波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

泣いた人形

2016-09-15 17:25:07 | 超短編童話

◇ 泣いた人形


 マミがいつも連れ歩いているフランス人形の顔が、あまりにも汚れていましたので、小川の水につけて、洗ってやりました。
 ピチャピチャ。
 水に映ったマミの顔も、人形に劣らないほど汚れていましたので、人形の隣で俯せになって洗いました。
 ピチャピチャ。

 隣の人形が、変な声で泣きだしました。しまった。人形の顔を水につけたままだったのです。
 フラ子、ごめんね。そう言ってフランス人形を抱き起こすと、
「乾くまで、静かにお座りしてるのよ」
 そう言って、土手にお座りさせました。
 この時また変な声がしたので、マミは顔を上げました。小川の向こうの土手にポメラニアンがいて、変な声で吠えていました。
 さっきフランス人形が泣いたと思ったのも、この犬だったのかしらと、マミはすこしがっかりし、
「あっち行け!」
 と言ってやりました。子犬はすぐいなくなりました。どこの犬か分らない、見かけない犬でした。

 その時から、何か月かが経ちました。フラ子の顔もまた汚れてきました。マミは時々思うのです。あの時泣いたのは、犬ではなく、やっぱりフラ子ではなかったかと。これまで何もしゃべったことのないフランス人形が、あのとき声を出して泣いたのです。

  おわり


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