第八芸術鑑賞日記

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パンズ・ラビリンス(10/6公開)

2007-10-23 00:48:11 | 07年10月公開作品
 07/10/6、恵比寿ガーデンシネマにて鑑賞。8.0点。
 文句なし。21世紀最初の十年に作られたファンタジー映画としては『ロード・オブ・ザ・リング』三部作と共に語り継がれるべきダーク・ファンタジーの傑作。。こういうレベルのものを観てしまうと、昨年のナルニアとかはなんてガッカリな出来だったんだろうと思い出される。
 1944年、内戦後もフランコ政権へのゲリラ闘争が続くスペインの「現実」と、牧神が守る迷宮へ足を踏み入れてゆく「ファンタジー」と、二つの世界が交互に描かれてゆくというのが基本プロットなのだが、苛酷な現実からファンタジー世界へ逃げ出すとそこにもまた試練が待っているという形で、主人公の少女はどちらの世界でも悲惨な目に遭い続ける。ファンタジーという甘い言葉から想像されるのとはあまりにも大きく隔たった地点で成立する限りなくヘヴィなお伽噺。
 ギレルモ・デル・トロ監督作は今回が初見だが、このサディスティックな容赦のなさは最高の一語に尽きる。「現実」パートでのドライな暴力描写(悪趣味にならないギリギリのところ)、「ファンタジー」パートでの醜悪な怪物たちの造形。それぞれのパートが強烈な求心力を持っているのが素晴らしい。一方から他方へと舞台が変わるたびに、あぁ早くこの続きが観たい……と思わされてしまうのだ。監督の掌中で操られているようで悔しいが、この素直な喜びを与えてくれたことに感謝せずばなるまい。
 もし仮にこれが凡庸な作家の手になるものだったなら、「現実」のパートは単なる記号的で表層的な描写に終始してしまっただろう。しかし本作は、それだけで一本の戦争映画を作って欲しいと思えるくらいに見事である。もちろん実際には(善悪が単純な二元論に還元されてしまうあたり特に)長編に耐えうる構造にはなっていないのだが、しかし個々の描写には他のどんな戦争映画と比較しても見劣りしない強度がある(といってもゲリラ戦という特殊な戦いだから、集団の戦いを描いた多くの戦争映画と一概に戦闘シーンを比較することはできないため、ドラマとしての側面に限った話ではある)。とりわけ、キャラクターをしっかり描きこんでいることが勝因だろう。終盤、ビダル大尉とメルセデスとの鬼気迫るやり取りに気の昂ぶりを抑えることは不可能だ。メルセデスを演じたマリベル・ベルドゥの目に宿った強さに万感の拍手。
 それからもちろん、「ファンタジー」パートでのグロテスクなイマジネーションが炸裂する様も圧巻だ。実はピーター・ジャクソンもそうだが、現代のファンタジーの名匠たちはどうしてこうも生理的な嫌悪感を催させるのが得意なのだろう。そして本作の凄いのは、こうした生理的嫌悪感が作品総体に対して全く下卑た印象を与えることなく、むしろ一種の崇高さすら感じさせてしまう点にある。醜さが美しさに転じる瞬間を目撃してしまったような感動。
 本作の「映像」は「醜い美しさ」を語り、それと対をなすように、この「物語」のラストは「残酷な救済」を語る。ハッピーエンドだとかバッドエンドだとか、そんなことはどうでもいい。お伽噺には教訓を求めてよいタイプのものといけないタイプのものがあるのだ。
 視覚の冒険(SF、ファンタジーはやはり映画の王道だ)と物語の冒険(お伽噺もまた映画の王道だ)が高次元で融合した名作。
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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-10-28 00:27:51
TBありがとう。

>生理的嫌悪感が作品総体に対して全く下卑た印象を与えることなく、むしろ一種の崇高さすら感じさせてしまう点にある。醜さが美しさに転じる瞬間を目撃してしまったような感動。

いい指摘だと思いますね。とても深く考えられ、いろんな象徴や暗喩が、こめられていたと思います。
崇高さ (kimion20002000)
2007-10-28 00:29:54
ごめんなさい。
Unknownになってしまいました。
どうも (30@管理人)
2007-10-28 04:27:22
丁寧にコメントありがとうございます。
kimion20002000さんほど細かく分析して観てはいませんでしたが、ディテールまで様々な解釈が可能になっているのでしょうね。
繰り返しの鑑賞に堪える名作だと思います。
PJ (kossy)
2008-01-01 01:57:41
明けましておめでとうございます!
たしかにピーター・ジャクソンと言われれば、かなり似ていますよね。監督のお国が違うから、戦争に対する扱いが違ってるだけで・・・
ブラックなお伽話のような映画だったら日本人も得意なはず・・・だけど、ここまでの映像はできないんですよね。なんでだろ・・・

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