永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(156)

2016年12月14日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (156) 2016.12.14

「さる心ちなからん人にひかれて、又、知足院のわたりにものする日、大夫もひき続けてあるに、車ども帰るほどに、よろしきさまにみえける女車のしりに続きそめにければ、おくれず追ひ来ければ、家を見せじとにやあらん、とく紛れ行きにけるを、追ひてたづねはじめて、又の日かく言ひやるめり。
<思ひそめ物をこそおもへ今日よりはあふひはるかになりやしぬらん>

◆◆(私のような)そんな物思いなどなさそうな人に誘われて、また、知足院のあたりに出かけた日、大夫(道綱)も車で後についてきていましたが、私たちの車が帰るとき、相当な身分の者と見えた女車の後に付いて行き始め、遅れないようにその車を追って行ったところ、家を知らせまいとするのでしょうか、あっという間に行方をくらましてしまったのを、追いかけて、間もなく家を尋ねあて、次の日にこのように言ってやったようでした。
(道綱の歌)「あなたのことを思い始めて悩んでおります。逢う日の名を持った葵祭の終わった今日から来年の賀茂の祭りまで逢えないのでしょうか。早く逢いたい」◆◆



「とてやりたるに、『さらにおぼえず』など言ひかんかし。されど又、
<わりなくもすきたちにけるこころかな三輪の山もとたづねはじめて>
と言ひやりけり。大和だつ人なるべし。かへし、
<三輪の山まちみることのゆゆしさに杉立てりともえこそ知らせぬ>
となん。
かくてつごもりになりぬれど、人は卯の花のかげにも見えず、音だになくてはてぬ。
二十八日にぞ、例の、ひもろきのたよりに、『なやましきことありて』などあべき。」

◆◆と言ってやったところ、「全く心当たりがありません」などと言ってきたようでした。しかしまた、
(道綱の歌)「三輪山のふもとのあなたの家を尋ねはじめて、恋心が無性に募ったことです。古歌に恋しければ三輪山麓の杉の立った門を目当てに訪ねていらっしゃいとあるではありませんか」と言ってやった。大和に縁のある人なのでしょう。返事に、
(大和に縁のある女の歌)「誰との分らないあなたの訪れを待つのは気味が悪いので、目印の杉(私の家)を教えることは出来ません」のようでした。
こうして月末になったけれど、あの人は卯の花の陰に隠れるほととぎす同様、姿を見せず、音沙汰さえもなくて、この月も終わってしましたました。
二十八日に、例のように、あの人から、神社に参拝した折に、「気分がすぐれなくて」などとあったようでした。◆◆


■知足院(ちそくいん)=今は所在不明。雲林院(うりんいん)と並ぶ紫野の寺。賀茂祭の斎王還御の行列見物の適地。

■ひもろき=神に備えるもの

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