狐の日記帳

倉敷美観地区内の陶芸店の店員が店内の生け花の写真をUpしたりしなかったりするブログ

人は忘れるために夢を見る。

2017年04月23日 20時21分23秒 | VSの日記
 







 昨夜の事。

 …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
 狐が薄々と眼を覚ました時、熊蜂の唸るような音はまだその弾力の深い余韻を狐の耳の穴の中にはつきりと引き残していた。
 其れをぢいつと聞いている内に……今は真夜中だな……と直覚した。
 そうして何処か近くでぼんぼん時計が鳴っているんだな……とぼんやりと思い又もやうとうとしている内に、其の熊蜂の唸りの様な余韻は何時となく次々に消え薄れて行つてそこいら中がひつそりと静まり返つてしまった。

 狐は括と眼を開いた。
 かなり高い白塗の天井裏から薄白い塵埃に蔽れた裸の電球がたった一つぶら下がつている。
 其の赤黄色く光る硝子球の横腹に大きな蝶が一匹泊まっていて凝然としている。
 其の真下の固い冷めたい人造石の床の上に狐は丸くなって寝ているようである。

 ……おかしいな…………。
 狐は丸くなつた儘に凝然と動かず、瞼を一ぱいに見開いた。
 そうして眼の球だけをぐるりぐるりと上下左右に廻転さしてみた。
 青黒い混凝土の壁で囲まれた二間四方ばかりの部屋である。
 ……おかしいぞ…………。
 狐は少し頭を持ち上げて自分の身体を見廻わしてみた。
 白い新しい見知らぬ絹の着物を着ている。下着はない。のーぱんである。
 ……いよいよおかしい……。
 胸の動悸がみるみる高まつた。早鐘を撞くように乱れ撃ち初めた。
 呼吸が其れに連れて荒くなった。
 やがて死ぬかと思うほど喘ぎ出した。かと思うと又、ひつそりと静まつて来た。
 ……此処は何処……。
 ……森閑とした暗黒が部屋の外を取巻いて何処までも何処までも続き広がつていることがはつきりと感じられる……。
 ……夢ではない……たしかに夢では…………。

 狐は飛び上つた。
 窓の前に駈け寄って磨硝子の向うを覗いた。
 暗闇の中で銀色の羽根を大きく広げた獣が歯を剥き出しにして唸りながら金色の瞳で狐を睨んでいる……。


 …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
 狐が薄々と眼を覚ました時、熊蜂の唸るような音はまだその弾力の深い余韻を狐の耳の穴の中にはつきりと引き残していた。
 其れをぢいつと聞いている内に……今は真夜中だな……と直覚した。
 そうして何処か近くでぼんぼん時計が鳴っているんだな……とぼんやりと思い、寝惚けているのだなとぼんやりと思い、変な夢を見たとぼんやり思い、又もやうとうとしている内に、其の熊蜂の唸りの様な余韻は何時となく次々に消え薄れて行つてそこいら中がひつそりと静まり返つてしまつた。


 狐は再び眠りの中にふらふらと堕ちていつたのでありました。


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