永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて  (19)(20)(21)(22)

2018年02月05日 | 枕草子を読んできて
八    正月一日  三月三日は     (19)  2018.2.5
 
 正月一日、三月三日は、いとうららかなる。五月五日、曇りくらしたる。七月七日は、曇りて、七夕晴れたる空に、月いと明かく、星の姿見えたる。九月九日は、暁がたより雨すこし降りて、菊の露もこちたうそぼち、おほひたる綿など、もてはやされたる。つとめてはやみにたれど、曇りて、ややもすすれば、降り落ちぬべく見えたる、をかし。
◆◆正月一日、三月三日は、たいそううららかなのがいい。五月五日は一日中曇っている。七月七日は、曇って、七夕のころになって晴れている空に、月がたいへん明るく、星の姿が見えている。九月九日は、夜明け方から雨が少し降って、菊の花におおってある綿などが、自然にいっそうその香りをたかめている。早朝にはやんでしまっているけれど、曇って、ともすれば降り落ちてきてしまいそうに見えるのは、おもしろい。◆◆


■正月一日、三月三日=諸本いずれも漢字表記である。シャウグワチツイタチ、サングワチミカ、というふうに読む。

■五月五日=五月の節供。菖蒲を屋根に葺き、薬玉をつくる。

■九月九日=重陽の節供。この前日菊に綿をかぶせて、九日に露で濡れた綿で身を拭うと、老いを防ぐという。

                     

九    よろこび奏するこそ     (20)  

 よろこび奏するこそをかしけれ。うしろをまかせて、笏取りて、御前の方に向ひて立てるを。拝し舞踏し、さわぐよ。
◆◆(官位昇進の)御礼を主上に申し上げる姿こそ、いいものだ。裾をうしろに長く引くままにして、笏を取って、主上の御座の方に向かって立っている姿のすばらしさ。それから拝礼をし舞踏の礼をしてはげしく立ちうごくよ。◆◆


■よろこび=官位昇進の御礼奏上の作法。

■うしろをまかせて=下襲(いたがさね)の裾(きょ)をそのまま引いて。


                   

十    今内裏の東をば     (21)

 今内裏の東をば、北の門とぞいふ。楢の木のはるかに高きが立てるを、常に見て、「いく尋あらむ」など言ふに、権中将の、「もとよりうち切りて、定澄僧都の枝扇にせさせばや」とのとまひしを、山階寺の別当になりて、よろこび申しの日、近衛司にて、この君の出でたまへるに、高き屐子をさへはきたれば、ゆゆしく高し、出でぬる後こそ、「などその枝扇は持たせたまはぬ」と言へば、「物忘れせず」と笑ひたまふ。
◆◆(仮の)新内裏の東は、北の門という。楢の木のはるかに高いのが立っているのを、いつも見て、「いく尋(ひろ)あるかしら」などと言うのに、ある時、権の中将が「根もとから切って、定澄僧都(じょうちょうそうず)の枝扇(えだおうぎ)にさせたいものだ」とおっしゃったが、僧都が山階寺(やましなでら=奈良の興福寺)の別当になって、御礼奏上の日、近衛の役人として、この権の中将の君が出ていらっしゃっているときに、僧都は高い足駄をまでもはいているので、おそろしく背が高い、僧都が退出してしまったのちにはじめて、わたしが、「どうしてあの枝扇はお持たせになりませんか」と言うと、「物忘れしないね」とお笑ひになる。◆◆


■今内裏(いまだいり)=一条大宮院。内裏焼失のため、長保元年(999)六月ここに行幸、翌年二月まで仮皇居。定子は長保二年二月十一日から三月二七日、八月八日から二十七日の間滞在。

■北の門=本内裏の清涼殿にならって仮内裏でも左(東)の門を北と呼んだ。


                         

十一    山は     (22)

 山は、小倉山。三笠山。このくれ山。わすれ山。いりたち山。かせ山。ひえの山。かさとり山こそは、いかならむとをかしけれ。いつはた山。のち瀬山。かさとり山。ひらの山。床の山は、「わが名もらすな」と御門のよませたまひけむ、いとをかし。
◆◆山は、小倉山(京都・紅葉の名所)。三笠山(奈良)。このくれ山(未詳)。わすれ山(未詳)。いりたち山(未詳)。かせ山(鹿背山・京都と奈良の境)。ひえの山(比叡の山)。これらがおもしろい。かさとり山(片去り山?未詳)こそは、いったいどう脇へ寄るのだろうかとおもしろい。いつはた山(五幡・敦賀市)。のち瀬山(後瀬山・小浜市)。かさとり山(笠取山・京都)。ひらの山(比良山・滋賀県)。床の山(床は滋賀県か)は、「わが名洩らすな」と帝がお詠みあそばしたのが、おもしろい。



 いぶせの山。あさくら山、よそに見るがをかしき。いはた山。をひれ山も、臨時の祭の使ひなど思ひ出でらるべし。手向山。三輪の山、いとをかし。音羽山。まちかね山。たまさか山。耳なし山。末の松山。葛城山。美濃のを山。柞山。位山。吉備の中山。嵐山。更級山。姨捨山。小塩山。浅間の山。かたため山。かへる山。妹背山。
◆◆いぶせの山(未詳)。朝倉山(福岡県)は、よそに見るのがおもしろい。いはた山(未詳)。小領布山(未詳)も、石清水八幡の臨時の祭の勅使などが自然思い出されるにちがいない。手向山(奈良県)。三輪の山(奈良県)はとてもおもしろい。音羽山(京都)。まちかね山(兵庫県)。邂逅山(たまさか=兵庫県)。耳成山(奈良県)。末の松山(宮城県)。葛城山(奈良と大阪の境)。美濃のを山。柞山(ははそ山・京都府)。位山(岐阜県)。吉備の中山(岡山県)。嵐山(京都)。更級山(長野県)。姨捨山(長野県)。小塩山(京都府)。浅間の山(長野県)。かたため山(未詳)。かへる山(帰る山=福井県)。妹背山(和歌山と奈良の境)。これらもおもしろい。


■「わが名もらすな」=古今集「犬上の鳥籠(とこ)の山なる名取川いさと答へよわが名洩らすな」



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