静 夜 思

挙頭望西峰 傾杯忘憂酒

書評;032-1    再読< 日本語 表と裏 >    森本 哲郎   新潮文庫

2014-12-14 14:23:41 | 書評
  この本は昭和60(1985)年、新潮社から出版され、3年後に文庫入りした。  もう初版から30年近くなるので、ご記憶の方も多くはあるまい。
  まえがきで著者が述べているが、この本を書く動機は「日本人が曖昧な表現を好むのは、何に由来するのだろう」と著者が積年思い続けてきた疑問の解明であり、それを考える作業のアウトプットがこの書物になった。
  著者は、曖昧表現または其の心理を解明するうえで代表的なもの24種について、語源・類義語・派生語(~表現)そして外国語との比較も交え、幅広く考察する。日本語または日本文化の歴史的経緯も視野に入れつつ、「なぜ、このような表現が好まれ、生き残っているのか」と問うてゆく。 言葉に関心を持つ人なら思わずグイグイ引き込まれてしまう。
   参考までに挙げると、24種の言葉とは次のものである; <よろしく> <やっぱり> <虫がいい> <どうせ> <いい加減> <いいえ> <お世話さま> <しとしと> <こころ> <わたし> <気のせい> <まあまあ> <~ということ> <春ガきた> <表と裏> <あげくの果て> <かみさん> <ええじゃないか> <もったいない> <ざっくばらん> <どうも> <意地> <参った、参った> <かたづける>

  全部を要約するわけにゆかないので、次の3つ<お世話さま><~ということ><もったいない>に絞り、私が共鳴したことも併せて紹介したい。 まず、<お世話さま>から。
   ・・・「世話」とは、(忙「せわ」しい)から転じ、内心面倒ながらも他人のために何かしてあげる意味が主な語源らしいが、「世の話=世間の評判」の意も同時にある。何か事件を起こした際、本人ではなく周囲の者が「世間をお騒がせして申し訳ない」と陳謝する光景に、森本氏は「お世話さま」の実体を見るという。 <日本の社会を動かしているのは一人ひとりの人間ではない。実は世間の声すなわち「世話」なのだ>。<それは日本的な合意による実体不明の圧力で、或る時は個人を最大級に持ち上げ、ある時は情け容赦なく押し潰してしまう>。
   だから、そのような「世話」はこの社会に生きる人にとり、とても恐ろしい。そこで日本人はできるだけ「世話」にならぬよう努め、「世話」に巻き込まれことを極力避けようとする。「お世話さま」の「さま」とは恐ろしい世間の声に対する尊称であり、日本社会の特質をこの上なく正直に告白しているといえよう・・・・

  うむ、素晴らしい。 この分析から見えてくるのは≪自分の考え/信念で生きる強さを身に着け/維持するよりは、公約数的な他人の評判(=世話)を尊重し、自らの価値判断でなく”恥の概念”で行動を律する日本人の伝統的生きざま≫であり、大人になっても自立しない生き方としての曖昧さにも通じるわけだ。                  < つづく >
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