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もう一つの表語文字

 シュメール人がつくりだした楔形文字。古代エジプト人がつくりだしたヒエログリフ。これらの文字は、それぞれが意味を持つ表意文字と、話し言葉の音を表わす表音文字が組み合わされ、彼らが使っていた“言葉”をほぼすべて書き表わすことのできる“文字”=表語文字でした。表語文字は、その文字自体が意味をもっているので、そこにあいまいさはなく、読むだけで意味を伝えることができました。古代文明が生み出したこの表語文字は非常に優れたシステムでしたが、それだけ複雑な体系でもあり、その習得には時間がかかりました。その結果、その文字を使えるのは特権者に限られてしまっていたのです。そのためその文明の周縁にいた人々、複雑で精緻な表語文字を使いこなすことができなかった人々、その文明にとっての異邦人であった人々が、必要に迫られて生み出した一つの音だけを表す、究極の文字=アルファベットが急速に普及していきました。そして楔形文字やヒエログリフなどの表語文字は、それを支えた文明が崩壊した後、急速にその姿を消し、忘れ去られていったのです。
 
同じく表語文字として知られるものに“漢字”があります。古代文明が生み出した表語文字の中でこの漢字のみが現在もまだ広く使われていますが、ではこの漢字はどのようにして生まれてきたのでしょうか。
 
現在知られている最古の漢字は、殷墟から発掘された甲骨などに刻まれた文字(甲骨文字)といわれています。いまから約3300年前のものです。この甲骨文字は物の見たままを描く絵文字に近い象形文字でしたが、ある種の事態を表現する動詞や形容詞の文字も存在しました。そこには既に現在の漢字の書体に似通っている部分も見受けられ、非常に発展したものだったのです。そこで現在では殷で使われていたこの文字は、おそらくはそれ以前から様々な発展の経路を辿ってきたものだったのではないか、とみられているのです。


Oracle_bone_script/占いを記した甲骨文字

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