永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(198)その1

2017年06月13日 | Weblog
蜻蛉日記 下巻(198) その1  2017.6.13

「いま二日ばかりありて、『とり聞こゆべきことあり。おはしませ』とのみ書きて、まだしきにあり。『ただいまさぶらふ』と言はせて、しばしあるほどに雨いたう降りぬ。夜さへかけて止まねば、えものせで、『なさけなし、消息をだに』とて、『いとわりなき雨に障りてわび侍り。かばかり、
〈絶えずゆく我が中河の水まさり遠なる人ぞ恋しかりける〉」

◆◆それから二日ほどだって、右馬頭から「ぜひ申し上げたいことがあります。おいでください。」とだけ書いて、早朝に届けてきました。「早速お伺いいたします」と言わせて、しばらくしているうちに、雨がひどく降ってきました。夜にかけても止まないので行くこともできず、「心無いことです。せめてお手紙だけでも」と「あいにくな雨に妨げられて困っております。これほどにも、
(助の歌)「しじゅう伺っております私たちの仲ですのに、この雨で中川が増水して参れず、向こう側にいられる貴方が恋しくてなりません。」◆◆



「返りごと、
〈逢はぬせを恋しとおもはば思ふどちへん中川にわれを住ませよ〉
などあるほどに、暮れはてて雨止みたるに、みづからなり。例の心もとなき筋をのみあれば、『なにか、三つとのたまひし指一つは、折りあへぬほどに過ぐめるものを』と言へば、『それもいかが侍らん。不定なることどももあべれば屈しはてて、また折らするほどにもやなり侍らん。なほいかで大殿の御暦、中切りて継ぐわざもし侍りにしがな』とあれば、いとをかしうて、『帰る雁を鳴かせて』などこたへたれば、いとほがらかにうち笑ふ。」

◆◆返事には、
(右馬頭の歌)「逢えない私を恋しいとお思いなら、思う同士一緒に暮らしましょう。どうかわたしを中川のあなたの家に通えるようにしてください」
などとやりとりをしているうちに、すっかり暮れて雨も止んだころに、右馬頭が自分でやってきました。いつものように、なかなか結婚が待ち遠しいという求婚のことばかりするので、私のほうで「あらまあ、三つとおっしゃった指の中の一つは折り切らないぐらいあっという間に過ぎてしまうようですのに」と言いますと、「それもどうでしょうか。当てにならないこともあるようですから、すっかり気が滅入り切った果てに、また指を折らされる延期ということにもなりかねません。ですから何とかして大殿の御暦を、中ほどを切り取って、八月につなぐということにでもしたいものでございます」と言うので、とても面白く思って、「帰ってくる雁を鳴かせて、ね」などと答えると、とても朗らかに笑っていました。◆◆


■『帰る雁を鳴かせて』=雁は七.八、九月になると日本に帰って来て鳴くので、雁が鳴けばもう秋だと人は思うので。遠度(右馬頭)の言葉に合わせた作者の洒落。
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