静夜思

愁多酒雖少 酒傾愁不来

書評 069-6 「死刑と正義」止メ:  森 炎(ほのお) 著   2012.1.刊  講談社現代新書

2017-05-11 09:47:29 | 書評
                                【9】
 ここまで読んで下さった方は理解されたと信じるが、本書は殺人を5つのカテゴリーに分け、これに4つの情状酌量要因を絡ませる方法論により、ひとつひとつ
『何が死刑と無期懲役以下を分ける基準なのか』『加害者の命を奪ってまで守るべき価値とは何か?』の設問を読者に問いかける形式で構成されている。 
 一貫しているのは、単純な「人命尊重全能主義」や「因果応報論」の立場を排し、努めて論理性を守ろうとする著者の姿勢だ。<罪と罰><生と死><精神障害と責任能力><痴呆症と犯罪>など、人間である限り避けて通れない重いテーマを職業裁判官だけが独占するのではなく、裁判員裁判の導入で一般市民が身近なテーマとして引き受けるようになった今、本書の意義は大きい。 
 其の意義は「司法の民主化」だけでない。私が期待するのは、著者が示すアプローチを通じ、上に挙げた”人間である限り避けて通れない重いテーマ”から人々が逃げず、市民一人ひとりが人生を自分のものと捉える落ち着いた人間となり、自立した個人に近づく契機になることである。『時の流れに身を任せ』『川の流れのように』生きたい日本人には、特に大切な取り組みだと私は思う。 

 さて最終章「死刑の超越論的根拠を撃つ」では、死刑を巡る根源的質問について著者が自己の意見を開陳している。  以下に要約してみよう。

(1) 死刑の存置/廃止論争に意味はあるか?・・・効果(a)「死刑の威嚇による犯罪予防=一般予防」vs(b)「犯罪者抹殺による再犯防止=特別予防」
  * (a)の主張者は殺人以外の犯罪にも死刑適用の是非を議論すべきなのに、そうしない。即ち、「一般予防」は死刑制度の是非とは無縁。
  * (b)は、実質的終身刑(=恩赦/特赦なし)が存在するので、これまた死刑制度の是非論が意味をなさない。

(2) 聖書における「汝、殺す勿れ」は、裁く者には向けられないのか?・・・宗教者自身に、以下の考え方がある。
  * <正当防衛>で加害者の命を奪うことが許されているとすれば、死刑は「神」による正当防衛だというのがローマ法王庁の正式見解だそうだ。
   ・ ”死刑を執行するために剣を執ることは、神に奉仕することを意味する”  ← マルティン・ルター 

(3) 死刑は野蛮な刑罰か?  聖なる贖罪か?・・・・罪を犯した魂は、どうすれば 救われることになるのか??
  * ドストエフスキー、ヴィクトル・ユーゴー、ベッカリーアなどは残虐このうえない刑罰だと論難している。片や、≪罪を犯した者が正しく罰せられないなら、
    その者の救いが妨げられる≫とする考え方【神学大全:トマス・アクィナス】もある。
  * 日本では死刑の宣告から執行に至るまでの時間は<魂の侮辱>ではなく、<魂を鎮めるための時間>として位置づけられている、と著者は謂う。
    『悔い改めた良い人に生まれ変わって死んでゆく』のが最高の贖罪だ、との考え方である。ここには<輪廻転生>に似た感覚が働いているのかも知れない。
   ⇒ もちろん、悔い改めない死刑囚も居るが、もとよりこれには、人間も如何なる超越者も手の施しようはない。

(4) 「生命権」「人権」保護の観点から、死刑は許されるのか?・・・他者の生命を奪った者も それらの権利は保障されるべきか?
  * <生命権は、人間が享受するあらゆる権利の最たるものである。法律は(中略)昔から自然発生的な人権として生命権を確認してきた。人間から生命権を
    故意に奪う者に対する死刑を規定しないで人間の生命権を保護することは、正当でも適法でもないし、また論理的でもない>エジプト政府見解:1989年
  * アウシュヴィッツにおけるナチス責任者の処刑を人権保護違反だというなら、大量に虐殺されたユダヤ人たちの人権は保護されたのか?
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 死刑を論ずるにあたり、存廃是非論に絶対的真理は無い。 他人の生命を故意に奪う罪が目の前にある時、何が”正しいこと”してもとるべき「義」即ち<正義>
と考え、自分はどう決断するのか、それがあるだけだ、と著者は締めくくる。此の決断からは、誰も逃げることが出来ない。      < 了 >
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