永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(153)その2

2016年12月02日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (153) その2  2016.12.2

「人見て、『おはします』と言ふにぞ、すこし心落ちゐておぼゆる。さて『ここにありつる男どもの来て告げつるになん、おどろきつる。あさましう来ざりけるがいとほしきこと』などあるほどに、とばかりになりぬれば、鶏も鳴きぬと聞く聞く寝にければ、ことしも心ちよげならんやうに朝寝になりにけり。今もふと人あまたののしれば、せてふにてものしたり。『さわがしうぞなりまさらん』とていそがれぬ。」

◆◆召使が出て行ってみて、「おいでになりました」と言うので、すこし心が落ち着いたように思えました。さて、あの人が「こちらにいる召使どもが知らせに来たのでびっくりした。なんとも遅くなってしまって気の毒であった」などと話しているうちに時刻が経って、鶏も鳴いたが、それを聞き聞き床についたので、まるで気持ちよく寝たかのように朝寝をしてしまいました。一夜明けた今も、見舞いに来る人が多く、騒いでいるので、気持ちが落ち着かないでいました。あの人は、「もっと騒がしくなるだろう」と言って帰っていかれました。◆◆



「しばしありて男のきるべきものどもなど、かずあまたあり。『とりあへたるにしたがひてなん。かみにまづ』とぞありける。『かく集まりたる人にものせよ』とていそぎけるは、いとにはかに檜皮の濃き色にてしたり。いとあやしければ見ざりき。もの問ひなどすれば、『三人ばかりやまひごと、口舌』など言ひたり。」

◆◆しばらくして、あの人から、男の着物などたくさん届けてくれました。「ありあわせの物ばかりですが、長官にまず」とのことでした。「こうして集まっている人にあげなさい」ということで用意したものは、まことに急ごしらえで、濃い檜皮色に染め上げてあります。とても粗末なものだったので見ませんでした。焼け出された人たちの様子を問うと、「三人ほどが病気で、ぶつぶつ文句を言っている」などと言う。◆◆


■せてふにてものしたり=未詳。「せんかたなくものしたり」「ともかくものしたり」などの改定案あり。

■口舌(くぜち)=口の災い。非難中傷。

■檜皮(ひわだ)=蘇芳に黒味を帯びた色。



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