない環境を暗黙的に理解させることが難しくなる。では本作が静的な空間描写を多用しつつ閉塞感を生み出すことに成功したのはなぜだったのか。
 それは主人公の女性の職でもあるラジオがあったからこそだと思われる。ラジオは同時に複数の人間が聞くため、リアルタイムで流れるラジオの声がサウンドトラックとして流れるだけで、複数の静的なショットが同じ時間軸上に置かれていると理解することができる。灯台のラジオブースと霧に覆われる船。息子の救出を頼むラジオ局の女性と息子、そして救出に向かう男女。同時多発的に起きる怪奇現象。それぞれのシークエンスにおける複数の時空間をつなげているのは、全てラジオの音である。そうした時間の一致は、ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ』における「電話」のごとく、全く別の空間にいる二人を結びつけ、彼らの関係とサスペンスをも生み出し、なおかつ静的な画面構図の連続が、きわめて閉鎖的な印象を与えてくれる。そのためカーペンターの作品は決して怖いものではない。怖いというよりも閉所恐怖症的な恐怖。不安と緊迫感、そして閉塞感。もうダメだと匂わせる死の香り。そうした非物理的な世界観を体験させるところに本作の恐怖が存在する。また電子音のメロディも全体的な不穏な空気感を醸し出すのに大きく貢献していたように思える。
 映像と音響によって、一つの街に息苦しさと絶望感、死の匂いが立ち込める終末観、そして破滅的な感覚を匂わせてしまう演出はカーペンターの映画術そのものだろう。とりわけ本作は、そうした閉塞感の演出が成熟した典型的なテキストとして評価できる。

●ショックの巨匠
 本作はカメラワークが極めて静的で、一向に動かない。そのため突如挿入されるフレーム内の急激な動きに観客はショックするだろう。終盤の教会で背後から突如現れる神父。霧の中に見える海賊船の帆。ヒッチハイクしたトラックの運転手と話していると突然大破する窓ガラス。背後に潜む悪霊。静的なフレームに突如として侵入する動的な何か。映像における「静」と「動」が観客に悲鳴をあげさせるとしたら、なんて巧妙な演出だろうか。
 そして音響においては、不穏なメロディを途切れることなく、90分全て同じBGMであるかのような長い長い不安と緊迫を構築し、そこに奇怪な音を入れることでショックさせるから映画的だ。ここで映画的と称するのも本作がオープニングから蓄積されていく漠然とした不安と緊迫感を前提にしてショック描写が挿入されているからだ(そもそも映画は長時間画面を注視し続ける環境が設けられている(テレビは断片的が前提)時間芸術の側面を持つため、本作のように長い時間をかけて不安を蓄積することが可能になる)。もしサウンドにおける長時間の不安の蓄積がなければ、ショック描写も他愛のないものになっただろう。だから本作をテレビ画面で鑑賞した観客は、もしかしたら不穏な空気が蓄積されず、ショックを体感しないかもしれない。それほど映画館の持つ魔力は絶大なのである。話がずれたが、静的な画面構図は閉塞的な世界観創りだけではなく、ショック描写の土台としても重要な位置を占めていると言える。
 ホラー映画とジャンルで片づけるのはもったいない。他の映画よりも、(もしかしたら)ヒチコックのサスペンスよりも巧妙な演出と罠が仕掛けられた映画的魅力を持った作品なのだから。本作『ザ・フォッグ』はカーペンターの映画術がほとんど詰まった映画的な秀作であり、古典的な名作として称えられるべきではないだろうか。



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