狐の日記帳

倉敷美観地区内の陶芸店の店員が店内の生け花の写真をUpしたりしなかったりするブログ

恋をしている時は思慮分別がきかない。つまり思慮分別がきく時は本当の恋をしていないのである。

2017年06月09日 21時45分42秒 | 知人、友人に関する日記





 或る夜の事。

 狐は先輩と一緒に或るパブリック・ハウスのカウンター席に腰をかけて、絶えずミルク入りの火酒を舐めてゐた。
 狐は余り口をきかなかつた。
 しかし先輩の言葉には熱心に耳を傾けてゐた。

 「私は私に好意を抱いている人は其の人が其の事を隠していても何となく分かるの」
 先輩は頬杖をしたまま極めて無造作に狐に云つた。
 「正確に云うと私は私に欲情している人は其の人が其の事を隠していても何となく分かるの」
 ふうん。狐にはよく分からない話です。
 「香りがね。違うの。そんな人は」
 ふうん。お馬さんも匂いで分かるみたいですね。そのような事は。私には分かりません。
 「君はその香りがどんなものか知りたくない?」
 いえ。知りたくはありません。
 「因みに私は今、君に発情しているのだけれども私の体の香りを嗅いでみる気はない?」
 セクハラはやめてください。知りたくないと云つているのです。
 「因みに君の体から発情した人の香りがするような気がするのだけれども其れは気の所為なのかな?」
 セクハラはやめてください。気の所為です。私が先輩に仮にでも発情してしまつたならば其れは我が身の一生の不覚。其の時は喉を突き此の世からお去らばいたします。
 「ふむん?」
 先輩はお喋りを止めて考え込んだ。
 狐の言葉は先輩の心を知らない世界へ神々に近い世界へと解放したのかもしれない。
 先輩は言つた。「私の事が好きな癖に」

 狐は何か痛みを感じた。が、同時に又歓びも感じた。
 人の好みとは様々なものであるな。面白ひものだ。





 そのパブリック・ハウスは極小さかつた。
 しかしパンの神の額の下には赫い鉢に植ゑたゴムの樹が一本、肉の厚い葉をだらりと垂らしてゐた。

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