今はもう昔の事。
狐が子供の頃のお話。
明るい昼間。皆は外に出ていて狐は獨り庭で遊んでおりました。
家に誰も居りませんでしたから、其処等はしんとしてゐます。
ところが家の何処かの座敷でかかつと子供の笑い聲がしたのです。
狐は震えながらこつそり行ってみましたが、どの座敷にも誰も居ず、刀の箱もひつそりとして、垣根の檜がいよいよ青く見えるきり、誰も何処にもいませんでした。
かかつかかつと子供の笑い聲が聞こえます。
遠くの百舌鳥の声なのか、野良猫が草叢を歩く音なのか、何処かで豆を箕にかけるのか、色々考えながら黙って聴いてみましたがやつはりどれでもないやうでした。
確かに何処かでかかつかかつと子供の笑い聲が聞こえたのです。
も一度こつそり座敷を覗いてみましたが、どの座敷にも誰も居ず、ただ御日様の光ばかり其処等一面、明るく降つておりました。
狐は呟きました。座敷笑子?
すると何処からか、はぁぁいという子供の聲がしました。
狐は吃驚して飛び上がつてしまいました。しかしどの座敷にも矢張り誰も居ませんでした。
暫らくするとかかつかかつという笑い聲は聞えなくなり、其処等はしんとした静けさが戻つてきました。
座敷童子? 狐は首を傾げながら庭に出て、その日は、陽が暮れるまで獨り遊びを楽しんでおりました。