中3の夏休みといえば、部活動も終わり、高校受験に向けて、気合を入れて勉強を始めなければいけない時期だ。私は、毎日のように釣りに出かけていた。さすがに母の逆鱗に触れ、ある日釣り道具一式をどこかに隠されてしまった。薄々隠し場所は見当が付いたが、敢えて探し出す事はしなかった。こんな時に備えて、もう一式、友達の部屋に置かしてもらっていたのだ。私は、友達の家に勉強に行って来ると家を出ては、友達の部屋(離れになっていた)に立ち寄り、道具を持って釣りに行っていた。
しかし、秋以降は、さすがに釣りに行かなくなった。釣りに行かなかったからといって、その分勉強時間が増えた訳ではなかった。自分の中でけじめを付けていただけだ。私にはなんとしても入りたい高校があった。その高校に入るまでは、釣りを我慢して頑張ろうと思っていたのだ。釣りをエサにして、自分のやる気を奮い立たせていた。毎晩3時前に寝ることは無かった。勉強をしていたというより、ラジオの深夜放送に熱中していた。TBSのパックインミュージックだ。小島一慶、愛川欽也、ナッチャン・チャコチャン、山本コータロー、そして、土曜がオールナイトニッポンの鶴光。土曜日は5時まで聞いていた。
そんな生活だったので、常に寝不足、顔色が悪く、不健康そうな顔をしていた。勉強する机の傍らには、受験が終わったら行きたい釣場一覧を置いていた。1番が、戸田の道満。2番がビン沼。3番が荒川本流だったと思う。
ようやく中学受験が終えた日に、受験の帰り道にへらの雑誌を買って帰ったのを覚えている。そして、受験後最初に行ったのは、やはり道満釣場(戸田市観光協会が運営する管理釣場で、今も健在)だった。
今、下の子が中3だ。あの頃の私と同い年かと思うと不思議な気がする。うちの子はしょっちゅうテレビゲームを私の妻に隠されている。彼の場合、すぐに見つけ出して、再開するので、妻の逆鱗に触れ、大変な騒ぎになる。彼もまた、あの頃の私と同様に、昼と夜が逆転してしまっている。学校から帰るとすぐ寝てしまい、親が寝た後、起き出して活動を始める。作っておいた夕飯を夜中に一人で食べ、明け方風呂に入っているようだが詳細は分からない。青白い不健康そうな顔色も私そっくりだ。